子どもの健康・成長

逆境に負けない心、「レジリエンス」を育てるには 他人に助けを求める能力も身につけて

2020.03.06

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末吉陽子
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教育・心理・医療・ビジネスなど、さまざまな分野で注目が高まっている「レジリエンス」。「立ち直り力」「快活さ」などの日本語に訳され、落ち込みから立ち直る“心の弾力性”を指します。変化が激しく、先行き不透明なこれからの時代、逆境や困難に負けない心はますます重要です。そこで、今回は国内におけるレジリエンス研究の第一人者である東京学芸大学の深谷和子名誉教授に、子どものレジリエンスを育む方法を聞きました。

話を伺った人

深谷 和子さん

東京学芸大学名誉教授

(ふかや・かずこ)東京教育大学(現・筑波大学)心理学科卒業後、同大学院教育学研究科博士課程修了。東京学芸大学教授、東京成徳大学人文学部教授、同心理・教育相談センター長などを経て、東京学芸大学名誉教授。主な著書に「『いじめ世界』の子どもたち――教室の深淵」「遊戯療法――子どもの成長と発達の支援」(いずれも金子書房)などがある。

“失敗”と“立ち直り”の繰り返しがレジリエンスを育む

――現代社会を生きる上で、レジリエンスにはどのような価値があると考えていますか?

レジリエンスは、一生涯にわたり、なくすことがない財産だと思います。長い人生の中で、私たちは多くの困難に直面し、地位や名誉、金銭を途中で失う可能性があります。その一方、レジリエンスはそうした状況から、その人をずっと守り続けてくれるもの。

特にこれからの時代では、経済不安や環境汚染などさまざまな困難が子どもたちに襲いかかることが予想されます。その意味で、レジリエンスは親がわが子に残せる最高の財産とも言えます。

ただ、レジリエンスは、幼少期からの“失敗”と“立ち直り”の積み重ねにより育まれるので、一朝一夕には養えない難しさもあります。

――幼少期の失敗というのは、具体的にどのようなものになりますか?

例えば、「飼っていたカブトムシを放ったらかして、死なせてしまった」「ご飯を残して、親から叱られた」などです。大人にとってはたわいないことに思えますが、幼少期の子どもにとっては、全て“小さなつまずき”であり、失敗に当たります。

こうした失敗は無数に発生しますが、一つひとつに向き合い、立ち直っていく過程を経験することで“回復できる自分”に自信を持てるようになります。これが、レジリエンスの育成につながるのです。

親が子どもに残せる最高の財産? 困難に負けない心「レジリエンス」の育て方

過保護な親は子どものレジリエンスを下げる

――レジリエンスは、子どもが自分自身で養うしかないのでしょうか?

子ども自身の力に加え、周囲からの支援も必要でしょう。特に大切なのは、子どもを信頼して見守り続けること。例えば、トマトを食べようとしない子どもに対して、「時間はかかるかもしれないけど、きっとこの子ならいつかは食べるようになるだろう」と信じ、向き合えるかどうか。

しかし、実際はこの信頼ができない親が多いです。自分が直接手助けしないとダメだと思い、強制的に食べさせようとしたり、ロジカルに説明して納得させようとしたりしてしまうわけですね。そうすると、子どもは小さなつまずきに対して、レジリエンスを発揮できないままになってしまいます。

――親としては子どもを思う気持ちから、失敗を防ごうと先回りしてしまうのかもしれません。

そうですね。でも、過保護に接することは、レジリエンスを育む上では逆効果です。まずは、「子どもは未熟だ」という考えを捨てましょう。子どもだって、トマトを食べなきゃいけないと思っているものです。だけど、どうしても気乗りしないから、すぐには食べられない。

そうした時に、親は怒ったりせかしたりするのではなく、根気強く見守ることで、子どもは温かいまなざしを感じます。そして、一口食べてみようという気になるわけです。

親が子どもに残せる最高の財産? 困難に負けない心「レジリエンス」の育て方

親だって振り返ったら、いつも優等生だったわけではないはず。たくさん失敗して、幾多の挫折も味わったでしょう。ですから、今は失敗ばかりの子どもでも、いずれは自分同等、あるいは、それ以上に成長してくれるだろうと構えていればいいんです。

