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都内の中学生、9割が近視!? 子どもの視力低下の背景は 防止策は

2020.02.14

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田幸 和歌子
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「中学生の約9割が近視」――そんなニュースが昨年8月に報じられ、話題になりました。子どもの近視が増えているのは、なぜなのでしょうか。調査を行った慶應義塾大学研究グループの坪田一男教授に伺いました。

話を伺った人

坪田一男さん

慶應義塾大学医学部眼科学教室 教授

(つぼた・かずお) 慶應義塾大学医学部卒業。米国ハーバード大学留学、東京歯科大学教授・市川総合病院眼科部長などを経て、2004年から現職。2016年に近視研究会を発足させ、近視の予防に関する研究と啓発に注力している。角膜診療の世界的権威であり、日本のドライアイ治療、角膜移植治療を牽引してきた。

世界で近視が急増。日本でも東京都内の小中学生が増加傾向に

慶應義塾大学の研究グループが東京都内の小中学生約1400人を対象に行った調査によると、小学生689人のうちの76.5%、中学生727人のうちの94.9%が近視にあたるという衝撃の結果が出ました。しかも、中学生では少なくとも9.9%にあたる72人が「強度近視」だったとか。

 確かに近年、メガネをかけている子どもが増えた印象があります。近視が増加する現状について、坪田一男教授はこのように話します。 

中学生の9割が近視!? 視力低下の防止策は?

「近視は、日本国内だけではなく、世界的に増加傾向にあります。特にその勢いが顕著なのが、日本をはじめとした東アジアで、香港、台湾、シンガポール、韓国では1950年からの約60年間で20歳の近視の人が約4倍に増加しています。その増え方はほとんどパンデミック並みと指摘されています。しかも、問題は『数が増えていること』だけではありません」

 かつて近視は子どものうちになるもので、大人になるとそれ以上は進まないと考えられていました。実際、大人になると近視の進行が止まる人は多いそうですが、近年では大人になっても進行が止まらない人が増えているのだといいます。

「子どもの近視はたいがい進行します。あまり進まずに軽度から中程度でおさまればいいのですが、先の中学生の調査結果からわかるように、進行して強度近視になる人も増えている傾向です。近視が強いと、加齢とともに、網膜剥離や黄斑変性、緑内障といった、失明や重度の視力障害につながる病気が合併症として起きやすくなります。平均寿命が80歳を超える現代、子どもの近視予防は重要な課題です。日本のある地域で行った調査では、重篤な視力障害の第一位は、近視性黄斑症という、強度近視の合併症によるものです 」

近視の原因として注目されている「外遊びの減少」

近視の原因は、「遺伝」と「環境」だと考えられてきました。しかし、同じ遺伝子を持つ一卵性双生児でも、近視になる人とならない人がいることから、遺伝は近視のなりやすさの要因の5割にしかなりえないことがわかっています。さらに、「環境」に関していえば、近視が多いとして知られる東アジアでも、昔からこんなに多かったわけではなく、増加が始まったのは1950年以降だとか。では、なぜこんなにも近視が増えたのでしょうか。

「今のところ、近視のエビデンスとして確立されているのは、小学生から高校生の間に最も急激に進行するということ。勉強や読書との関係性もよく指摘されますが、勉強していても近視にならない子もいます。また、パソコンやスマホなどのデジタル機器が目に負担を与えることは確かですが、まだその関係が明らかになるような研究結果は出ていません。そもそも近視が増加し始めた60年代には、それらは存在していませんでした。そうしたことから、現時点で多くの研究者が近視急増の要因として注目しているのが、『屋外で遊ぶ時間』の影響なのです」

屋外活動による近視抑制効果は、世界的に認められている事実。欧米で行われた研究では、両親の近視の影響とその他の環境因子の影響を比較して調べたところ、両親ともに近視でも屋外で遊ぶ時間が長ければ近視になる率が低くなり、両親ともに近視でない子どもでも屋外で遊ぶ時間が少ないと近視になる確率が高まるという結果も出ているそうです。

その要因として「太陽光の量や強さ」「ビタミンDとの関係」「外で体を動かすこととの関係」など、さまざまな研究が進められてきましたが、何がどう関与しているのかは明らかになっていませんでした。そんな中、世界で初めて近視との関連が発見されたのが、慶應大学の近視研究チームによる、ある光との関係でした。

中学生の9割が近視!? 視力低下の防止策は?

