オンライン授業で学びを止めるな

N高の生徒数、1万5千人に急増 難関校からの転入も 校長が語る「選ばれる理由」

2020.04.22

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柿崎明子
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ネットの高校であるN高の存在感が増している。2016年の開校から右肩上がりに入学者が増え、現在の生徒数は1万4700人に達している。なぜN高は多くの生徒や保護者に支持されるようになったのか。N高の本校がある沖縄県うるま市の伊計島から、奥平博一校長にZoomで話を聞いた。 (写真はN高のVR〈バーチャルリアリティー〉入学式=同校提供)

話を伺った人

奥平博一さん

N高等学校校長

(おくひら・ひろかず) 兵庫県出身。大学で発達心理学を学び、卒業後、公立小中学校の教員に。その後、通信制高校に異動したことをきっかけに、新たな通信制高校を着想。2014年にN高の母体・ドワンゴに入社し、N高の立ち上げに携わる。

通信制高校のイメージ変えたかった

――奥平校長がN高を作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

前任は通信制高校に携わっていたのですが、「通信制」というだけでマイナスのイメージを持たれることがありました。自分の意志で通信制を選択し努力している生徒も多く、通信制高校のイメージを変えたいと思っていました。ただ、既存の学校を変えるのは難しい。新しい学校を作りたいという思いに共感してもらったKADOKAWAとドワンゴ(両社は2014年に経営統合)と協力し、N高を設立しました。

KADOKAWAの豊富なコンテンツ、ドワンゴのIT技術、それに私自身の教育経験と、異種の得意分野を持っているメンバーがそろったことも、新しい学校を生み出す機動力になりました。

あえて通信制高校と打ち出さず、「ネットの高校」と広報したことで、新しい学校というイメージを定着できたと思います。

――高校の卒業資格を得るための教科学習は映像授業を活用し、レポートの作成、確認テストもネットで行っています。ネットの良さとは何ですか。

今は情報があふれており、調べようと思えば何でも調べられる時代です。教科の勉強はネットを使うほうが効果的なこともあります。生徒は自分のペースで勉強を進められ、わからないところは何度でも見返すことができます。

集団の授業についていけない生徒は、それが引き金になって勉強に対する意欲を失ってしまう。どんな子だって、勉強がわからないままでいいとは思っていません。人目を気にせず勉強できれば、勉強に対するハードルが下がります。

教員は空いた時間を、生徒一人ひとりのフォローに充てられます。集団の中では教員に声をかけることにハードルを感じる生徒でも、ネットなら教員に声をかけやすく、一対一で向き合いやすいです。

――アドバンストプログラムには豊富なコンテンツが用意され、職業体験などリアルなプログラムもありますね。刀鍛冶(かじ)、マタギ、イカ釣りなど個性的なラインアップですが、この狙いは。

さまざまなコンテンツを用意しましたが、強制はしていません。やりたい時にやりたいことをやればいい。無理強いすると、嫌になってしまうこともありますから。通信制高校にリアルな体験は必要ないと思われるかもしれませんが、むしろネットの授業で効率よく学んだら、余った時間で自分なりのリアルな体験をしてほしい。

職業体験のラインアップは、普通だったら出会わない人を通して、世の中を知ってほしいと思ったからです。一人の世界って狭いですが、世の中のいろいろなことを知れば、自分の立ち位置を見つけるきっかけにもなります。

世の中の動きは速く、常に変化しています。その全てを学校の先生が教えることは不可能です。私たちが小中学生の時は、学校が最先端でした。音楽室には楽器がそろい、理科室には最新の実験器具があった。でも今は学校に行かなくても地域に施設はそろっているし、ネットで学ぶことができる時代です。学校の外にも学びの場はたくさんあり、その社会資源を活用させてもらおうというのが我々の考えです。

