習い事の選び方

クリエーティビティーを育てる習い事はある? 親ができることは? 脳科学者に聞いた

2020.03.12

author
薮田 朋子
Main Image

子どもの習い事といえば水泳やサッカーなどのスポーツ系、塾や英会話などの学習系、ピアノや書道のような文化系など、多くの選択肢があります。たくさんあるからこそ、どれがいいのか悩んでしまいますが、子どもが将来クリエーティブな人間に育つために最適な習い事はあるのでしょうか。ご自身も2児の母である、脳科学者の細田千尋さんに聞きました。

話を伺った人

細田千尋さん

認知脳科学者博士(医学)

(ほそだ・ちひろ) 聖心女子学院初等科―高等科を経て、東京女子大学を卒業の後、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科博士課程修了。国立精神神経医療研究センター研究員、科学技術振興機構(JST)さきがけ研究員などを経て、現在は、東京大学大学院総合文化研究科研究員、帝京大学講師を兼任。日本の大型研究の一つであるJST CREST研究に従事しながら、脳を発達させる学習法やコーチング法について研究を続けている。

児童期は脳を育てるための大事な時期

──「東大生はピアノを習っていた人が多い」という話をよく耳にするのですが、脳科学的に子どもの脳をクリエーティブに発達させる習い事はあるのでしょうか?

「ダイレクトに脳をクリエーティブにする」という習い事は、おそらくありません。クリエーティブ力が構成される要素は3つあります。1つ目は高い専門能力、2つ目は創造的思考力、そして3つ目がモチベーションの維持。この全てが合わさったときに、創造性が生まれると言われています。

習い事の選び方

例えば、ピアノを弾くとき、目で楽譜を追うというのは、脳の後ろ側にある後頭葉が関わっていますし、指を細かく動かすことは頭頂葉の運動野というところが関連します。さらに、音を聴くことは、聴覚に関わる側頭葉が関わっています。後頭葉が関係する視覚や側頭葉が関係する聴覚は、0〜1歳のときにめざましく発達していきます。ちょうど何も話せなかった赤ちゃんが、周りからの刺激で、言葉(喃語など)を発し、言葉が増え始める時期ですよね。また、指を細かく動かすことに関わっている頭頂葉の運動野は、発達のピークは4〜5歳です。それ以前からピアノに触れることは、脳の発達から考えると理にかなっているのかもしれません。また4〜5歳といえば子どもたちの言葉もどんどん増える時期。ピアノのトレーニングをすると、言葉の発音やピッチが流暢になったという研究もあります。またピアノ経験者は、注意制御や自己制御と言われる、物をよく観察したり、我慢したりする力が高いという研究もあります。そういった部分から「ピアノが脳にいい」と言われているのかもしれませんね。

しかし、小さな頃からピアノを習っている人全員がクリエーティブと言えるでしょうか。ピアノで脳がクリエーティブになるという確証はないのです。

──なるほど。では、脳をクリエーティブに育てるためにできることはあるのでしょうか。

習い事の選び方

脳は前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉と分かれていて、後ろ側の発達は4〜5歳頃にピークを迎えます。しかし前頭葉の発達のピークは、脳の中で一番遅いのです。特にIQの高い子どもは、7歳の時点では普通の子よりも前頭葉の発達度合いが小さく、そこから12〜13歳頃に向けて一気に成長することがわかっているんです。

つまり、10代にかけてどのくらい前頭葉がダイナミックに発達したかが、IQの高さと結びつくと言われています。7〜10歳頃にかけて大きく前頭葉が発達した人たちは12〜13歳頃にピークを迎えるので、小さい頃に始めたお稽古を10代になっても続けて、脳の発達を促し続けるといいのかもしれませんね。

──ちなみに、前頭葉はどんな役割を持つ場所ですか?

実行機能と言われるのですが、現在の自分の行動が未来にどんな影響を及ぼすかを認知して、今何をするか決めたり、理性をもって頑張ったりする役割があります。IQなどが認知能力と言われるのに対して、このような機能は非認知能力と呼ばれます。その人がどれくらい頑張れるか、粘り強いか、モチベーションがあるか。これらはIQのように数値で表すことはできません。

昔はこの非認知能力が4歳の時点で高い人の方が将来的に成功すると言われていましたが、最近そうではないことがわかりました。IQの高さだけでなく、非認知能力をコンスタントに伸ばすことが大事なのですが、そのためには親がどれくらい子どもの教育に熱心になれるか、子どもに適した環境を与えてあげられるかという親の姿勢が重要になると考えられています。

習い事の選び方

親は子どもがひとりで困難を乗り越えられるようなサポートを

──やりきる力はどうすれば伸びるのでしょうか。

最初にお話しした高い専門能力、モチベーションの維持は、習得するのにものすごく時間がかかります。例えばピアノも弾けるようになるまでにはたくさん練習が必要なので、嫌になってしまう子もいるでしょう。ここで大事なのは続けることです。ピアノの曲がひとつ弾けるようになり、さらに難しい曲に挑戦する。これを積み重ねることでピアノの技術が上がっていきます。このステップを踏む訓練を、小さい頃からできていて、特に10代まで続けられていると、いわゆる非認知能力といわれる「やりきる力」や「粘り強さ」を学ぶことができます。

──では、東大生が「特定の習い事をしていた」ことよりも、「習い事を続けていた」ことに意味があったというわけですね。

その通りです。例えば勉強がつらいときにはどんなふうに立ち向かうのか、そのストラテジー(戦略)を、習い事を通して学んできていたわけです。

──子どもが習い事を継続するために、親ができるサポートはありますか?

