小学校での英語教育

英和辞典版「辞書引き学習」のススメ 達成感と言葉への興味がアップ

2019.12.23

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金 漢一
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来年度から、小学校での外国語活動が3、4年生に引き下げられ、英語を学ぶ年齢が一段と早くなります。わが子をどのように英語に目をむけさせるか、心配する保護者も多いはず。日本語を入り口にして英語に接してもらおうと、英和辞典による「辞書引き学習」を授業に導入した小学校を訪ねました。

今年2月、東京都の品川区立小山台小学校を訪ねた。英語による「辞書引き学習」を5年生の後半から導入し、約1年が経過したとのこと。卒業を控えた6年生の英語の授業を取材した。

小山台小のある品川区は英語に力を入れていて、1年生から英語の授業がある。校内は英語で書かれたポスターであふれ、階段の蹴込板(正面に立った時に見える板)には、1段目から one、two、three... と書かれた英語が貼ってあり、つい読みながら上ってしまう。保護者の中には授業を手伝う英語ボランティアもいるという。

授業は、担任と英語専科指導員である JTE(Japanese Teacher of English)が協力しあうチーム・ティーチングという方式で行う。この日の授業は、あいさつや振り返りを含めて六つの要素で構成されていた。「桃太郎」をリズムに乗って英語で語り、デジタル教材を使った授業などが続いた後、辞書引き学習の時間となった。

「辞書引き学習」は深谷圭助・中部大教授が提唱した学習法。そもそもは国語辞典を使用するが、深谷先生のさらなる指導によってこの授業に導入されたのは英和辞典版だ。英和辞典にはアルファベット順に英語の項目が並ぶ。しかし探す言葉は英語ではない。英語の意味として書かれている日本語から知っている言葉を探して、その項目の英語を付箋(ふせん)に書く。そして掲載ページの上の部分に貼る。付箋にはあらかじめ通し番号を振っておいて、自分が単語をいくら調べたかわかるようにしてある。ここまでが普通の「辞書引き学習」だが、同小が行ったのは、その「発展型」となる。

1年間辞書につけてきた付箋を外して、自分が決めたテーマに沿って、プリントに貼りなおす。表紙には「My Dictionary」とある。つまり、調べた英単語を整理して「マイ辞書」をつくるという作業だ。オーソドックスにアルファベット順に並べる児童、動物や植物、自分の趣味といったジャンル別にそろえる児童など、それぞれの辞書作りに取り組んでいた。児童の声で活気があった教室が10分ほど静かになった。進度はさまざまだったが、みんなが自発的に作業を進めていた。

プリントの表紙には、My Dictionary
プリントの表紙には、My Dictionary

同小のまとめによると、「英和辞典がアルファベット順になっているとわかった」「同じページに書いてあったものを何となく読んだら、いろいろなことを知った」「付箋がたまっていくのを見るのが一番好きだった」「日常生活で使う言葉が実は英語だったことに驚いた」などの反応があった。

昨年末には、横に4本線が引かれた、英語用の付箋が小学館から発売された。CやOなど、大文字と小文字が似たアルファベットをきちんと区別して書くことができ、字の大きさをそろえやすくなったと児童たちにも好評だ。

アルファベット順に付箋を並べた My Dictionary の例
アルファベット順に付箋を並べた My Dictionary の例

「辞書引き学習」って何?

辞書引き学習は、小学生用の紙の辞書と付箋、そして筆記用具さえあればできる。辞書を引けば引くほど、辞書は付箋でいっぱいになっていく。どのくらい辞書を引いたのか実感できると同時に、達成感も得られる。子どもたちは競うように楽しんで言葉を調べる。深谷教授は、ひらがなが読める小学1年生から始めることを推奨している。言葉に対する興味が高く、学習姿勢にも前向きな時期だからだ。

付箋を貼った英和辞書(小学館提供)
付箋を貼った英和辞書(小学館提供)

辞書引き学習は、1990年代に開発された。2006年に深谷教授の著書が刊行されてから一般に広まり、小学生向けの国語辞典の売り上げが大きく伸びたのは、辞書引き学習が浸透した結果とも言われる。同学習法は漢和辞典でも実践できる。