――桜蔭、聖光学院、女子学院など、難関中高一貫校から転校する生徒もいます。彼らは、何を求めてN高に入るのでしょうか。

教育の目的とは何でしょうか。今いる学校で、何かを成し遂げることではありません。世の中に出た時、一人の社会人として労働し、対価を得て税金を納めること。そのための人材育成であって、社会人となる途中の高校には、いろいろな選択肢があって当たり前です。有名大学、有名高校に入ることが目的ではなく、本校は「将来こうなりたい」と先を見据えて、手段としてN高を選んでくれる生徒が多いです。

難関校から転入した生徒からは、効率よくいろいろなことを学べるという利点を感じて、N高を選んでくれているといった話も聞きます。

――今年は東大に1人、京大に3人が合格するなど進学実績が目立ちます。今後、難関大学への進学を伸ばしていく方針ですか。

本校はさまざまなコンテンツがあり、難関大学に合格するコンテンツや教材もそろっています。大学を目指す生徒には合格のための勉強を保証し、東大だろうが海外の大学だろうが、生徒の希望を実現できるように全力で応援します。

難関大学の合格実績は、やはり上げていきたい。世の中から「どこの大学に行った」という評価で見られるのは事実で、そこから逃げません。進学実績は関係ないとも思わないし、学校としての評価を上げることも必要だと思います。N高には就職する生徒もいますが、N高のステータスが上がることは、どんな生徒にとっても励みになります。

昨年の第2回全国高校eスポーツ選手権で、N高eスポーツ部のチームがリーグ・オブ・レジェンド部門で優勝しました。出場した生徒が「僕たちが名前を上げれば、後輩も喜ぶ」とコメントしてくれた。うれしかったですね。

オンライン授業で学びを止めるな
沖縄県の伊計島にあるN高本校=同校提供

時代の動きにN高が重なった

――17年から通学コースを開設しました。ネットコースとの違いは何でしょうか。さらに19年にはN中等部も設けていますね。

N高のベーシックプログラムは知識のインプットですが、通学コースはアウトプットを中心に行います。教科の授業はネットコース同様に映像で行い、生徒たちはグループでプロジェクトに取り組みます。たとえば内容は、「クールジャパン冊子制作・日本の魅力を伝える」「企画力実践・リアル脱出ゲーム制作」などで、プロジェクトを遂行することで、企画力やプレゼン力、表現力を身につけます。

オンライン、オフラインを区別するのではなく、オンラインの延長線上に通学コースがあるイメージです。生徒たちはシームレスに感じていると思いますよ。

N中等部は、小学生や保護者の「中学から入りたい」という声に押されて開設しました。現在の中学校に在籍しながらスクールで学んでもらう形になります。

――N高の生徒数は、初年度の約1500人から、現在は約1万4700人に増えています。ここまで伸びた理由を、どのように見ていますか。

我々が何かをしたというよりも、N高のようなシステムを求めている層が、潜在的に存在していたんだと思います。学校だけじゃない学び、旧来の通信制高校やフリースクールではない、新しい学校を求める人たちです。そこにN高が出現したので、これだ、ということになったのではないでしょうか。

もう一つは社会が変化し、通信制高校を受け入れる土壌ができてきたこと。ひと昔前だったら、学校に通わないという選択肢は、なかなか許容してもらえなかったでしょう。本校は全国を対象とする広域の通信制高校ですが、最初に生徒になってくれたのは首都圏の子どもたちでした。都市部ほど、新しいものに抵抗がありませんから。時代の動きに、N高が重なったんだと思います。

――今後の展望を聞かせてください。

N高はここまで成長できましたが、出口もしっかりと提供していきたい。1万5千人の生徒がいれば、1万5千通りの進路があります。通信制高校だから高校を卒業させればいい、というわけにはいきません。学校として当たり前のことですが、進路にもこだわっていきたいです。

大学、専門学校に進学する生徒も、就職する生徒も、進路に違いはありません。一人ひとりの生徒が希望する進路を実現できるよう、教職員の体制を固め、スキルの向上に取り組んでいきたいと思います。

N高校

学校法人角川ドワンゴ学園が2016年4月に設立した通信制高校。17年に通学コースを設けた。全国から入学できるネットコースと、19地点のキャンパスに通う通学コースがある。本校は沖縄県うるま市の伊計島にある。

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