新しい教育のカタチを考える

フェリス出身の「お笑いジャーナリスト」たかまつななさん 子供に社会問題を考えてもらいたい

2019.12.13

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藤田 佳奈美
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若者の社会問題への関心の低さの背景には、「当事者意識を持つためのきっかけがない」と話すお笑いジャーナリストのたかまつななさん。お笑い芸人として活動する一方、そのお笑い技術をフックにSDGsなどの普及や認知活動にいそしんでいます。起業家や活動家 とさまざまなフィールドで精力的に活躍する彼女の、そのバイタリティーの根源とは。そして、子どもたちも「自分ごと化」して社会と関わるためには。お話を伺いました。

話を伺った人

たかまつななさん

お笑いジャーナリスト/株式会社笑下村塾 取締役

1993年7月5日、横浜市生まれ。フェリス女学院出身のお嬢様芸人として、テレビ・舞台で活動する傍ら、 お笑いジャーナリストとして、お笑いを通して社会問題を発信している。慶應義塾大学大学院と東京大学大学院情報学環教育部在学中に株式会社笑下村塾を設立。同社取締役として主権者教育の普及・啓発や講演会、イベント企画などを手がける。SDGsの普及活動にも従事。
たかまつななチャンネル https://www.youtube.com/user/takamatsuch

政治や社会についてもっと“若者”が主語になるために

――たかまつさんが「笑下村塾」を立ち上げた経緯は?

3年前に18歳選挙権が導入されたとき、初めて若者が政治の場で主役になれたと感じました。それまでは芸人として売れたらいつか出張授業をしたいと考えていたのですが、このタイミングを逃すともう一度波に乗るのは大変だし、乗らない手はないと思って、会社を立ち上げました。

――なぜ政治や社会問題に興味を抱いたのですか?

小学4年生のときにアルピニストの野口健さんの環境学校に参加したことがきっかけでした。青木ケ原樹海でバスやトラックの不法投棄を見たんです。それまで富士山周辺はとてもキレイだと感じていたので、現場を目の当たりにしてすごくショックを受けました。そのとき野口さんに「こういう違和感は、大人は見て見ぬふりをするから、子どもの君たちが伝えてほしい」と言われて、社会問題を解決したいと思ったんです。

廃車
野ざらしの車

――笑いで世直しをしようと思った理由は?

環境学校で芽生えた使命感を抱きながら中学生になり、子ども記者として取材活動を始めました。でも、全国紙に署名入りで、富士山の不法投棄についての記事が掲載されても全然反響がなくて。どうすれば関心がない人から反響が得られるか悩んでいたタイミングで、お笑いが一つの手段としてあるんじゃないか、と思うきっかけがありました。それは爆笑問題の太田光さんの著書「憲法九条を世界遺産に」(集英社新書)。この本を読んで、芸人さんならではの視点や発想に感動し、伝え方の重要性を感じました。振り返れば野口さんの講演も漫談家みたいで面白かったんですよね。きっとただ愚直にやっても伝わらない。それで私も笑いを介して社会問題を伝えていきたいと思ったんです。

伝記や課外活動から“生き様”を学んだ

――どのような小学生時代を過ごしてきましたか?

ニュースやドキュメンタリー番組しか見ないような家庭で育ちました。年末には家族でその年の情勢の振り返りをしなければならなくて、話についていけないから一応勉強するのですが、それが苦痛でしたね。学歴主義の親からは「勉強しろ」とばかり言われましたが、勉強は不得意で。だから男の子に交じってサッカーしたり、本を読んでいたりすることの方が好きでした。

――勉強が不得意だったなんて意外です。そのときご自身に影響を与えた本は何ですか?

