休校延長の今こそ読みたい本
教育アドバイザー・清水章弘さん 「どんな大人になりたいか」を探して
2020.04.09

世界的に新型コロナウイルスの感染が広がり、全国で休校措置を延長したり、授業日や授業時間を減らしたりといった動きが出ています。EduAで連載を執筆いただいている方や教育に関わる識者の皆さんに「休校延長の今こそ読んでほしいお薦めの本」を紹介してもらいました。
(しみず・あきひろ)教育アドバイザー。東京大学教育学部を経て東京大学大学院修了。東京と京都で「勉強のやり方」を教える塾プラスティーを運営。NHK Eテレ「テストの花道ニューベンゼミ」、TBS系「教えてもらう前と後」など、テレビ番組では「赤門の神」と呼ばれる。ABCラジオで「清水章弘の合格への道」を毎週金曜夕方5時から放送中(エリア外でも「radiko」の有料サービスで聴取できます)。著書多数。
どんなに頭がいい人も、どんなに偉い専門家も誰も未来が予測できない。そんな新型コロナウイルスの感染拡大。まず、皆さんができることは、それを観察すること。一大事の時、大人がどう動いているのか、政治家の発言がどう見えるのか、新聞・テレビ・雑誌がどう報道しているのか。とにかくじっと観察しましょう。
そこで分かるのは、大人だって全員不安だということ。「正解が分かって、常に不動心」。そんな人はいませんね。では、みなさんは、どんな大人になりたいですか。その問いには、すぐに答えを出す必要はありません。いったん保留でオッケー。その答えを探しに、いろんな本を読み、多様な登場人物と出会ってきてください。時間がある今だからこそ、新聞やテレビでニュースに目を向け、読書を重ねてほしいと思います。
人生を共に歩く一冊になる
『木を植えた男』 あすなろ書房 ジャン・ジオノ(著)フレデリック・バック(絵)
対象:小学校低学年・小学校高学年
これは絵本です。でも、僕はこの年になっても読み返します。荒れ果てた地に木を植え続け、森を再生し、人々に活気を与えた老人の話です。最初、老人のことは周りの人だけでなく、読んでいる私たちも理解することができません。でも、自分が信じた道を、世のため人のため、歩み続けることが、将来的には誰もまねできないくらいの貢献につながることがある。そんな大切なことを教えてくれる作品です。読み返すたびに、「ああ、自分のことばかり考えていてはだめだな」と反省します。人生を共に歩く一冊になるかもしれませんので、なるべく早い時期に読んでみてもらいたいと願います。
こんな時期こそ「すべてを喜ぶ」
『少女パレアナ』 角川文庫 エレナ・ポーター(著)村岡花子(訳)
対象:小学校低学年・小学校高学年・中学生
自宅にいて外に行けない日が続くと、気持ちがふさぎ込んでしまいます。ちょっとしたことでイライラしたり、「自分ってついていないな」と後ろ向きになってしまったり。そんな時、「いま起こっているすべてを喜ぶ」というゲームをしてみたらどうでしょう。この本の主人公パレアナは、孤児になってしまいます。引き取られた先の叔母さんは、とても気難しい人。でも、パレアナは「いま起こっているすべてを喜ぶ」というゲームを始めます。すると、驚くべき結末に……。起こっていることは、すべて「いいこと・悪いこと」が表裏一体。どうせだったら表側を見たいものです。私もこの時期、もう一度読み直してみたいと思います。難しい漢字もあるので、小学校低学年の子はご家族と一緒に読みましょう。
「学校っていいな」再開が待ち遠しくなる
『幕が上がる』 講談社文庫 平田オリザ(著)
対象:小学校高学年・中学生・高校生以上
舞台は地方高校の演劇部。こういう「部活もの」の青春小説を読んでいて、一番楽しいのは主人公の成長を追体験できること。この本の主人公はJK(女子高生)。僕は性別も違うし年齢も違うのに、悔しいほどに感情移入をしてしまいました。だから、中高生に(そして、少しませた小学生にも!)読んでもらったら、きっと心に刺さるはず! 作者の平田オリザさんは、一流の劇作家・演出家。だから、表現にも妥協がありません。読んだ後は、演劇をしてみたくなっちゃうかも。演劇部の人はもちろんのこと、それ以外の人も「他の部活をのぞき見する」ような感覚でワクワクできるでしょう。「ああ、学校っていいな!」という思いを脳内に充満させつつ、学校が再開したら楽しみまくってください!
頭をガツンとやられる青春小説
『流(りゅう)』 講談社文庫 東山彰良(著)
対象:高校生以上
まとまった時間が取れる今しか読めないのが、長編小説。お薦めしたい本はたくさんありますが、高校生向けの一冊を選ぶとすれば、この本でしょうか。僕は『流』を読み終えた後、しばらく次の小説に手が伸びませんでした。それくらい、余韻に浸りたかったからです。スリリングな展開を味わえて、最後は頭をガツンとやられる爽快・青春小説。高校生だからこそ、読んでほしい理由もあります。まず、フィクションではありますが、台湾の歴史を学べます。そして、人物関係がちょっぴり複雑なので、物語を俯瞰(ふかん)的に読む力がつきます。さらには比喩が絶妙なので、語彙(ごい)が増えます。熱中して一気に読んでください。「これぞ!」という直木賞受賞作です。
ファンタジー満載、楽しめる図鑑
『大学の学科図鑑』 SBクリエイティブ 石渡嶺司(著)むらいっち、こきりみき(イラスト)
対象:中学生・高校生以上
「え? 大学の学科紹介……? どうせ退屈な本でしょ」と、身構えてしまう人もいると思います。でも、この本、びっくりするほど面白いですよ。まず、各学科が「キャラ」になっているのです。たとえば「スペイン語/文学科」であれば、フラメンコを踊っているラテン系のきれいな女性。「管理栄養学科」であれば、調理器具を背負って大きなつぼをかきまぜる少女。文字で説明すると意味不明かもしれませんが、マンガに出てくるような、とにかくファンタジーで楽しいイラスト。うちの生徒にも大好評の一冊です。自宅学習の時は、長期的な目標をぼんやりと探してほしいと思います。パラパラ見ながら、気になったらネットで検索。「落ち着いたら、学園祭や学校説明会に行こう!」と想像を膨らませてください。