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アニメ動画で学ぶのは「議論」 橋か祭りか、子どもたちの投票で変わる結末

2019.12.10

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工藤 健
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若年層を中心とした政治への参加意欲・関心の低さは日本社会の大きな問題。2016年からは選挙権年齢が18歳以上に引き下げられ、ますます若者の政治に対する姿勢が問われています。そんな中、弘前大学の蒔田純専任講師が発案・制作した小学生向けアニメ動画「ポリポリ村のみんしゅしゅぎ」は、政治や選挙を楽しく学ぶものとして話題に。出前授業を行い、小学生たちに選挙をはじめとする政治活動に積極的に参加するよう語りかけています。

話を伺った人

蒔田純さん

弘前大学教育学部 専任講師

(まきた・じゅん) 石川県出身。2002年に早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了後、衆議院議員政策担当秘書や総務大臣秘書官、経済団体職員など、永田町・霞が関で政治・政策立案に携わった経歴を持つ。2012年には、政策研究大学院大学政策プロフェッショナルプログラム博士課程を修了。2018年4月に弘前大学に赴任。大学時代は演劇部に所属。

若者の政治離れの原因は、議論の場が少ないこと

「投票権が得られる18歳を前に、高校生になってから政治や選挙の大切さを教えるのは正直難しいんです。理解はできても、判断が受け身になりやすい傾向にあります。政治の仕組みや選挙について知るのは、若いうちであればあるほど望ましい。自己判断が身につき始める小学生から教えるべきだと考えています」

蒔田純さん

弘前大学教育学部で専任講師として働く蒔田純さんは、若者への政治教育についてこう語ります。蒔田さんは、大学院修了後に議員秘書などを10年ほど経験。さまざまな政治の現場を見る中で、若者の政治離れの原因は、教育現場でディベートやディスカッションといった議論の場が少ないことだと指摘します。

「政治の話をする人間は『難しい』といったイメージがあります。敬遠されてしまい、結果として政治に関する議論が行いにくくなっています。そういったイメージを払しょくするためには、まずは子どものうちから健全な批判や建設的な議論ができる習慣を作ることが大切だと考えました」

そんな蒔田さんが、個人研究として制作したのがアニメ「ポリポリ村のみんしゅしゅぎ」(以下、ポリ村)。ポリティクス(政治学)から名付けられた「ポリポリ村」を舞台に、限られた予算を使って「橋をつくって交通の便をよくする」と「毎年行われるお祭りを開催する」のどちらか一つを選ぶために、村人が投票を行うというストーリーです。

「ポリポリ村のみんしゅしゅぎ」

アニメを使った理由について、蒔田さんは「子ども向けに分かりやすく政治を教えたかったから」と話します。アニメーションは知り合いのアニメーターに依頼し、親しみやすいキャラクターを制作。声は演劇部出身の演技力を生かし、蒔田さん自身が演じています。

ねぷた・ねぶたに例えて、議論を活発化

ポリ村のアニメは計16分で、3本に分けられています。1本目は村の現状を伝える冒頭部分。それを踏まえて子どもたちが投票を行い、その結果によってその後のストーリーが2つに分岐しています。

蒔田さんは、アニメ動画を使った出前授業を今年6月から開始。弘前大学教育学部附属小学校などの県内10校で実施し、現在は県外からの依頼も届いています。

「出前授業では冒頭部分を見せた後、子どもたちに議論させています。限られた村の予算を使って生活のための橋をつくるか、伝統的なお祭りを優先させるか、双方の意見を比較し、結論を決めさせるといった思考プロセスを体験します。なかには子どもらしい発想や意見もあり、こちらが驚かされるんですよ。村の予算をどちらか一方に使うのではなく、どちらにも少しずつ使うといったアイデアや、村長を2人にするといった前提をくつがえすような意見も。子どもたちの新たな発想は、ストーリーの改善に役立てています」

画像提供:蒔田純さん
画像提供:蒔田純さん

授業を繰り返すうちに、蒔田さんは子どもたちの議論を活発化させるコツをつかみます。それは、身近なことに置き換えること。青森の子どもたちには夏祭り「ねぷた」「ねぶた」をポリポリ村の祭りに置き換えて考えてもらう方法でした。

「『ねぷた・ねぶたは楽しいからなくなると困る』と、身近な問題としてとらえた意見が出るようになります。これは、青森の小学生ならではの素直な反応ではないでしょうか。青森県民にとって『ねぷた・ねぶた』は短い夏を楽しむ伝統のお祭り。子どもにとっても夏の風物詩なんですよね」

ポリ村の分岐する二つのアニメには、「投票に行かなかった」という共通のキャラクターが登場します。蒔田さんによると、「このキャラクターは投票へ行かなかったデメリットを伝えるために作った」とのこと。政治への参加意欲を促す重要なキャラクターで、物語の中では投票後に決まったことによって自分の生活に不都合が生じ、政治に参加しなかったことを後悔します。 

「納得感のある意見が出たとしても、そこはやはり子どもなんです。大人の顔色をうかがいながら『選挙は大事』と言う子も中にはいますから。しかし、ポリ村を使った授業は、議論の習慣を身につけたり、多くの人の意見をまとめる社会プロセスを知る場になっていたりする点では、効果的であると言えます」と蒔田さんは話します。 

授業の最後のアンケートでは、「選挙や政治に対する意識が変わった」という反応が多く、ほとんどの子どもが「話し合いをしても決まらなかったときは投票で決めるのがよい」と回答しました。子どもたちの将来によい影響を与えられている、と強く実感しているのだそうです。

「こうして議論の場を一時的につくることは可能ですが、習慣づけるには議論の訓練を続けるしかありません。社会のルールはどのように決まっているのか、なぜ選挙が必要なのか。政治の仕組みを授業で学び、自分事としてとらえることで、問題の解決策や考え方など、子どもたち自らが判断する自発的な姿勢をつくっていきたいと考えています」

蒔田純さん

海外進出、そして学生たちとコンテンツ作り

今後は海外への出前授業も計画している、と夢を語る蒔田さん。すでにポリ村の英語版を完成させています。「民主主義を広めたい」という思いに国境はなく、政治を変えられるのは一人ひとりの一票だと説明します。

「子どもたちにどう伝えればいいのか、といった質問をいただくことがありますが、必ずしも現在の政治について説明する必要はありません。例えば、投票所に連れていくなど、自分にも関係のあることだと思えるような経験を少しずつ積み重ねていくことが大事です」

蒔田さんは現在、学生たちと一緒にポリ村の別ストーリーを考えているとのこと。プレゼンしながらブラッシュアップすることで、興味をもたれやすいストーリーを目指しています。

「社会にはさまざまな意見があり、自分一人で考えるテーマには限界があります。学生たちにも議論する場を与え、民主主義や政治への関心をもっと持ってほしいですね。政治のイメージを変えることが若者の政治離れを防ぐ手段ではないでしょうか」

(撮影:八木橋スタジオ 編集:阿部 綾奈/ノオト)

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