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ジョブズのように非合理的なことをやらなアカン 京都大・樋口雅一さんに聞く学びのヒント

2020.03.25

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沢辺 雅俊
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勉強を楽しむヒントをさぐる「エンスタナビ」のスペシャル版。京都大学iCeMS(物質―細胞統合システム拠点)の樋口雅一特定助教に研究のおもしろさや、これからの学びのヒントを聞きました。

研究には発見の楽しさ

640エンスタ樋口先生
眼鏡をかけるときは「真顔の男」。手前の容器に入っているのがPCPで、1粒は50ミリグラム。1グラム(20粒分)の表面積はサッカー場1面の広さに匹敵します=京都市左京区の京都大学

――その眼鏡ですけれど……。

ニュートンのリンゴで「物理学」、三角フラスコで「化学」、ミジンコで「生物学」の融合をあらわしています。ミジンコがかじったリンゴをダンクシュートする瞬間です。「楽しそうだから」と眼鏡屋さんと相談してつくりました。小学生向けの講演でも「かけたい!」と反応がいいですよ。

――そもそも、どのような研究をしているのですか。

気体などの小さな分子が入ったり出たりする材料の研究です。PCP(多孔性配位高分子)と呼ばれる新素材。すごい数のあながあいていて、空気中を浮遊している分子を吸着、分離できます。1997年に京都大学の北川進先生が発見しました。先生はノーベル化学賞の候補の一人。たとえば鉄やペットボトルのもと(ポリエチレンテレフタレート)などをうまく反応させると結晶構造ができます。

ぼく自身は水素を入れる物質を研究しています。水素はエネルギーにかえるときに二酸化炭素が出ない。コンパクトに大量に運ぶことができれば、水素をエネルギー源とする「水素社会」の実現につながります。

――研究のおもしろさとは?

PCPの研究はブロックの組み立てと同じ。つくりたい形(構造)がつくれます。エックス線を使えば、どんな形でどんなあながあいているかがわかる。世界で8万種以上ありますが、ぼくも10~20つくっています。

研究ということなら、発見の楽しさですね。実験は大学4年ぐらいから本格的に手がけたりしますが、自分が実験して自分が最初にデータをみられます。世界で最初に発見にありつけるのは、めちゃくちゃワクワクします。

――どんな中高生時代を過ごしましたか。

剣道部でしたが、練習がものすごく厳しかった。高3の県大会で引退しましたが、受験勉強は「何て楽なんだろう」と感じました。机に座って勉強するだけですから。「うわー、しんどい」という体験も、いま考えると役立ってます。

興味の「点」の数が個性に

――PCPの実用化をめざすベンチャー企業も創業しましたね。

大学の基礎研究は0だったものを1にするようなもの。ベンチャーはリスクをとりながら1を10に、大企業は10を10000にするようなものです。ぼくは0を1にするのが好きですが、10を10000にするのが好きな人もいる。好きなものは、それぞれ違って当たり前。いろいろな経験を積み、自分にあう場所を見極めるのが大事だと思います。

――中高生へのメッセージを。

一見すると非合理的なことをやらなアカンと思います。(アップルの創業者)スティーブ・ジョブズは「コネクティング・ドッツ」(点をつなぐ)と表現しましたが「横ぐしを刺す」ということ。彼は興味がない必修の授業がいやで大学は中退していますが、興味があった「西洋書道」の授業にはこっそり出て、美しい文字について学びました。それが製品をつくるときに生かされたそうです。

イノベーション(刷新)の起こし方やアイデアのつくり方、人生の過ごし方も、ぼくなりには同じで、究極は「組み合わせのおもしろさ」。自分の興味のまま熱中したことの組み合わせから新しいものが生まれます。そのドット(点)をどれだけもっているか、その組み合わせが、その人にしかできない表現になり、個性となるのです。

できるだけ遠いものを学んでおく方がいい。遠いものほど、ほかの人はやっていないからです。分野にとらわれず、興味がおもむくままでいい。レオナルド・ダビンチが川の流れや渦をずっとみていたのが、のちに人体の血流や弁の理解につながったようなものです。

エンスタ未来の学び640

  ※朝日中高生新聞2020年1月1日付

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