「近視とは、目の形によるものです。正常では、眼球はボール状ですが、目の奥行き(眼軸といいます)が長く伸びてしまうのが近視です。赤ちゃんは生まれた時はまだ眼球の成長途中で、眼軸長(眼球の長さ)が短く、遠視の状態です。成長とともに眼球も成長し、眼軸も伸びていきます。本来は、ちょうど良いところで眼軸長の伸びが止まるはずなのですが、これが止まらずに伸びてしまうと、近視になってしまいます。それが小学校高学年頃から急に近視が増える理由です」

つまり、近視の進行を抑制するには、眼軸長の伸びを抑えることが必要ということ。そこで登場するのが、坪田教授のグループの研究による「光の影響」です。

 「私たちがヒヨコを用いて行った近視の実験の結果、眼軸長の伸びを抑制するのは、360-400nmの波長だとわかりました。これは可視光の中で、紫外線に最も近い『バイオレットライト』、紫色の光です。このバイオレットライトは日中の屋外にたくさんありますが屋内にはないため、今の子どもたちの生活から大幅に失われています。理由は、ライフスタイルの変化とともに子どもの屋外活動の時間が減少していること。また、紫外線が皮膚の老化や皮膚がんを引き起こすことがわかったことにより、紫外線のリスクを考慮し、メガネや車や住宅のガラスなど、様々なところでUVカットが施されるようになり、紫外線とともに、バイオレットライトもカットされてしまっているためです」

しかも、屋内環境で使われている蛍光灯やLEDライトにはバイオレットライトは含まれていません。紫外線をカットした結果、皮肉なことに、目にとって必要な光までもカットしてしまったというわけです。

普段の生活の中で取り入れたい「近視予防7項目」

では、近視を予防する、あるいは進行を止めるにはどうしたら良いのでしょうか。

「伸びてしまった眼軸長を戻す方法は今のところありません。世界で推奨されている予防法は、外で遊ぶことです。理想は毎日2~3時間外で遊ぶこと。日光に当たることが大切で、運動はあまり関係ないという報告もあります。また、外の光環境は強いため、日陰でも十分です。曇りの日でもOK。夏は帽子をかぶることや、熱中症対策をしっかりしてください」 

中学生の9割が近視!? 視力低下の防止策は?

また、睡眠不足や長時間の近見作業も近視との関連が指摘されています。いろいろな要因が重なって現代人の近視発症を加速させている可能性もあるといった指摘も。そこで、家庭でできる対策として坪田教授が勧めるのは、「近視研究会」が作成した「学童の近視進行予防7項目」です。

1) 1日にできれば2時間は外で遊ぶようにしましょう。

2) 学校の休み時間はできるだけ外で遊びましょう。

3) 本は目から30cm以上離して読みましょう。

4) 読書は背筋を伸ばし、良い姿勢で読みましょう。左右どちらかが本に近い状態にならないよう、均等な距離になるようにして読みましょう。

5) 読書・スマホ・ゲームなどの近業(近くを見る作業)は1時間したら5~10分程度は休み、できるだけ外の景色を見たり、外に出てリフレッシュしたりしましょう。

6) 規則正しい生活(早寝早起き)をこころがけましょう。

7) 定期的な眼科専門医の診察を受けましょう。

出典:近視研究会

しかし、毎日2時間「外遊び」を行うというのは、学校に塾、習い事と多忙な毎日を送る現代の小学生にとって簡単なことではありません。理想をいえば、将来的には360nm以下の紫外線は防ぎつつ、バイオレットライトを通す窓ガラスや、屋外環境光のLEDなどが欲しいところですが、現時点ではまだありません。

そこで坪田教授ら研究チームは、バイオレットライトが透過するメガネを開発。「JINSバイオレットプラス」としてすでに市販されているほか、近視進行抑制の臨床研究もスタートしています。また、子どもが屋内にいても浴びられるよう、バイオレットライトを発光するメガネも医療機器として治験中で、2023年頃の販売を目標としているそうです。つい効果がすぐに出るものを期待してしまいがちな私たちですが、坪田教授はこう警鐘を鳴らします。

「現代は電気の発明によって夜が明るくなり、自然のリズムと異なるライフスタイルが問題になってきています。目だけでなく、子どもたちの体と親御さんの健康を考えても、日光を浴びて外で遊ぶことは非常に大切なのです」

(撮影:辰根 東醐 編集:阿部 綾奈/ノオト)

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