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国税専門官採用数No.1中央大学 「生きた税法」と現場のリアルを体感する学びとは
2020.02.26

税のスペシャリストとして国税局や税務署の第一線で納税の不正を防止し、国の財源を確保する「国税専門官」。人事院が実施する採用試験を経て採用される専門職だ。採用数でトップを誇る中央大学(東京都八王子市など)の学びに迫った。(撮影/朝日新聞出版・小黒冴夏)
税務訴訟は興味深い
国税専門官は、(1)確定申告書などをもとに申告、納税が適正に行われたか調査する「国税調査官」、(2)税金の督促や財産差し押さえなどの滞納処分を行う「国税徴収官」、(3)悪質な脱税者に対し強制捜査を行い、刑事告発する「国税査察官」(通称マルサ)の三つに分類される。
「国税専門官は税金のGメン。犯罪を取り締まる警察官のようなもので、社会になくてはならない仕事です」と語るのは、中央大商学部の酒井克彦教授。国税専門官の研修機関である税務大学校でも講師を務めているため、志望者に求められる素養を熟知している。
「法律に基づいて客観的に真偽を検証できること、相手の話を聞き出して説得力のある答弁をすることが大切です」

こうした力を培うべく、酒井教授は税務訴訟の実例をテーマにしたディベートをゼミに取り入れている。訴訟内容は学生が興味をもちやすいものばかり。たとえば、ペット葬祭は非課税対象の宗教行為なのか、課税対象の営利事業なのか。義歯や義足、義手は医療費控除の対象だが、めがねは控除の対象となるのか。学生は国側と納税者側に分かれ、参考文献を深く読み込んだうえで討論。他大学の税法ゼミへ〝道場破り〟に行き、意見を戦わせることもある。
「税法は生きた学問です。座学で暗記や計算をするだけではおもしろくない。学生たちには、世の中でどういうことが起きているか具体的なイメージをつかんでほしい」

税務のトップが語るリアル
酒井教授のゼミには国税専門官、公認会計士、税理士をめざす学生が多い。そうした学生に向けて、現役の国税局の局長、日本税理士連合会会長をはじめ、多くの実務者が頻繁に講演するのもゼミの特徴だ。実務内容のほか、仕事においてどんなことで苦しんでいるのか、喜びを見いだしているのか、現場の生の声を学生に伝えている。
「ゼミで学ぶうちに税金っておもしろいと思うようになりました」と話すのは、商学部4年の山田成美さん。もともとは公認会計士をめざしていて、民間企業の就職活動もしたが、「直接的に人の役に立つ仕事をするなら公務員。それも、ほかの公務員とは違う専門的知識が必要とされる国税専門官になりたい」と考えるようになった。3年生の夏から試験勉強をはじめ、第一志望の国税専門官に内定。「公平公正な税制とは何か考え続け、納税者から信頼される国税専門官になりたい」と目を輝かせる。

手厚いキャリアサポート
中央大といえば法曹に強い伝統があり、司法試験の合格者数も上位常連だが、近年は国税専門官を含む国家公務員試験対策にも力を入れている。2016年からは専門学校・大原学園と提携した公務員試験対策講座をキャリアセンターが主催。1コマ120分で全12回の授業を8000円という安価で提供するほか、面接対策の指導も行う。
卒業生の結束力も強く、キャリア相談会には多数のOB・OGが駆けつけ、後輩たちにアドバイスを送る。キャリアセンター副課長の松岡亜希子さんは「OB・OGの方々は、公務員をめざす後輩の力になりたいとボランティアで来てくださいます。学生側の参加者の半数は1年生なので早いうちから将来像を描けますし、3年生や4年生は残された時間で何をするべきかアドバイスを受けられます」と話す。

前出の国税専門官内定者の山田さんも、こうした大学のキャリアサポートを利用した。
「コツがあって難しい採用試験の数的処理問題も、大学の公務員講座のおかげであまり時間をかけずに対策できました。先輩方のお話を聞くイベントもたくさんあって、モチベーションが上がりました。面接では併願状況や仕事内容を把握しているかどうか、全国の税務署の数、ストレス耐性はあるかといったことが聞かれると教えていただけたのも助かりました」
実社会と結びついた学問と手厚いキャリアサポートが、未来の税の番人を育んでいる。

メモ
中央大学 1885年、英吉利法律学校として創設。1905年、中央大学に改称。本部所在地は東京都八王子市。学部学生数2万4873人(2019年5月1日現在)。学部は法、経済、商、文、理工、総合政策、国際経営、国際情報の8学部。建学の精神は「實地應用ノ素ヲ養フ」。

<コラム>国家試験合格者数や国家公務員の採用ランキングでは、大学ごとの強みがあらわれる。公認会計士では慶応義塾大が44年連続の1位。一級建築士は日本大が1位で、前年比で28人多い209人が合格した。弁理士は東京大が36人で1位、16人から29人に増やした京都大が2位に浮上した。国税専門官は中央大が1位、裁判所職員一般職は小樽商科大が1位だった。(数字はいずれも2018年)