オンライン授業で学びを止めるな

ICUが全授業オンライン化にいち早く踏み切った舞台裏 新学長が明かす

2020.04.15

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中村 正史
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新型コロナウイルス感染が広がりつつあった3月中旬、4月から全面オンライン授業に切り替えることを、全国的にいち早く決めたのが、少人数教育で定評のある国際基督教大学(ICU)だ。4月9日から授業が始まり、春学期すべてをオンラインで実施する。4月に就任した岩切正一郎学長に、決断するまでの経緯と理由などを聞いた。
(写真は、東京都三鷹市にあるICUの緑豊かなキャンパス。4月に入ってからは原則入構禁止になっている=ICU提供)

話を伺った人

岩切正一郎さん

国際基督教大学(ICU)学長

(いわきり・しょういちろう)
アドミッションズ・センター長、教養学部長を経て2020年4月から現職。専門はフランス文学、演劇。

早い時点で最悪の事態に備えた

――4月1日に学長に就任されて、いきなり100年に一度あるかどうかの事態に対応しなければいけません。

3月まで教養学部長だったので、その時から対応していました。昨年秋に香港で衝突が起きた時、香港の大学が閉鎖されましたが、ICUから留学していた学生の授業はオンラインで続いていました。特に危機の時はオンラインが有効だなというのが経験としてありました。

またUCLAなどアメリカの大学とオンラインで教室同士を結んでの授業もあり、そうした下地もありました。

――すべての授業をオンラインにすると決めたのが、全国的にも早かったと思います。

3月12日の大学幹部会で決めました。新型コロナが広がってきて、3月に入ってから「このまま拡大すると授業が危ない」と思いました。クイーンの「Show must go on」ではないですが、「Education must go on」。教育を止めてはいけない、とにかく授業を続けなければいけないと思いました。

幹部会ではいろんな意見が出ました。他大学では授業開始を5月に遅らせる動きもありました。しかし5月に延ばしてもそこでコロナが収束していなければ事態は同じです。最悪の事態、つまりキャンパスが閉鎖され、対面の授業ができなくなることに備えました。まずオンラインで始めて、2週間ごとに情勢を見て、続けるか通常授業へ切り替えるか判断することにしていました。

今は春学期(6月末まで)の全科目をオンラインで行うことを決めています。オンライン授業が難しい実験などは夏休み以降に延期し、体育の選択実技は原則として行いません。コロナが収束しなければ9月から始まる秋学期もオンライン授業が続く可能性もあります。

日頃から教員間の壁がないのが奏功

――ここに来て各大学がオンライン授業を導入しようとしていますが、直面するのが、学生のネット環境、教員の取り組み、学内のオンラインのインフラなどです。

導入するに当たって、二つの問題がありました。一つは、教員にお願いしなければならないが、どれくらい協力してもらえるかわからなかったこと。ところが、非常勤講師も含めて不満は聞こえてきませんでした。教員向けの研修会も開きましたが、教員同士がサポートグループを作って助け合う自主的な取り組みをしてくれました。

――他大学だと、そこがネックになることが多いのですが、背景にICUのカルチャーがあったのでしょうか。

リベラルアーツの大学という性格は大きいと思います。うちは31の専修分野を擁する教養学部1学部の大学ですが、普段の教授会も全専修分野の全教員が一つの会議室に集まって行います。研究室も専修分野ごとに固まるのではなく、わりとランダムに配置されていて、日頃から教員間の壁がありません。外国人の先生がアメリカの大学の状況を記した新聞記事を提供してくれたりして、グローバルな視野で教育を考えようとする姿勢が教員たちにありました。グローバルな教育のなかで、大学が危機に陥った時にどうすべきかが問われているのだと思います。

――もう一つの問題は学生のWiFi環境だと思いますが、どんな状況ですか。

学生にアンケートを取ったところ、WiFi環境が整っていない学生が少数ながらいました。経済的に困っている学生に対しては大学が費用を負担し、機器を提供しました。非常勤講師に機器を貸し出すこともしています。

――オンライン授業はどのような形で行うのでしょうか。

基本的にはテレビ会議ツールのZoomなどを使って、教員と学生が双方向でやりとりする「同期型」で行いながら、学内の教育管理システムMoodleに課題を上げていく「非同期型」と組み合わせることになります。どのような授業を行うかは教員に任せています。同期型に使うZoomは、非常勤も含め全ての教職員・学生をカバーするサービスを大学で一括して法人契約します。

――オンライン授業の長所と限界についてどうお考えですか。

ICUの教育は対話を大事にしていますから、オンライン授業は理想の形ではありません。視覚と聴覚以外の感覚も使って、人と人、人と物との関わりを通して学ぶことは限定されます。またキャンパスの環境は教育環境の一つですが、ICUは自然に恵まれたキャンパスに集って学んだり、研究したりします。その感覚は失われます。

一方、オンライン授業の有効性は二次的な手段としては確かにあります。実際にやってみると、オンラインはいろいろと面白い。違う場所にいても画面上に集まることができるし、新しいやり方としての可能性は見えます。オンラインは端(はな)からダメではなく、活用できるところはあります。

――今回広がるオンライン授業は大学教育を変えるきっかけになると思いますか。

危機的なものに直面した時の対応の仕方や意識が変わるかもしれません。ただ、教育はやはり場があって、みんなが集って、人と人がその場で対話し、共有するものです。それは変わらないし、ICUはそれを手放すことはありません。根本的なところは変わりません。むしろ、対面授業の重要性を再認識することになるでしょう。

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