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「三田会」はやっぱり強い! 公認会計士試験合格者数No.1 慶応義塾大

2019.12.11

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鈴木 絢子
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卒業生を各界に送り出す慶応義塾大は、公認会計士試験の大学別合格者数ランキングで、1975年以来44年連続の1位だ。強固な同窓会「三田会」のOB・OGの存在や、試験対策だけにとらわれない教育方針など、慶応義塾大ならではの風土がその実力を支えている。(撮影/朝日新聞出版写真部・片山菜緒子)

合格へ導く「二つの好循環」

「公認会計士」とは、国家試験と2年以上の実務経験などを経て業務資格が与えられる専門家である。特に企業や学校法人などの財務情報をチェックして承認する「監査」は、公認会計士でなければできない独占業務だ。

試験は合格率10%ほどの狭き門だが、その合格者数で首位を守り続けるのが慶応義塾大だ。圧倒的な強さの理由を、1980年に設置された同大商学部の付属機関「会計研究室」室長・友岡賛(すすむ)教授はこう解説する。

「要因の一つとして、国家試験に強いという伝統と実績が、より意識の高い学生を集めるという好循環が挙げられます。そしてもう一つは、学生や卒業生の母校愛が強いこと。彼らが後輩へのサポートを積極的に行い、その恩恵を受けた学生がまた後輩の指導に当たる。これもいい循環を生んでいます」

職種や地域ごとに組織されている「三田会」の中でも、約5千人という最多の在籍者数を誇るのが「公認会計士 三田会」だ。この数多くのOB・OGが、説明会のために来校したり、職場見学を受け入れたりする。社会で活躍する先輩たちのコミュニティーが、学生の支えになり目標にもなっているのだ。

友岡教授
会計研究室の室長を務める友岡賛教授。資格取得の最低年齢の引き下げを受けて、同大の付属高校でも講演するなど啓蒙活動に努めている

友岡教授は2017年10月に同研究室の室長に就任すると、資格取得のためだけの受験指導をやめた。代わって力を入れたのが、現役の公認会計士や大学教授を招いての講演会や監査法人の見学などといった、会計学全般の啓蒙活動だ。

「資格だけが目的なら専門予備校で事足りる。大学として、学生の選択肢を増やすような活動をしたいと考えています」

友岡教授のゼミナールからはすでに80人以上の公認会計士が巣立っている。試験には直結しないような講義を行っているが、「それを無駄だと切り捨てず『がんばってよかった』と言える子ほど、試験にも合格できるのです」と友岡教授は語る。

「役立たなくてもいい」心の余裕を

友岡教授自身は「公認会計士資格はもっていないし、めざしたこともない」と言う。専門としているのは実務ではなく「会計の歴史」だ。その成り立ちや変遷などの切り口から、会計を学問として研究している。

「会計をいわゆる『実学』だと思っている人が多いので、会計に歴史なんてあるのかと驚かれることもあります」と笑いながら、「すぐには役に立たない学問」の重要性を説く。

「資格試験のためのダブルスクールは、時として専門予備校がメインの『シングルスクール』になってしまうことがあります。社会に出てからそれを後悔している会計士の知人もたくさんいます。きれいごとかもしれませんが、若いときには、役に立たないかもしれないこともたくさん学んでほしいのです」

2018年5月に行われたシンポジウム
2018年5月に行われたシンポジウムのテーマは「研究者の立場と実務家の立場」。研究室の主な対象は会計士や税理士をめざす学生だが、学部・学年を問わずだれでも参加可能(大学提供)

友岡教授が掲げるアカデミックな観点での指導は、これからの時代にこそ必要とされるかもしれない。近年メディアで取りざたされる「AIに奪われる仕事」の候補に、会計監査の専門家が挙げられているからだ。

「人間より機械がやったほうがいい職業と言われるようになり、会計士資格もやや人気が下降気味です。ただ、たとえばAIがビッグデータを用いて示した分析を採用するかどうか、そういった最後の判断は人間にしかできないとも言われています。これは会計士業務に限ったことではありません」

機械を超えた判断に求められる周辺知識や状況の機微は、試験勉強だけで身につくものではないだろう。「役に立たないこと」を学ぶ心の余裕が、プロフェッショナルとしての仕事のクオリティーにつながるかもしれない。

友岡教授は「資格はあくまで『その道のプロフェッショナル』であるというだけのことですが、その肩書が、社会に出たときにその人自身の信頼性をも担保するものになります。腐るものではないから取っておいたほうがいいけれど、必ずしも会計士の仕事に携わらなくてもいい」と話す。その余裕ある発想が、確実に学生の選択肢を増やしている。友岡教授のゼミナールでは、会計士が多く輩出する一方、研究の道に進む人も多いという。同大で会計を学ぶ学生の層の厚さを示す結果でもある。

学問としても職業としても面白い

木下舞美さん(大学院商学研究科1年)は、大学院で研究に従事しながら、公認会計士試験の受験勉強をしている。同大商学部の在籍時から友岡教授のもとで学んできた。

「大学に入る前から、何かしらの資格を取りたいという希望がありました。入学後、大学生協が主催する会計士試験の説明会で先輩たちの話を聞いたことや、女性にとっても続けやすい仕事であることなどから会計士に興味をもちました」

木下さんはさっそく資格試験の予備校で試験勉強を始めた。当時は簿記の理論やルールをそのまま覚えるというやり方だったが、友岡教授のゼミナールに入ったことで会計自体への見方が変わった。

「会計の歴史を学んだことで、現在のルールがそもそも正しいのかどうかについても考えるようになりました。人間が作ったルールに完全はなく、必ずどこかに欠陥があります。その穴を探して補完しながら完全に近づけていくことが楽しくて、そこに会計の魅力を感じるようになりました」

木下舞美さん
木下舞美さん(大学院商学研究科1年)。人気のイベントである監査法人の職場見学には学部生時代に参加。「講義を受けないのはもったいない」と話す

職業としての会計士についても、すでに明確なイメージを抱いている。

「ルールに基づかない財務諸表が承認されてしまうと、株式市場がうまく回らなくなってしまいます。監査を正しく行うことの責任は重いですし、それによって社会全体をよくすることに携われるのが、会計士のやりがいだと考えています

だが、木下さんは進路をどうすべきか迷っていると話す。

「友岡教授のゼミナールでは、著書を読んで憧れていた研究者の方の講演が聞けたり、会計に限らずビジネス全般について学べたりと、世界が大きく広がりました。会計士として監査の仕事をすることも、研究を続けることも楽しそうだということが実感できて、どちらを選ぶか決めかねているんです」

「選択肢が増えた」からこその木下さんの悩みを、友岡教授は「迷うことができるのは幸せなこと」とほほ笑みながら聞いていた。

メモ

1858年、福沢諭吉が前身となる蘭学塾を開く。90年に大学部を発足し、創立から150年となった2008年には共立薬科大学と統合。現在は小学校から大学院までを有する。「科学」を意味する「実学」を建学の精神に、多様な分野での社会貢献をめざす。学部学生数は2万8643人(2019年5月1日現在、通信教育課程を除く)。

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<コラム>公認会計士になるためには、司法試験と並ぶ難関試験である公認会計士試験に合格することが必要となる。試験は短答式試験(マークシート方式)と論文式試験がある。2018年の公認会計士試験は、11742人が願書を提出し、合格者は1305人、合格率は11.1%。合格者の平均年齢は25歳で、最高年齢は55歳、最低年齢は18歳だった。

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