学習と健康・成長

これって「10歳の壁」? 不安を抱える我が子に親ができることとは

2020.02.28

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田幸 和歌子
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子どもが反抗的な態度をとるようになったり、自信をなくしたりと、不安定な状態に陥るといわれる「10歳の壁」。学習面や内面の変化について不安を抱える我が子に対して、親ができることとは? 「花まる学習会」代表の高濱正伸先生に伺いました。

話を伺った人

高濱正伸先生

花まる学習会代表/NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長

(たかはま・まさのぶ)1959年、熊本県生まれ。東京大学農学部卒、同大学院農学系研究科修士課程修了。1993年に「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、作文や読書、思考力、野外体験を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を設立。「伸び続ける子が育つお母さんの習慣」(青春出版社)ほか、著書多数。

10歳前後でいもむしからちょうちょに変わるのが「10歳の壁」

――「最近、うちの子の様子がちょっと変。もしかして『10歳の壁』?」と考える親御さんは多いようです。そもそも「10歳の壁」とはどんなものなのでしょうか。

「10歳の壁」という言葉は、最近多くの方が口にするようになりましたが、30年くらい前は誰も言っていなかったんですよ。これは簡単に言うと、幼少期から思春期に移行する時期に起こる内面的な変化のこと。子どもは平均して10歳前後に、いもむしからちょうちょに変わるくらい、全く別の生きものに変態するんです。親にとっては、ただただかわいかった子が、3~4年生になると妙につっかかるようになったり、5年生くらいになると本気で親とケンカするようになったりします。これは、いもむしがちょうちょに変わるために、誰もがぶつかる壁です。でも、それを理解していない親御さんがとても多い。

現場で感じてきた教育の失敗事例として、小学1年生で学ぶことと6年生で学ぶことは全く違うのに、同じように接してしまう親御さんが多いことが挙げられます。例えば学習面でいうと、お母さん方は自分が高校時代にしていた勉強法の記憶で、子どもに対して「復習しなさい」とよく言います。その意味が通じるのは、4~5年生から。にもかかわらず、その意味がわからないうちにやらせてしまうから、子どもはどんどん勉強が嫌になってしまう。逆に、4年生くらいになると「お母さんは私に受験させたいんでしょ?」などと冷静に言うようになってくる。しかし、お母さんは低学年のときと同じように「宿題したの?」と聞くから、子どもは怒るんです。

――「10歳の壁」かどうかがわかるサインはありますか。

例えば、親につっかかってきたり、反発してきたりすること。また、「お母さんって意外とだらしないね」といった、冷静かつ客観的な言葉が出てくることもあります。友人などと話しているときに、自分の母親のことを「あの人」と呼んだりするのもそう。信号がいろいろあるんですよ。子どもが家で見せる顔と外で見せる顔が違うということは多々あります。そのため、親がSOSに気づかないことも。

ただし、「10歳の壁」が「ちょうど10歳になったらくるもの」と思われてしまうと、困ります。よく勘違いされるのですが、「10歳の壁」は幼少期から思春期に移行する時期のこと。歯が生え替わる、毛が生える時期が一人ひとり違うように、訪れる時期はそれぞれ異なります。にもかかわらず、厳密に10歳と思い込んでいる親御さんは「もう10歳なのに、変化がないのはおかしい」などと心配してしまうんですよね。

――一般的に女の子のほうが男の子より成長が早いとよく言われますが、「10歳の壁」が訪れるのもやはり早いのでしょうか。

ちょっと早い傾向にあると思います。女の子はそもそも精神的に男の子より上位にあることが多いんです。それから、実は女の子の「10歳の壁」は、案外大きいんですよ。女の子とお母さんのバトルはよくあって、ののしり合いをするケースもあります。一方で、「男の子は全然わからない」とお母さんたちはよく言いますが、それは「10歳の壁」というより、男女の違いが大きい。お母さんにとって、男の子はいつの時期も「わからない」ものですから。

これって「10歳の壁」? 不安を抱える我が子に親ができることとは

思春期の子が欲しているのは「世の中のリアル」

――内面的な成長などから起こる「10歳の壁」。その本質的な原因は、何なのでしょうか。

子どもがいもむしからちょうちょに変わっているのに、それに気づかず、親御さんがいもむしと同じ扱いをしてしまうこと。すでにいもむしからちょうちょに変わっている子に対しては、親のほうも幼少期とは全く違うアプローチをしなきゃいけないんですよ。特に、思春期の女の子が母親から聞きたいのは、約束や命令じゃない。「人生って甘くないよ、お母さんが仕事してるとき、こういう上司がいてね」とか「お母さんはお父さんと結婚する前に○人と付き合ったんだ」というような大人の世界のリアルな話には、「マジで?」と食いついてくるものなんです。

