『ドラゴン桜2』桜木建二が教える 2020教育改革

定期テストも学級担任も廃止…千代田区立麴町中、画期的改革に「シンプルな共通項」

2020.04.06

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桜木 建二
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東京・千代田区立麹町中学校。この名前、聞き覚えある向きも多いだろう。中間・期末テストはしない、宿題を出さない、固定担任制はやめる、服装頭髪指導をおこなわないこととし、生徒、教員、保護者がそれぞれ自律した主体となることを標榜して、大きな話題と成果を挙げた公立中学校である。2014年に校長に就任し、この改革をなしたのが工藤勇一さんだ。工藤さんにその画期的な指導について聞いてきたぞ。

宿題、テスト、担任制を廃止。斬新な改革で成果

国会や最高裁判所がすぐそばの一等地にある麹町中学校の校長室へ話をうかがいに行った。工藤さんは真っ先に、麹町中学校が2019年に発行した「学校だより」を、うれしそうに見せてくれたぞ。 

「今日は僕たちの3年間を振り返って、2つの話をしたいと思います」

「学校だより」には、こんな出だしの長い文章が載っている。

「第71期 卒業生の言葉」と題されたものだ。前年度の卒業式で、卒業生代表の生徒会長が壇上でしたスピーチが、丸ごと載っているんだ。扱うテーマの数量を冒頭で明示するところなど、スピーチのポイントを押さえていてみごとだな。続けて、

「最初の話は『リスペクト』です」「この学校では何度も聞いた言葉だと思います」

 と、スピーチは展開し、癖の強い卒業生がたくさんいた実例を挙げたうえで、個性やチャレンジを尊重できる環境で中学生活を過ごせたことに感謝するのだ。

そして、もうひとつの話へとスピーチは移る。「ゴール」、つまり目標について話頭が転換されるのだ。その年の体育祭の目標は「全員が楽しめる体育祭」だったので、「全員リレー」という種目をやらない判断をしたという。運動が得意じゃない生徒からの少数意見を尊重してのことだ。

こうして自分たちが中学校で学んだ成果を披露したのち、周りへの感謝の言葉で締めくくる……。文面を読むだけでも涙腺が刺激されるいいスピーチだ。

 「実際には、プレゼンテーションとしても完璧だったんですよ。ヘッドセットをつけて、Appleのスティーブ・ジョブズのように歩きながら、堂々と。もともと人前で話すのが少し苦手な生徒会長だったのに、最後にはバッチリ決めてくれました」

 改革を成し遂げた中学校といえば聞こえはいいが、定期テストもなければ風紀検査もしないようで学校運営が本当にうまくいくのか、生徒をうまく指導できるのか?との疑問はどうしても湧いてくる。その疑問への答えとしては、先ほど紹介した卒業式での生徒のふるまいを挙げていいだろう。ビジネスパーソンも顔負けのプレゼンテーションができてしまうほどに、麹町中学校の生徒たちは自律した存在に育って卒業していくのだ。

教育は民主的で平和な社会を保つためにある

 どのようにして公立中学校での改革が実現したのかといえば、

 「シンプルな話ですよ。最上位の目標を忘れないようにして、そこへ向かって進む。その際には目的と手段を取りちがえないように注意すればいいだけなんです」 

麹町中学校の方針は、この原則に沿ってできていると、工藤さんは教えてくれた。

 「持続可能なかたちで、民主的で平和な社会を保つこと。それが私たちすべてにとって最上位の目標であることを疑う人は、少ないんじゃないでしょうか?
そんな社会を実現するための礎として、学校教育というものはあるはずです。ならば、その目標へと進むための手段を着々と講じていくしか道はありません。
人類社会の目標へと進むには、一人ひとりが自律して主体的に行動することが必須です。となれば、教育とは子どもにそういう力を身につけさせるためのものとなります」