これは言い換えれば、「親自身が自分を受け入れること」です。欠点はあるし、素晴らしい自分ではないかもしれないけど、「まあまあの自分」であることに満足しましょう。子どものレジリエンスを育む上では、親の自己肯定感が非常に大事なのですから。

レジリエンスの発揮には、立ち直りへの自信と、援助を求める力が必要

――ただ、立ち直れないほどのダメージを受ける失敗に遭遇することもありますよね。例えば、いじめや受験などでは、大きな挫折が予想されることもあります。そうした挫折により心が傷つき、現実社会を拒絶してしまうケースも考えられます。

レジリエンスは必ずしも万能とは言えない面もあります。なぜなら、困難にはさまざまな種類と大きさがあり、それに遭遇する時の個人の精神状態によっても、ダメージの受け方は変わるからです。

例えば、受験に失敗した時には立ち直れても、いじめに直面した時には立ち直れない可能性はあります。また、個々の困難は大したことがなくても、それらが同時期に積み重なることで強いダメージを受けることもあります。

――では、これまで経験したことのない困難に対しても、レジリエンスを発揮するためには何が必要なのでしょうか?

大きく分けて二つあります。一つは「これまでも乗り越えてきたのだから、今回もきっと何とかできる」といった自分への自信。これは算数の成績が良い、歌がうまいなどの知識・技能によって得られる類の自信ではなく、それまでの経験によって身についた「自分はこの困難から立ち直れる」と思える自信のことを指します。

もう一つは、他人に助けを求める能力である「被援助志向性」です。子どもが困難から立ち直るためには、周囲にSOSを発信して助けを求めたり、親をはじめ信頼できる誰かに相談したりすることも大事です。しかし、それができずに一人で問題を抱え込んで、耐えきれなくなる子どもも少なくありません。

――なぜ一人で問題を抱え込んでしまうのでしょうか?

被援助志向性の阻害要因はさまざまですが、やはり子どもの頃から誰かに助けられた経験の有無が大きいでしょう。

特に近年は、少子化の影響で兄弟姉妹が少なく、過保護な環境で育てられる子どもが増加傾向にあります。加えて、ゲームやネットサーフィンなどバーチャル世界での一人遊びが増え、友だちとの遊びやスポーツなどリアルな体験も減ってきています。これらの要因によって、人間関係における失敗や他人に援助を求める機会、立ち直りの経験を逸しがちなのです。

――では、子どもの被援助志向性を育むために、親ができることは何でしょうか?

子どもがいつでも親を頼れるように、信頼関係を築くことです。特に「親は自分を信じて見守ってくれた」「本当に困った時に相談に乗ってくれた」という経験があれば、何かあった時に頼りやすくなります。

あとはできれば、子どもの頃から集団の遊びやスポーツに触れさせて、失敗を経験させましょう。遊びやスポーツにはたくさんの失敗が生じるため、他人に援助を求める機会も自然と増えるはずです。

親が子どもに残せる最高の財産? 困難に負けない心「レジリエンス」の育て方

――ここまで読んで、「子どもがレジリエンスを発揮する機会を遠ざけてしまった」と悔やんでいる親は少なくないかもしれません。そうした親がこれからわが子のレジリエンスを育てる際には、どのようなことに注意すればいいのでしょうか?

レジリエンスの育成は、なるべく早い時期から始めるのが良いとされています。しかし、これまでレジリエンスを育てることに失敗してきたとしても、これから長い時間をかけて挽回することはできます。

まずは、親が先生にならないようにすることです。上から目線で指導せず、子どもと同じ目線に立って接する。もし、子どもがテストで悪い点を取って、挫折感にさいなまれていたら、「次はもうちょっと頑張ろうか」「ちょっと残念だったけど、次はきっといい点が取れるよ」くらいの声掛けで十分。「いつも勉強してないからダメなのよ」といった忠告はNGです。励まし上手な親になることを心掛けるといいでしょう。

(撮影:辰根東醐 編集:野阪拓海/ノオト)

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