『ドラゴン桜2』桜木建二が教える 2020教育改革

統制も宿題も徒労 学校の「当たり前」を変え、自立と成長促す場に

2020.04.20

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桜木 建二
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前回は、千代田区立麹町中学校の前校長・工藤勇一さんに、「理想と目標を明確にして進めば子どもは変わる」という指導の柱について語ってもらった。では、日々、どのように生徒と向き合っているのか? 本質ではないところで叱っていると、生徒が先生を信用しなくなる要因にもなると工藤さんは考えている。

目的と手段をはきちがえない指導を意識

麹町中学校では、日ごろの学校生活で、服装頭髪検査はしない。そこを厳しく統制するのに時間と労力を使うことは意味がないとの判断からだ。

宿題についても同様だ。宿題を出すと、それをこなすことが目的になってしまう。結果、もうしっかり理解している内容でも、宿題だからとまた繰り返さないといけなかったり、わからない範囲があるのに宿題じゃないからといってやらなかったりということが起こり得る。

 「宿題となれば、花という漢字をすでに知っていたとしても、花という漢字を30回書かなければいけない。徒労ですよね。考えてみてください、すでに知っている花という字を、何の疑問も持たずまた30回書く子どもが、みずから進んで課題解決のできる大人になれるでしょうか。
主体性を奪いかねない宿題は、麹町中学校では出すことはしません

中学版・企業研修で自分の言葉で話すスキルを磨く

麹町中学校では、授業中もその他の時間でも、先生が生徒を叱ることはまれで、内容もかぎられる。人権、命、犯罪に関わることについては厳しくあたるものの、そのほかの余計なことを叱ったりはしない。

叱られるから直す、叱られたからやる、という行動原理が染みついた生徒にはとまどいも大きいようだが、徐々に「リセット」が進んでいく。

「体育祭、文化祭も生徒の自主性に委ねられています。さらには2年生の夏前には『スキルアップ宿泊』があります。2泊3日で徹底してグループ活動をおこなうものです。僕のアイデアで始めたのですが、企業研修の中学生版と考えていただけるといいでしょう。グループごとに分かれて、課されるミッションに取り組んでいきます。
KJ法やマインドマップといった思考ツールを用いて、グループ内で対話を進め、アイデアの拡散・収束を繰り返しながら意見を集約していき、最後にはプレゼンテーションをします。
この行事を通じて生徒は、意見の対立があるのは当たり前、その際には対話を試みて合意形成をすること、そうなると『自分の言葉』で話せるというスキルが、生きていくうえでいかに重要かということを学んでいきます」 

全員担任制で明確になった子どものためにという目的

生徒に自律と成長を促すからには、当然ながら教員の側にも同じことが求められる。過去を踏襲して、去年や一昨年と同じ授業や指導をするような態度ではいられない。

「そうですね、先生たちも成長していっているんだと思います。常に学び続けていますしね。ただ、教員になる人というのはもともと学ぶのが好きですから、ストレスはないと思いますよ。
全員担任制をとっているのも、教員の側からするとかなりやりやすいはずです。無理な競争原理が働かず、ほかの教員に勝とうとしなくていいので、『教員は子どものために』という目的が明確になります。いかにスムーズに手厚く、子どもの支援やケアをできるかと考えた場合、全員担任制のほうが明らかに優れていますよ」

学ぶ側も教える側もともに成長していく……。確かにそれが教育現場の理想のありかただろう。理想に近づくため、変えるべきことは躊躇なく変えていく。それが工藤さんの流儀というわけだ。

ドラゴン桜マンガ工藤先生
ドラゴン桜マンガ工藤先生2
『ドラゴン桜2』から(C)三田紀房/コルク

教育現場の「当たり前」を疑ってみる

こうなると不思議なのは、ほかにはない改革を続々と打ち出す工藤さんの頭の中だ。なぜ、かくもたくさんアイデアが生まれ、それを実行するノウハウを思いつくのか。

 「かつて教員として教壇に立っていたころから、教育の現場で起こる問題に、ひとつずつ解答を探し続けてきました。どうしたら教育を本当に変えてそれを日本中に広められるか、ストーリーをずっと考えてきたのです。自分なりに道筋が見つかったのは、10年くらい前でしょうか。それを現在、実践しているところです。
私が教員生活を始めたのは山形県でのこと。5年間勤めたのち、東京へ移りました。地域によるちがいを実感できたのも大きかったですよ。山形では問題なかったことが東京ではダメとされることも多かったので。
『置き勉』という概念は、東京へ来て初めて知りました。教科書をはじめ勉強道具を学校に置いていってはいけないという決まりごとですね。なぜダメなのか、まったく理解ができませんでした。
倒れる子が頻出しているのに、朝礼を立ったままやることも疑問でした。倒れるのがわかっているなら座らせればいいじゃないですか。これも結局、目的がすり替わってしまっている。忍耐させることが教育ということになってしまっているのです。
変えたいところはたくさん見えてくるけれど、一教員ではすぐにものごとを変えられない。まずは子どもたち、保護者、教員仲間からの信頼を積み重ねるしかありませんでした。
校長になろうと決めたのは38歳のころでした。一国一城の主になりたいというのではなく、日本中の教育を変える第一歩としての実践ができると思ったからです。
校長というのは、教育を変えるには最高の立場なんですよ。プレイングマネジャーだし、子どもや保護者にも直接やりとりできる。単独でもグループでもいろんな研究ができるし、学校にどんな人でも集うことができます。そこに集う人間をみな当事者に変えていけばいいのですから」 

子どもが生まれたときの喜びを親は忘れないで

かねて抱いてきた理想が、こうして一つひとつ具現化しているわけだ。

学校は変わり得るということを示してくれた工藤さんから、親へのアドバイスがあるとしたらどんなことだろうか。

子どもが生まれたときの喜び、あの幸せな気持ちを忘れないでいましょうと改めていいたいですね。ほかの子と比べたり、または自分自身ができなかったことをわが子に投影して託したりするために、育ててきたわけではありませんよね。
子どもにみずから成長する力を身につけさせたいなら、親も初心に立ち返るよう努めたいところです」

ドラゴン桜0416工藤先生

(ライター・山内宏泰)

※この連載の最新版は、LINE NEWS「朝日こども新聞」(月、水、金 8:30配信)で読めます。

話を伺った人

工藤勇一さん

1960年、山形県鶴岡市生まれ。数学教諭。千代田区立麹町中学校前校長。東京理科大学理学部(応用数学科)を卒業後、山形県の公立中学校で教える。その後、東京都の公立中学校でも教鞭を執り、東京都教育委員会、目黒区教育委員会を経て、新宿区教育委員会教育指導課長などを務める。2014年から2020年3月まで千代田区立麹町中学校校長、数々の改革をおこなう。出演番組は「カンブリア宮殿」など。主な著書に『学校の「当たり前」をやめた。』(時事通信社)などがある。

『ドラゴン桜2』

作者は、漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したが、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。弁護士・桜木建二が生徒たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに、実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。雑誌「モーニング」(講談社)や「ドラゴン桜公式マガジン」(note)で連載中。

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