知らない言葉よりも、知っている言葉を積極的に引かせるのが辞書引き学習のポイント。それは英語の辞書引きにもあてはまる。英語のつづりがまだわからない小学生は多いはずだ。本来の辞書の目的とは異なるが、前述の通り、調べるのは英和辞典に載っている日本語である。

まずはどこでもいいから辞書を開いてみる。その中には小学生でも知っている単語がきっと載っている。例えば、カタカナで書かれた外来語はどうだろう。果物のマンゴーやメロンという言葉を見つけたら、その英語である mango、melonという言葉を書き出してみる。

2020年度から小学5、6年生で英語が教科となり、外国語活動は小3からに引き下げられる。20年以降実施の学習指導要領では、外国語活動の授業を受ける期間を含めて600~700語程度を学ぶように小学生に求め、これが中学校で学ぶ英語の土台になるとしている。ちなみに英検5級は600語、同4級では1200語だ。

小4が知っている外来語はおよそ2千語に及ぶという。すべてが英語派生とは限らないし、多くは名詞になるが、辞書引きで相当数の英単語に接することが可能になる。英和辞典を使った辞書引き学習には、英語に親しみながら、アルファベットを書く練習を同時にできる効果がある。

英語を初めて習っても、潜在的に知っている英単語があるというのは自信につながる。英語、日本語にかかわらず、この学習法の大事な効果は、生徒が自発的に、楽しみながら辞書を引く習慣がつくということだ。

世界に広がる jishobiki

辞書引き学習を提唱した深谷圭助・中部大教授(教育学)にお話を伺いました。

話を伺った人

深谷圭助さん

中部大教授(教育学)

― 辞書引き学習に着眼した理由は?

1992年ごろ、小学校の教員として低学年を担当しました。当時はインターネットやコンピューターはあまり普及していない。何か調べるとなれば、図書館に行くか、辞書で調べるのが主流でした。

国語の授業で国語辞典を使います。しかし、買ってはいるけど実際はあまり使われない。きっかけやモチベーションがないからです。なので、意識的に使うように仕向けていました。例えば、コップとグラス。何がコップで、何がグラスなのか。身近な言葉を取り上げて調べさせていました。

付箋が家庭などに出回ってきた時代でした。昔は辞書のページの角を折っていましたが、調べた言葉に付箋を貼ってくる子が出てきた。そして、付箋が増えていくことを面白がっている子がいた。付箋が多いと勉強した量を実感できる。クラスに真似する子どもが増えてきた。

「先生、調べた言葉だけではなく、読んだ言葉にも付箋を貼っていい?」と聞いてくる子がいました。それを了承したら、こんな言葉がある、あんな言葉があるという子どもが増えてきた。その時、辞書を読むだけでも、子どもにとっては意味のあることなのだなとおもいました。

― 辞書は調べるだけではないと?

それまで辞書は読むだけでは価値がないと思われていた節がある。例えば、読書。ストーリーのある本をすすめるが、ストーリーのない辞書は読んでも読書ではないと思っている人がいます。辞書には、言葉を探す楽しみがある。そこに辞書引き学習の原形があります。

そこから、どのような付箋がいいのかという話に進みます。1ページにどれだけ貼れるのか。5枚くらいだろうか。なら、どのくらいの幅がいいのか。のりの付いた部分はどのくらいが適当か。そこからスリーエムから出ている辞書引き用付箋が生まれました。英語用の付箋は小学館から出ています。

― 英国やシンガポールでも、辞書引き学習の指導をされています。

現地の先生は当初懐疑的でしたが、その効果に驚いています。短期的には、言葉に対する好奇心、そして自分自身で言葉の意味を見つける主体性を育てる意味がある。長期的には、スペリングの改善に効果があると思っているようです。英語のほかには、タミル語を教えるインドの学校からも声がかかっています。辞書引き学習は、中国語を専門にする吉川龍生・慶応大教授と研究を進めています。

― 外国での授業を撮影した動画を見ると、外国の生徒たちも「jishobiki」と語っていますね。

実は、jishobikiという言葉が定着して、英語の辞書に載るのが目標なのです(笑い)。 

Asahi Weeklyは朝日新聞社が発行する週刊英字新聞です。

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