ナイチンゲールや福沢諭吉、吉田松陰、エジソン、キュリー夫人などの伝記を読んでいました。伝記から学んだのは“生き様”。勉強して知識や学歴を得ることができるけど、それをどう使うかが大事だと思うんですよね。

例えば、自分だけもうかっていればそれでいいという考えは、とても危険だということ。アメリカは市場原理が働いていて自己責任論が強いけれど、一方でセレブリティーが寄付する風潮が根付いている。だけど日本ではまだまだそうじゃない。私は伝記を読んでそれに気づきました。他にもフェリス女学院時代に読んだ聖書には「隣人のためにする」などの記述が随所にちりばめられていて、誰かのために何かをすることについて考えるきっかけになったんです。

たかまつななさんが「笑い」でかなえたい教育のあり方

――勉強が不得意だったのに、どうやってフェリス女学院に入学したのですか?

小学6年生の12月くらいにようやくスイッチが入って、冬休み明けは学校へ行かずに1日16〜18時間くらい受験勉強をしていました。お風呂でも勉強していたし、食事中も片手で教科書を読んでいましたね。みんなは塾などで満遍なく勉強していたみたいですが、私は受験に受かるための勉強しかしなかった。「フェリスはこの問題が出る、ここは出ない」みたいに、フェリス対策だけしてとにかく効率的な勉強をしていました。でも入学してからすぐに落ちこぼれましたし、勉強は楽しくなかったです。

――学校より課外活動の方が肌に合っていた?

そうですね。記者活動が楽しかったんです。企画を考えて、通ったらいろいろな業界の一流の人に会いに行ける。ますます社会問題の解決のために奮闘しようと思えました。

SDGsは誰かのためであり、自分のため

――大手企業はSDGsに取り組んでいますが、個人ではまだまだ「自分ごと化」できていない人が多いと思います。たかまつさんはなぜSDGsが大事だと思えたのでしょう?

社会課題を解決する際に、私一人が活動していてどうなるのだろうという虚無感が強くて。CSR(企業が倫理的観点から事業活動を通じて、自主的に社会貢献する責任のこと)という考え方もありますけど、企業のイメージアップとして行っている場合もあるから、本質的じゃないし広報の一環でしかない。社会課題に向き合うことは、予算がつきづらく、できることが少なかったんです。

だけどSDGsはそこに投資という概念が入ってきた。例えばグリーンファイナンスだと、企業が気候変動にどれくらい対応しているのか情報開示することが進められています(企業の環境活動を金融を通じてうながす新たな取り組み=資源エネルギー庁)。それは、投資家が企業の取り組みを知り、投資判断をするための重要な基準となります。SDGsは、経済を巻き込んで企業が積極的に取り組まざるを得ないようにしているのです。そして、これまでに無償で取り組んできたことにもお金が発生するようになった。「もうけないと一回きりで終わってしまう。それは持続可能じゃないよね」と言ってもらえることが増えたんですよ。今までのCSRだとそうならなかった。これはかなり革新的です。

――少ない予算で一時的な問題解決を図ろうとするのではなく、投資を受けて持続的に社会問題に取り組めるというところに魅力がある、と。SDGsを介して、たかまつさんが目指す世界とはどんなものですか?

たかまつななさんが「笑い」でかなえたい教育のあり方

私たち日本人は、日本に生まれただけで超ラッキーだと思います。戦争もないし、病気も治療しやすいし、生活保護制度もある。だけど世界のどこかで誰かが迫害されているという事実に無関心でいていいのでしょうか。私は遠くにいる人のことも自分のことのように考えることが大事だと思うんです。グローバル化で、ネットワークがつながっている今だからこそ、それが実現できると思います。

――具体的にはどのように実現できるとお考えですか?

例えばNetflixが日本の課題を風刺したスタンドアップコメディーやドキュメンタリー番組を作るだけで、みなさんハッと我に返るんじゃないでしょうか。#MeToo運動においても日本では伊藤詩織さんが注目されています。世界中で声があがっていることが、だんだん自分たちの問題だと思えるといいなと思います。

――もっと当事者意識を持つにはどうしたらいいですか?

