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滋賀大学 データサイエンス学部 蓄積されたビッグデータ、分析・解析でビジネスに

2020.03.25

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濱田ももこ
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日本初となるデータサイエンス学部が、2017年、滋賀大に誕生した。アメリカや中国ではビジネスの現場で数多くのデータサイエンティストが活躍する一方、日本では人材が不足しており、滋賀大が先陣を切って育成を進めている。(校舎写真提供/滋賀大学、その他の写真撮影/朝日新聞出版写真部・掛祥葉子)

スマートフォンが普及して10年。個人の行動履歴が大量に蓄積されるようになり、単なるデータは「価値ある資源」へと変わった。GoogleやAmazonは、履歴から一人ひとりのニーズにあった商品や動画をすすめるサービスを展開し、急成長を遂げている。一日の歩数、工場での生産量、車の燃費……近年、データの取得が可能になった分野も多い。さまざまなビッグデータを処理、分析し、社会や企業で役立つ新しい価値を引き出すのが、データサイエンスだ。

アメリカには主要な大学にデータサイエンティストを養成する学部があり、卒業生は数多くの企業で活躍している。一方、日本の企業では、データよりも経験や勘を重視する傾向が強かったこともあり、採用が遅れ、養成機関も長く存在しなかった。

「日本はものづくりの技術力が非常に高い。しかし、経験によって得られる技術がデータである程度カバーできる時代になり、データを活用して合理的に安くつくれる企業のほうが利益をあげています。日本の製造業を維持するためにも、データサイエンティストは必要不可欠です」

同学部を設置した狙いについて、統計学者である竹村彰通学部長はこう話す。

データサイエンティストにまず求められるのは、データの処理・分析・解析力だ。そのうえで、結果を解釈し、わかりやすく説明する「文系」的な力も必要とされる。そのため、同学部では理系でも文系でも受験可能な試験科目を設定しており、1年次のカリキュラムで高校の数Ⅲもカバーする。

竹村彰通学部長。学部設立当初は数多くの企業に自ら赴き、データの提供を依頼して回っていた
竹村彰通学部長。学部設立当初は数多くの企業に自ら赴き、データの提供を依頼して回っていた

繰り返す演習で実践力を身につける

「1・2年生のカリキュラムはほとんどが必修授業。統計学やプログラミングにプレゼンテーション……身につけなければいけないことが非常に多く、他の学部では一般的である第二外国語の授業すら、入れる余裕がありません」

そう話すのは1年生のデータサイエンス入門演習を担当する田中琢真准教授だ。

取材当日は1年間の授業の仕上げとして、班ごとのプレゼンテーションが行われていた。ある班のテーマは「大津市の魅力」。大津市と同等の市内総生産額で、県庁所在地である盛岡市、水戸市、宮崎市と比較し、最寄りの大都市部へのアクセスのしやすさ、観光客数のデータなどをもとに大津市が最も優れていると結論づけた。観光地としての魅力という観点では、四つの市で開催されている花火大会に着目し、打ち上げ数と来客数の多さで大津市がトップであることを示した。

1年生のデータサイエンス入門演習。4~5人のグループでデータ分析に取り組む。「データ分析を通じてコミュニケーション能力も鍛えます」(竹村学部長)
1年生のデータサイエンス入門演習。4~5人のグループでデータ分析に取り組む。「データ分析を通じてコミュニケーション能力も鍛えます」(竹村学部長)

しかし、田中准教授から「どうして花火大会なのか。花火大会を比較する根拠もデータで示さないと、打ち上げ数と来客数が多くても大津市が優れているとは言えないのでは」と指摘が入る。データが正しくても、それを適切に活用し解釈しなければ、物事を正確に分析し相手を説得することはできないのだ。

「どの班も最初に立てた仮説通りに進むことはほとんどありません。分析して失敗して、また新しいデータを用いて分析して……それを繰り返すことで、データの活用方法がわかるようになります」(田中准教授)

3・4年生になると基礎知識を応用した演習やゼミなど、より実践的な学習に進む。滋賀大はびわ湖の近くにあり、教育学部の新入生を対象にびわ湖の環境について観測する「びわ湖体験学習」を行うなど、環境教育に力を入れている。そのため、水質や気象などのデータを使った演習授業も実施しているという。

100近い企業との連携で得られるリアルなデータ

また、講義とは別に行われているのが「自主ゼミ」だ。1年生から参加可能で、他学年との交流や学習の場となっている。なかでも人気なのは、大阪ガスのデータ分析専門チームで活躍していた河本薫教授のゼミだ。実際の企業データを分析し、結果を社員の前でプレゼンテーションする。

「社会では、教科書の例題のようにスムーズに進みません。実践的な思考力を身につけるには、実際のデータを使い、思いもよらない困難にぶつかる経験が必要です」(竹村学部長)

1年生の加藤敦詞さんが滋賀大のデータサイエンス学部を知ったのは、複数の大学が集まる説明会だった。

「高校時代は理系選択でしたが、興味があったのは経済。データサイエンス学部は、理系のバックグラウンドを生かしながら直接社会に関わる勉強ができると知り、入学しました」

滋賀大のデータサイエンス学部は、全国から学生が集まる。加藤さん自身も愛知県出身で、大学の近くで一人暮らしをしている。

「1学年は100人程度。必修授業が多いので、学年全員が顔見知りです。部活をやる暇はありませんが、自主ゼミに参加すれば先輩とのつながりも作りやすいですよ」

1年生の加藤敦詞さんは理系出身。「データを分析したり、調べものをしたりするのが好きでこの学部を選びました。今は、プレゼンテーションやレポートの文章力など、文系の知識もバランスよく学べています」
1年生の加藤敦詞さん。「データを分析したり、調べものをしたりするのが好きでこの学部を選びました。今は、プレゼンテーションやレポートの文章力など、文系の知識もバランスよく学べています」

滋賀大では医療、金融、保険、通信、製造業など100近い企業と連携し、共同で研究を進めている。2019年4月には大学院も設置し、企業から派遣された社会人学生が数多く学んでいる。現在、国内の企業でもデータサイエンティストの活躍の場が広がり、スキルさえあれば転職もしやすい。

「3年次からのインターンシップでは、優秀な学生は企業から直接声がかかることもあります。学べる場所や活躍の場はこれからも増えていくでしょう。データサイエンス学部は、社会ですぐに役立つ力をつけられるのが強みです」(竹村学部長)

大学メモ

1949年創立の国立大学。経済、教育、データサイエンスの3学部を擁する。彦根、大津にキャンパスがあり、データサイエンス学部は彦根にある。大学の学部学生数は3580人(2019年5月現在)。データサイエンス学部の入学定員は100人。

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