子ども本来の主体性を奪う日本の学校

 「そもそも子どもというのは、主体的な生きもののはずです。赤ん坊のときから幼児までは、自分の興味のあるものに反応しながらみずから学んで、できることを増やしていくじゃないですか。それなのに、幼稚園などに入るととたんに、『みんな仲よく』『みんないっしょに』などといわれ、自分の思いを殺すことを覚えさせられる。
小学校に入ればその流れは一挙に加速します。先生の話をよく聞きなさい。手はおひざの上ですよ、と。するとそのうち子どもの中には、先生の話や親の話をよく聞くのが何より大事なんだという軸ができていきます。
それをいつも守るかどうかはともかく、『自分で考えて判断したりせず、大人のいうことを素直に聞くのがふつうだし、いいことなんだ』と刷り込まれていくわけです。その時点で、子どもの中の主体性は奪われてしまいますね。そのまま中学校から大学までも、同じ路線の延長線上で進んでいきます。
日本で育つたいていの子どもが陥ってしまうこの思い込みを、なんとか外していかなければいけない。麹町中学校でやっているのは、ただそれだけ。シンプルな話だというのはそういうことです」

課題のある子も多く、1年半はリセットに注力

麹町中学校は公立校なので、生徒は選抜を経て入ってきた特別な子どもたちというわけではない。日本の教育に染まり、主体性を奪われた状態で入学してくる子も多い。ほかの中学校と同じように、麹町中学校でも新入生を受け入れた時点では毎年、課題が山積した状態であると工藤さんはいう。

確かにかつては「番町麹町日比谷東大」という言葉まであったものだ。公立で教育を受けるのが主流だった昭和のころあたりまでは、番町小学校~麹町中学校~日比谷高校~東京大学という学歴こそ、エリート中のエリートとされたのである。

が、時代はすでに移っている。特別ではない地元の子どもたちが入学してくる現在の麹町中学校では入学間もないころ、「中学受験の勉強をたくさんやらされたけど落ちてしまった、もう勉強なんてしたくない」「大人は嫌い、とにかくいうことは聞きたくない」といった姿も見られる。

ストレスからくる攻撃性が、同級生や教師に向かってしまう例だってある。

 「自分を好きになれなかったり、何らかの劣等感を抱いたりしていると、何かほかの人やモノのせいにしないとやりきれなくなってしまうのですね。うちではそこを1年から1年半かけて、リセットしていきます。
要となる行事はいくつもあって、まずは入学して1か月後に千葉の南房総でオリエンテーション合宿をします。プログラムは、教員と生徒の信頼関係づくりを促す活動ばかり。チームで協力して乗り越えるアウトドアゲーム、本音で話し合う場のグループエンカウンターなどです。
他校のオリエンテーション合宿は学習規律、生活規律、集団行動を植えつけるための機会とすることが多いようです。たとえば時間厳守を徹底させるため、朝はラジオ体操をするからどこそこに何時に集まれと。
一見問題ないようですが、その方法だと、子どもたちの最上位目標が『時間を守る』ということになってしまう。本来なら最上位目標は、人権を守るとか、自分がやられて嫌なことは人にしないといったことであるべきなのに。
しかも強制されたり怒鳴られたりしながらのことが多いので、子どもはどうしても『怒鳴られないためにはどうするか』を真っ先に考えることとなっていきます」

次回も、麹町中の指導について掘り下げて聞いていくぞ。

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(ライター・山内宏泰)

※この連載の最新版は、LINE NEWS「朝日こども新聞」(月、水、金 8:30配信)で読めます。

話を伺った人

工藤勇一さん

1960年、山形県鶴岡市生まれ。数学教諭。千代田区立麹町中学校前校長。東京理科大学理学部(応用数学科)を卒業後、山形県の公立中学校で教える。その後、東京都の公立中学校でも教鞭を執り、東京都教育委員会、目黒区教育委員会を経て、新宿区教育委員会教育指導課長などを務める。2014年から2020年3月まで千代田区立麹町中学校校長、数々の改革をおこなう。出演番組は「カンブリア宮殿」など。主な著書に『学校の「当たり前」をやめた。』(時事通信社)などがある。

『ドラゴン桜2』

作者は、漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したが、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。弁護士・桜木建二が生徒たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに、実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。雑誌「モーニング」(講談社)や「ドラゴン桜公式マガジン」(note)で連載中。

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