『ドラゴン桜2』桜木建二が教える 2020教育改革
「数学の論理的思考、サッカーでも力に」元日本代表・岩政大樹さん
2019.09.19

小、中、高と、サッカーと勉強の文武両道を通した岩政さん。大学受験を目前に控えた高校3年生になっても、サッカー部の活動は秋まで続けた。しかし、岩政さんの生活スタイルは、それまでとほぼ変わらなかったという。ハードなスケジュールの中、どんなふうに大学受験にのぞんだのか、聞いてきたぞ。さらに、大学卒業後の進路をなぜ、Jリーグに定めたのかも、教えてもらった。
得意の数学を武器に東京学芸大学合格を勝ち取る
桜木:高3の夏休みといえば「受験の天王山」といわれる。そのときは、どんなふうに過ごしていたんだ?
岩政:夏休みもフルに部活があって、ふつうの受験生らしい時間の使い方はできなかったんですが、最低限の勉強は続けていました。サッカーの合宿に行っても、夜はひとり勉強してペースを崩さないようにしました。
秋までサッカーに打ち込んだらそこでやめて、大学で本格的にサッカーをやるつもりはありませんでした。ところが、引退するはずの最後の試合の直前、ケガをしてしまいました。不完全燃焼で高校のサッカー生活が終了したのです。
このままやめるのでは気持ちの整理がつかない。大学でもサッカーを続けようと決意して、進路を変えることにしたのです。
東京学芸大学(東学大)に狙いを絞ったのは、それまで目指していた広島大学と難易度が近かったことと、サッカー部が関東一部リーグに所属する強豪だったのが理由です。それ以外は、東学大がどのあたりにあるのかすら知りませんでした。
二次試験の科目が数学のみで受けられたのは、よかったですね。得意科目は数学だけだったので。得意というより、僕にとってはすごく簡単というか、向いていたんですね。いかに要領よく課題を解決するか、そのための工夫をしていくのが勉強だと僕は捉えていました。歴史の年表や英単語を大量に覚えなさいと言われると、からきしダメだけど、数学の場合は覚えるべきことは公式などほんの少しです。あとは解き方を覚えて、それを条件に沿って変化させて応用すればいい。そういうのが性に合っていたんでしょう。志望する学科も数学専攻にしました。
蹴球部に入部してすぐに頭角を現す
桜木:いちどはやめようと思っていたサッカーだが、大学に進学して蹴球部に入部した。
岩政:はい。すぐにレギュラーポジションを確保しました。ディフェンダーながら、1年次のリーグ戦で3得点を挙げ、新人王になりました。さらに、大学選抜チームの一員になるなどして、Jリーガーになるという選択肢も、視野に入ってきました。
それでも、授業にはきちんと出て、教員免許をとるための勉強も進めましたね。
数学が得意だったとはいえ、それまで要領のよさでカバーしてきたので、大学での数学の本質を学ぶ授業には、ついていくのがやっとでした。わからないところは自分で参考になる本を購入して勉強しました。
サッカー部との両立は大変といえば大変ですけど、授業には出ているのだし、試験も当たり前のことをやっていればなんとか単位は取れます。ゼミの先生はサッカー好きで僕を応援してくださっていて、遠征などで休みが続くときも理解を示していただいたのはありがたかったです。
そうやって在学中に無事、教員免許を取得しました。ただし、卒業後の進路は、教員ではなくJリーグを選びました。
チームに貢献できるプレーヤーになるために
桜木:複数のJリーグチームが動向を追う「大学ナンバーワンディフェンダー」になって、鹿島アントラーズに入団したな。Jリーグ屈指の強豪は、一流選手ばかりが集う場だったろう。
岩政:他の選手は僕から見たらみんなエリートです。高校サッカーのスターだったり、各年代の代表チームの常連だったり。技術的、身体能力的に言えば、僕は彼らの足元にも及ばない。もちろん、そうしたレベルの差を埋めるべく努めると同時に、他のところで勝負しなければならないと考えました。
ポイントは、いかにチームに貢献できるプレーヤーになるかということ。ここぞというところで身体を張る、チームメートに声をかける、一試合を通しても、シーズン全体を考えても、継続して同じパフォーマンスを見せる、といったことを、強く意識しました。そうした地味なことは、ずっと華やかなところでやってきた選手よりも、僕のほうが意識できるはずだから。それらを自分の長所にしようと心がけました。
桜木:うむ。仮に本人の弁の通り、スキルや身体能力で劣っていたとしても、情熱的な闘争心と献身性、冷静な判断力を合わせ持つプレーは名門チームの力となり、入団後すぐにレギュラーポジションを獲得したな。それから長い間、ディフェンスリーダーとして活躍した。
2007〜09年にはJリーグ3連覇を達成するなど、チームの黄金時代を中心選手として支えたな。プレーには、数学を勉強することで養われた論理的思考が大いに役立っているというが?
数学で養った論理的思考力が自身の支えに
岩政:数学というのは、論理を数式で表したものです。勉強していくと、論理的に考える力が養われていくもの。何もいちいち小難しい理論を述べ立てるのが論理的思考というわけではありません。ものごとの成り立ちや本質を見極め、課題に対する解決策を見いだしていくには、順序立てられ、よく整理された思考の型が必要で、それが論理的思考なのです。
人生においてこれが役立たない場面なんて、およそ考えられません。サッカーをプレーするうえでも、論理的思考はもちろん力になってくれます。プレー中は常に頭をフル回転させて、刻々と変わる相手と味方の動き、試合の流れをよく観察し分析し、自分の立ち位置やプレーを選択していかなければなりません。ピッチに立ったとき、僕はいつも、考えることをいっときもやめないよう、心に刻むようにしていました。
(ライター・山内 宏泰)
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いわまさ・だいき 1982年1月30日、山口県周防大島町生まれ。元サッカー日本代表、サッカー解説者。東京学芸大学教育学部(B類数学専攻)卒業。小学校2年生からサッカーを始め、大学の蹴球部在籍中に注目を集める。2004年、鹿島アントラーズ入団。その後、プロサッカー選手として海外、J1、J2等で活躍する。10年、FIFAワールドカップ・南アフリカ大会では日本代表に選ばれる。18年いっぱいで、現役を引退。
『ドラゴン桜2』
作者は漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したものの、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。学校理事として加わった弁護士・桜木建二が淡白な「現代っ子」たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに制作されていて、漫画を通じて実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。2018年1月から、雑誌「モーニング」(講談社)や「ドラゴン桜公式メルマガ」で連載中。2003~07年に同誌で連載したパート1は、廃校寸前の龍山高校に通う偏差値30台の高校生が、1年で東大に合格する姿を描き、話題になった。