大きなゴールの前に小さなゴールをいくつか設定して、達成するたびに褒めてあげると最終ゴールへと到達できるようになりますよ。優しすぎもせず難しすぎもしない、ちょっと頑張ることで到達できる目標を一つ与えてあげることが大切です。それができたら、次はそれよりもう少し頑張ることが必要な目標を与えてあげるというように、少しずつ必要な努力を増やして、目標をあげていくことが大事なのです。

例えば大人になってから英語の勉強を始めたとして、やりきる人と途中でドロップアウトする人がいますよね。大人の場合には脳を見ると、ある程度どちらのタイプか予測することができるんです。しかしドロップアウトする人に小ゴールを設定してあげると、小ゴールを一つひとつクリアし、最終ゴールに行けるようになります。そのときの脳を改めて調べてみると、3〜4%レベルですが、脳の体積が増えているんです。このように大人になってからでも脳は変わります。前頭葉が発達する10歳前後に育ててあげると、より良いというわけです。

──小ゴールを設定した後は、どこまでアドバイスをしてもいいのでしょうか?

まずは小ゴールを達成したら褒めてください。その後はその子が褒めて伸びるタイプか、悔しさが原動力になるタイプか見極めながら教えてあげてください。

大切なのは、追い詰めすぎないことと、親がやってあげすぎないことです。親に言われた通りにすれば確かにうまくいくのですが、自分だけで壁にぶつかったときのハウツーが育てられなくなってしまいます。あくまで親は、子どもが自分でやり方を考えることを学ぶためのサポートをするべきであって、助けることだけが大事なのではありません。そこを履き違えず、サポートを少しずつ外していって、自力で歩けるように見守る形が理想ですね。いい大学に入ることが最終ゴールではなく、入った後にどうするか。クリエーティビティーが育っているからこそ、子どもたちは次のステップへと進めるのです。

──自分自身で考えるということ自体がクリエーティブですものね。

そうです。必ずしも0から1を生み出すことがクリエーティビティーではありません。例えば最近は雲を見て、何の形に似ているか連想ができない子も多いです。想像力を育てるためには日々の積み重ねが必要で、親がルールを教えてばかりいると、連想ができなくなってしまいます。

細田千尋さん

親の愛情があるからこそ、子どもは挑戦し続けることができる

──習い事の現場では、先生と合わなかったり、子ども同士のトラブルが起こったりなど、環境も大事かと思います。選び方のコツはありますか?

一度行って合わなければ変えてもいいと思います。「ここの教室の出身者は東大に行く子が多い」という習い事教室があったとして、その教室に子どもが適合しなかったときに、自分の子はダメだと思い込んでしまうのは間違いです。そこに通わなければ東大に行けないわけではないですし、教育方針が合わない子もいるはずです。大事なのは本人が続けたいと思うことで、強制的に続けさせることではありません。

──習い事を選ぶとき、親が子どもの頃にしていた習い事を子どもにさせるケースや、親が憧れていた習い事を子どもにさせるケースなどもあると思います。習い事に対する親自身の過度な期待を抑えるためにはどうしたらいいでしょうか。

その場合、親自身がセルフコントロールをしなければなりませんね。子どもは自分の自己実現をする道具ではないということです。習い事をするにしても、親のステータスのためではなく、子どもにとって一番いい環境だからというマインドであれば、子どもとの信頼関係も崩れないかと思います。

──習い事自体は子どもに合っているようだけど挫折にぶつかったとき、どんなフォローが好ましいでしょうか。 

人生で失敗しない人なんていないので、諦めずに克服法を見つけるのはとても大事なことです。そのために親はいつでも子どもを認め、味方でいてください。特に幼少期や児童期は愛着(アタッチメント)が育まれる時期で、どれだけ愛情を注いでいるかが子どもの将来に影響するとも言われています。たくさん叱っていたとしても、根底にその子への愛情があることをわかっていれば、チャレンジ精神も出てくるし、IQや非認知能力の成長にも影響すると言われています。

──つまずいても「大丈夫だよ」と、まずは声をかけてあげることが大切そうですね。

そうですね。安心感を与えて、どうしたら克服できるのかを一緒に考えてみるのがいいかもしれません。

──自分が構ってあげられないから習い事をさせるという忙しい親御さんもいらっしゃるかと思いますが、子どものことを思えばそういう考え方ではなく、親もサポートをする覚悟が必要ですね。

そういった方々の気持ちも、ものすごくよくわかりますし、本当にその通りだと思います。道を示しすぎてもダメですが、丸投げもよくありません。目標に向かって自分から進むことができているか。子どもをよく見て愛情を持ってサポートすることによって、子どもたちのクリエーティビティーは育っていくのでしょう。

(編集:阿部 綾奈/ノオト)

Latest Articles新着記事