――リアルな話のほうが子どもは食いつくからこそ、親はフタをしようとする傾向がありますよね。

そう。それがまさに「10歳の壁」の原因です。子どもが大人になりつつあることを、親は認めようとしないんですよね。現実を見るようになった子どもにはリアルな話でないと響かないのに、幼少期と同じように扱い、いろいろ口出ししてしまう。特に長子の場合、初めての子だから、目が届いてしまい、口数が多くなりがちです。でも、長子は親の言うことをある程度聞いてしまうことが多いから、無理してしまう。「あなたのためを思って言っている」と言えば言うほど、上の子はつぶされてしまうんです。それを見て2番目の子は「ああはなりたくない」と考えるようになり、3番目は親に放置されがちというのが平均的なパターン。「10歳の壁」の問題が一番大きいのは、長子ですね。

――「10歳の壁」で思春期にさしかかった子が考えているのは、どんなことなのでしょうか。

「世の中のリアルを知りたい」ということです。これまで教えられてきた道徳のままに「いけないと思いまーす!」と言うのが幼少期だとしたら、現実を客観的に見るようになり、「結局カネじゃん」とか「世の中ってそんなに甘くないじゃん」と思うようになるのが思春期。そうした子どもに、大人が自分の信念や哲学、見識を教えてあげることが大切であり、「信じられる大人」がその子にとって何人登場するかが、思春期において重要なことです。

――男の子の場合、思春期にさしかかっても女の子のように論理的に話せず、「別に」と黙ってしまう子も多いかと思います。

そうですね。男の子の場合、「わかろう」とは思わず冷静に観察することが大切。もともとわからない存在なのに、10歳になると体も変わってきて、秘密もたくさん持つようになります。そういうとき、お母さんがしてあげられることはもう、ほぼなくなっているんですよ。よくある悲劇的なケースとしては、すでに「10歳の壁」を越えているのに、お母さんが息子から離れようとしないこと。どこかで手放さなきゃいけないのに、それができずに共依存になって、後に引きこもりになるケースもある。そのスタート地点は10歳なんですよ。

これって「10歳の壁」? 不安を抱える我が子に親ができることとは

「10歳の壁」にぶつかった子に、親がしてあげられることとは?

――そうした思春期の子どもが親に求めることは、「大人扱いする」ことでしょうか。

そうです。僕は 「儀式をすること」を勧めています。女の子に対しては、「あなたはもう大人の世界にきたから、今日から大人として話すよ」と言ってあげましょう。体のことや恋愛、結婚、仕事と家庭のバランスなど、リアルな話をしてあげてください。お母さんがどう生きてきたか、父親と結婚して幸せになったか、そういうリアルな話を子どもは聞きたいんです。

――高濱先生は、「思春期は同性の親の役割が重要」とおっしゃっていますね。父親は、男の子にどう関わったらよいでしょうか。

男の場合は「父と息子の二人旅」や「父と息子のキャンプ」を儀式として勧めています。「絶対にお父さんと二人でなんて行かない」と言っていた息子が、旅から帰ってきたら父を見る目が変わっているなんてことも多いんですよ。母と娘と違って、普段の会話は少なくても、何かあったらお父さんに話を聞いてみようと思える存在になることもあります。

――リアルな話を子どもは求めていても、親の立場で言えないこと、学校の先生が言えないこともありますね。

そこでおすすめなのは「外の師匠」を持つことです。親が口出しすればするほど、子どもは自立から遠ざかってしまいます。そんなときは「師匠」に外注するんです。勉強なら塾講師、スポーツなら監督など、頼りになる大人を親目線で見立てて、子どもを預けてみましょう。思春期の子どもの場合、親の言うことは聞かなくても、いとこのお兄ちゃんや部活の先輩の話なら大人しく聞くということはよくあります。「10歳の壁」で、親が注意しなければいけないのは、「親が見方を変えればよい」と知ることだけ。ある日突然、子どもに訪れた変化に対して「儀式」をして、ちょうちょの扱いに切り替えること。子どもの心がそれで納得するかどうかが重要なんです。

(撮影:小野 奈那子 編集:阿部 綾奈/ノオト)

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