国語のチカラ ~読解力アップの教科書~
中学入試の国語、「読書」で大人向けの文章に慣れる よく出るテーマとタイトルは
2020.03.12

前回に引き続き、中学入試の国語で求められる「読む力」をつける方法について、ご説明しましょう。今回は、南雲国語教室でも指導に力を入れている「読書」についてと、入試でよく出題されるテーマ、タイトルをご紹介します。
中学受験生にとってなぜ、「読書」が必要なのでしょう? 前回もお話ししましたが、中学入試で取り上げられる素材文の内容、表現は大人向けでハイレベルです。大人の心情など、小学生の経験値では理解しにくいテーマを扱った文章が出されることもあるため、足りない部分は読書を通じた疑似体験で補っておく必要があるのです。
さらに、大人向けの文庫本1ページが400~500字とすると、10ページ以上を集中して一気に読むパワーも求められています。大問ひとつの素材文の平均字数は約3900字(2019年度、四谷大塚調べ)。2問構成の学校がほとんどです。1問構成であっても、5000字を超えるのが普通で、10000字超えの素材文を出した学校もありました。
いずれにしても、読書経験を重ねれば重ねるほど力はついてきます。
普段あまり読まないジャンルの本を手に取る時間は、「学習」と位置づけて確保しましょう。これとは別に、お楽しみの本を自由に読む時間も、お子さんから取り上げないようにしてあげてくださいね(息抜きも大切です)。
受験を意識した読書の方法
1日の読書量
4年生→文庫本4~5ページ。
5年生→同6~7ページ。
6年生→同8ページ以上。
各学年とも10分~15分程度が妥当です。
「なかなか時間が取れない」という人は、小学校の朝読書の時間などをあててしまうというのも、ひとつの手です。すき間の時間をうまく活用することをおすすめします。
また、前回紹介した「新聞」を読む時間との兼ね合いですが、「新聞」→月曜日、「読書」→火曜日、「新聞」→水曜日……と交互におこなってもいいですし、ゆとりがあれば、「新聞」+「読書」→毎日でも構いません。
難しくて内容が理解できないときは?
お子さんが読んでいる本をおうちの人にも読んでおいてもらい、「こういうことを言っている文章だったんだけど、わかった?」などと、問いかけてもらえるといいでしょう。お子さんがわからなかった部分があれば、少しかみくだいて教えてあげましょう。
選書は?
基本的に、塾のテキストや過去問を見ていただき、よく出そうなテーマのものをおうちの人に選んでいただければと思います。
ご参考までに、「入試によく出るテーマ」「ここ数年の入試でよく出題されたタイトル」を以下にあげます。その年度に新しく出版された作品が、入試でよく取り上げられる傾向にあります。
入試によく出るテーマと、ここ数年の入試でよく出題されたタイトル
よく出るテーマ1:友情・家族・少年少女の成長
物語文で最もよく出題されるテーマです。自分の弱さや悩み、トラブルなどを乗り越えて成長する姿を描いた物語は、読み慣れておくとよいでしょう。
物語の背景には世相が反映されています。離婚や経済的な問題、肉親の死、いじめ、不登校などつらい状況設定もあります。自分の体験と照合できない内容であっても、読んで理解する力をつけるために、困難に直面した人物の心情や行動を追ってみてください。
以下の作品は、これまで複数の学校で出題されていて、小学生にも十分理解できます。
・八束澄子/『ぼくらの山の学校』(PHP研究所)
・安東みきえ/『天のシーソー』(ポプラ社)『夕暮れのマグノリア』(講談社)
・如月かずさ/『給食アンサンブル』(光村図書)『サナギの見る夢』(講談社)
・佐川光晴/『駒音高く』(実業之日本社)『大きくなる日』(集英社)
・宮下奈都/『よろこびの歌』(実業之日本社)『つぼみ』(光文社)
・辻村深月/『家族シアター』(講談社)
・佐藤いつ子/『駅伝ランナー』(KADOKAWA)
※東京五輪が開催される2020年度は、スポーツに関連した物語も読んでおくといいでしょう。例えば、あさのあつこ氏の『アスリーツ』(中央公論新社)がおすすめです。
よく出るテーマ2:自然・環境
身近な植物や生きものの意外な性質等についてわかりやすく述べた本から、よく出題されています。また、日本人ならではの自然観を、西洋のそれと比較して述べるものも、以前から出題されています。専門的な用語も出てきますが、「理科好き」でなくても興味を持てるでしょう。
・稲垣栄洋/『雑草はなぜそこに生えているのか』(筑摩書房)
・田中修/『植物のひみつ』(中央公論新社)
・宇根豊/『農は過去と未来をつなぐ』(岩波書店)『日本人にとって自然とはなにか』(筑摩書房)
・日高敏隆/『春の数えかた』(新潮社)
・福岡伸一/『新版 動的平衡』(小学館)『生物と無生物のあいだ』(講談社)
よく出るテーマ3:現代社会の問題点、情報社会、科学技術
豊かさ、便利さ、情報の氾濫(はんらん)などについては批判的に論じた文章が多いのですが、その切り口や解決方法については著者ならではの見方が示されます。
以下にあげる本は、最近の入試によく出ていますが、小学生が1冊まるごと読み切るには難しいものもあります。塾のテキストや過去問で目にした部分を中心に読む、前書きや後書きから筆者の考えのエッセンスをとらえる、という読み方でもかまいません。
・岡田美智男/『<弱いロボット>の思考 わたし・身体・コミュニケーション』(講談社)
・山極寿一/『ゴリラからの警告「人間社会、ここがおかしい」』(毎日新聞出版)『15歳の寺子屋 ゴリラは語る』(講談社)
・松村圭一郎/『うしろめたさの人類学』(ミシマ社)
※、池内了氏の『科学の考え方・学び方』(岩波書店)『なぜ科学を学ぶのか』(ちくまプリマー新書)は、最近出た本で小学生にも読みやすく、今後取り上げられそうです。
よく出るテーマ4:学び・考えること・生きること
以下にあげる著者は、著書も多数あり、毎年どこかの中学校で出題されています。哲学者の鷲田清一氏、フランス文学者の内田樹氏の著書も10年以上にわたってコンスタントに出題されています。また、このところ、入試問題の難化に伴ってか、社会学者の加藤秀俊氏の著書も扱われるようになりました。小学生がすらすら読めるレベルではありませんが、一昨年出題された加藤氏の『社会学 わたしと世間』(中公公論新社)などが注目されます。
・齋藤孝/『読書力』(岩波書店)『読書する人だけがたどり着ける場所』(SBクリエイティブ)
・外山滋比古/『思考の整理学』(筑摩書房)『「マコトよりウソ」の法則』(さくら舎)
・森博嗣/『孤独の価値』(幻冬舎)『集中力はいらない』(SBクリエイティブ)『読書の価値』(NHK出版)
このほか、中学入試では、「言語」「コミュニケ-ション」「経済」「職業」「文化」「建築」「美術」など、いろいろなテーマの文章が扱われます。入試レベルの本にはまだ手が出ないというお子さんでも、社会や科学を扱った子ども向けの読み物は豊富に出ています。まずは、そうした本から読み始めてみましょう。