社会貢献すると楽しいということをみんなに味わってほしいですね。教育現場で、お笑いを交えて社会貢献に関する授業をした後、生徒から「選挙に行こうと思いました」「社会とつながりを持てた気がする」などたくさんの“ありがとう”をもらいました。そのとき、誰かのためにやっているつもりが、自分のためにやっているんだなって気づいたんです。社会貢献は自己実現や働きがいも実感できる。それは何も仕事の中で感じなくてもよくて、プロボノ(プロフェッショナルな知識や経験を生かして行うボランティア活動)でも感じることができます。社会貢献は結果的にwin-winでみんなが幸せになれると思います。

これからはアクティブラーニングで本質的理解を深めることが大事

――たかまつさんが政治教育で大切にしていることは?

本質的なことを伝えないと意味がないので、何で政治が必要なのか、何でルールがないとダメなのか、なるべくわかりやすい言葉で教えています。一番難しい言葉は「民主主義」だと思います。主権者は国民であるということを小学校で習うけれど、わかりづらいですよね。なので私は、物事にどういう決め方があるかということから教えます。

民主主義は数で決めるものだと伝えていますが、例えばアメリカでは同性の結婚を認める法律があります。圧倒的に異性愛者が多い中でも、話し合いでそう決まったんです。一方で、独裁者のヒトラーも民主主義で首相になった人なんですよ。民主主義は私たちの使い方次第だから、誰かに任せていいものじゃない。そうやって丁寧に話して当事者意識を持ってもらうよう工夫しています。

――そこにお笑いのエッセンスを加えると、子どもたちに興味を持ってもらえるのですか?

お笑いは感情を動かすことができるんですよね。私の政治教育はお笑いを届けるのが目的ではなく、あくまでも手段。お笑いで培った伝える手段を教育に落とし込んで、出張授業する芸人さんに負荷がかからないよう設計しています。そして、今の学校現場でできることを大事にしているので、先生にも保護者にも負担をかけないよう学習指導要領の中で行うことを第一にしています。

――アドオンで負担を強いずに、持続可能な授業を目指しているんですね。授業をしていて、今の教育のあり方についてどう思われますか?

たかまつななさんが「笑い」でかなえたい教育のあり方

正直、今の教育に対しては懐疑的です。知識丸暗記型でいいのかなって。これからはアクティブラーニングが必要だと思います。年号なんて検索すればすぐわかることを教えるよりも、検索力を高めたり、フェイクニュースを見極める力をつけたりするほうがいいですよ。それよりもっと大切なのは選挙に行くこと。主権者教育はとても大事で、なぜなら社会に参加しないと、どの問題も解決できないからです。

ですから、私は社会に出てから意味があることを伝えていきたいんです。SDGsやキャリア教育以外にも、金融教育や性教育、労働教育などについても教えていきたいですね。お金のことって習わないから急に困ることもあるでしょうし、望まない妊娠や過労死問題など、どれも全て自分の身を守るために知っておいてほしいと思っています。

――たかまつさんの授業を受けて、社会問題に対する意識が芽生えたお子さんたちは多いと思います。次のステップとして、具体的にどうしたらよいと思いますか?

それ、よく聞かれるんですよ。「社会問題に対して持続的に目を向けていくには何をしたらいいですか?」って。具体的な情報をどこで摂取したらいいかわからないと。でも実際は政治に興味を持っても持続可能なものがないし、このメディアを見ておけば安心なんていうものもないんです。

とはいえ、私の授業だけで完結させたくない。なので次のアクションとしてYouTubeで教養番組の配信を始めました。功を奏して10〜20代の視聴者が多いのですが、今のところ大赤字。難しいけれど、これからも一人ひとりが社会問題に対して取り組めるよう頑張っていきたいです。

(撮影:辰根東醐 編集:阿部綾奈/ノオト)

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