オンライン授業で学びを止めるな

コロナ前にはもう戻れない 「20年板書」教員の新境地

2020.04.15

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中村 正史
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大学構内への立ち入り禁止、学校の休校延長に伴い、急速に関心が高まっているのがオンライン授業だ。しかし、上層部は指示を出すだけで現場任せの学校や、経験がないためやり方がわからずに戸惑っている教職員が多い。
(写真は、千人の参加者にオンライン授業のノウハウを話すYahoo!アカデミアの伊藤羊一学長)

ヤフーの企業内大学Yahoo!アカデミアの伊藤羊一学長と立教大の中原淳教授が発起人になって、急きょ6日に設けた「ニッポンのオンライン授業 ノウハウ大公開カンファレンス」の無料講座。「いきなりオンラインで授業をやらざるを得なくなり、苦しみながら準備している先生たちをサポートしたい」(伊藤学長)と、テレビ会議ツールのZoomで千人分が使えるアカウントを知り合いの企業に提供してもらい、企画が持ち上がってからわずか4日ほどで開催にこぎ着けた。

開催3日前に告知したところ、希望者が殺到し、募集開始から数時間で千人の定員が埋まった。参加できなかった人のために、10日から動画配信も始まっている。

大学教員らが3月末にフェイスブック上でつくった「新型コロナ休講で、大学教員は何をすべきかについて知恵と情報を共有するグループ」は、わずか1週間でメンバーが1万人を超えた。どのツールを使ったらいいのか、生徒・学生たちにネット環境はあるのか、学校・大学のシステムのデータ容量は十分か、などの情報が連日、交換されている。

大学や学校で対面の授業ができなくなれば、オンラインで行うしかない。新型コロナウイルスがいつ収束するかわからないし、いったん収束しても再び流行する可能性がある。従来のような学校での対面授業を前提にしていては、生徒や学生たちが学ぶ機会を失い続けていく恐れがある。

しかし、これまでオンライン授業をしたことのある教員は極めて少ない。Zoomなどを急きょ契約する大学も出てきているが、授業で使ったことのない教員が圧倒的に多い。

ツールの使い方がわからない

6日の「オンライン授業 ノウハウ大公開カンファレンス」は伊藤学長が進行役を務め、参加者たちは自宅などからつないで、オンライン授業のノウハウを学んだ。「同時に千人がつながっているとはすごい」と伊藤学長。受講者の中には、ITスキルのない人やZoomを初めて使う人も見受けられ、カンファレンスは途中から超初心者、上級者向けなど10のグループに分かれて進められたが、「入り方がわかりません」と画面上で訴える人が相次いだ。

オンライン授業と一口に言っても、実は大きく次の二つに分かれる。

①Zoomなどのツールを使って教員と学生がリアルタイムで双方向の授業をする。学生は自宅などで授業を聞き、質問やグループワーク、発表を行う。

②教員がオンライン上に準備した教材や資料、動画に学生がアクセスして学び、オンライン上で課題を提出したり、コメントシートを出したりする。

実際には両者を組み合わせたものや、テキストに音声を組み合わせて一部双方向のものもある。②は学生が好きな時にアクセスすればよく、テキストベースであれば通信環境への負荷は小さい。①は決められた開講日・時間にリアルタイムの双方向で行うため、実際の授業に最も近い。

無料講座の発起人、立教大の中原淳教授も、最近までオンライン授業は初心者だった
無料講座の発起人、立教大の中原淳教授も、最近までオンライン授業は初心者だった

「コロナ後」の学びを創造できる

カンファレンスの発起人である中原教授は、実は「20年板書」の教員だった。2カ月前までZoomもほぼ初心者、オンラインで授業をしたことは一度もなかった。しかし、新型コロナが拡大して授業がいつ再開できるのか見通せなくなり、考えを変えた。

「このままでは学生が長期間学べなくなる、学べない大学とは大学であることの証明ができないと思いました。また学びの場がなくなることは、学生にとって居場所がなくなり、学生同士のつながりがなくなることを意味します。これは深刻な被害をもたらすと思いました。海外の事例を聞くと、大学は封鎖されてもオンラインにただちに移行していました。これに取り組むことは、自分の仕事だと言い聞かせて決断しました」

学生に働きかけ、3月中旬のゼミ合宿を断念せずにオンラインで試験的に行い、4月4日の大学院の授業を皮切りに、学部でも9日からZoomを使った双方向の授業を開始した。

実践してみて、発見がいくつもあった。気づいたのは、「オンライン授業はこれまでの授業をそのままオンラインで流せばいいのではなく、もう一つの別の授業をつくることである」ということだ。そして自身のブログに、オンライン授業の実体験と反省を踏まえて、学生の集中力を切らさず、授業がうまく進められる秘訣として、「オンライン授業10箇条」を載せた。たとえば、

(1)15分で一区切りにする。細切れにレクチャーを行い、合間にグループワークを入れて発問する。

(2)学生にはとにかく反応を求める。

(3)バッファーを多めに。教える側はどうしても詰め込みすぎる傾向があるが、オンラインはさらに注意する必要がある。

といった具合だ。

「意外に使えると思ったのはチャット機能です。学生の頭の中は見えませんが、何かを考えている学生がチャットに書いてくるので、それを拾ってあげる。オンラインのいいところです。また『今からニューヨークの○○とつなぎます』と学校の外のリソースを低コストで持って来られる。これはオンラインが絶対優位です」

そしてオンライン授業はこれまでの自分の教え方を見直すきっかけになると言う。

「20年教えていると、どんな板書をして発問して……と自分の教え方の枠や殻ができ、自分の授業を見直そうとはなかなか思いません。ところが、オンライン授業によって、図らずもゼロから授業をつくることになった。究極のところ、いい授業をしようとすれば、対面授業でもオンラインでも同じです。学生のリアクションを見て、学生と深いやりとりをする。ただ対面授業だと、そんなに設計していなくても授業ができますが、オンラインだと学生が見えないので無観客授業になりかねず、学生の集中力を切らさないために、レクチャーを15分の細切れにしてグループワークを入れたり、チャットを活用したりして、学生のリアクションを引き出す工夫が必要です。これは、教員にとって学び直しの機会ともいえるのです」

中原教授は6日のカンファレンスの中で、こう語りかけた。「コロナで学びが変わってきます。コロナ前の世界にはもう戻れない。新しい学び、今までできなかったことができるようになります。コロナ後の学びを、新たに創造できるのではないか。それは逆に、対面授業で学ぶことの意味が問われるのです」

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