編集長コラム
共通テストの混迷にコロナ休校 「受難の高校3年生」をこれ以上翻弄しないで
2020.04.27

新年度から2代目編集長になった市川です。着任早々、新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が発せられ、編集部員は在宅勤務を基本としながらオンラインで取材して原稿を書くなど、慣れない作業に追われています。でも、今いちばん困惑しているのは、大学受験を控えた高校3年生ではないでしょうか。
(写真は、マスク姿で通学する新潟県内の高校生=4月14日。県立高校は翌日から再び休校に入った)
部屋を整理していたら、古い新聞記事の切り抜きが出てきた。
〈「過程」わからぬマークシート〉の見出し。今年で最後となった大学入試センター試験の前身にあたる「共通一次試験」(1979~89年実施)を受験した高校3年生の投書である。
〈コンピューターが採点する以上、解答は記号化されなければならない。(中略)考え方がわからなくて、カンで書いた答えが合っていた人、逆に考え方がわかっていたのに、わずかなミスで点を失った人が数人いた〉〈マークシート方式では、思考の経過までは明らかにできない。今年の数学の問題は、正解が一けたなのに、わざわざ二けたの解答欄を設けるといった細工が目立ったが、共通一次ではその程度の「工夫」しかできないことを、おのずと語っているようであった〉
筆者は17歳の私である。85年1月に受けた共通一次の出来がよくなかったので、腹いせに嫌みを書いたのかもしれない。5教科7科目の共通一次は受験生の負担が重すぎると批判される一方、大学が受験科目を選べる「アラカルト方式」の導入で私大にも広げようとの論議が高まるなかでの受験だった。当事者にもひとこと言わせろと筆を執ったのだろう。
1967年3月生まれの私は、66年の「ひのえうま」と同じ学年にあたる。迷信の影響で、この年代は人口が少ない。そのせいではあるまいが、入試や学習指導要領ではたびたび新制度の洗礼を受けてきた。都立高入試では学校群制度が廃止され、グループ合同選抜の初年度となった。そうして入学した高校では「現代社会」という新科目が導入されたが、教科書に沿って授業が行われた記憶はなく、岩波新書をひたすら読んで要点や感想をまとめるという課題に苦吟した。いま思えば、読解力、思考力、記述力を鍛える格好の教材だったのだが……。

「過去問」のない世界へ
そんな昔話から35年――。受験生の受難といえば、いまの高校3年生は史上最悪の被害者として歴史に残るかもしれない。この年代が初めて受ける来年1月の「大学入学共通テスト」では、英語の民間試験と国語・数学の記述式問題が導入されるはずだったが、昨年、すったもんだの末に見送られた。そこへきて、今度は新型コロナウイルスの感染拡大である。全国の学校は3月上旬から一斉休校に入り、新年度になって緊急事態宣言が発令されると多くの地域で休校が延長され、いまだに出口が見えない。
「模試が中止になっちゃった。どうしたらいいの?」
知り合いの高3生のママから、そんな悲鳴にも近い書き込みがLINEに上がっていた。模擬試験の結果をもとに志望校を絞り、その試験科目に応じて受験勉強を進め、過去の入試で出た問題を解いて本番に備える。そんな定石が通用しない事態になりつつあるのだ。今年の高3生の受験は、もはや「過去問」のない世界に突入しているといえるだろう。
いっそのこと、総合型選抜(AO入試)や学校推薦型選抜(推薦入試)に切り替えようか。そう考える人もいるかもしれない。だが、その選択も容易ではない。高2までに一定の実績を積んでいればいいが、高3で頑張ろうと思っていた生徒は身動きが取れないだろう。得意のスポーツや文化活動で成果を出そうにも、大会やコンクールが実施される状況にはない。

「正解のない問い」と化す受験
萩生田光一文部科学大臣は、総合型選抜や学校推薦型選抜について「募集の時期を遅らせる必要がある」との考えを示した。「特定の受験生が不利益を被ることがないように」という趣旨のようだが、はたして実施時期を延期するくらいで乗り切れるのか。それに、総合型や学校推薦型のスケジュールを遅らせれば、一般入試にも影響が出てくる。そもそも、来年1月、50万人以上が一斉に受験する大学入学共通テストを実施することは可能なのだろうか。
いたずらに不安をあおるつもりはない。いまのところ受験生は、大学入試が予定通り実施されるという前提で準備を進めるしかないだろう。しかし、今後の状況によっては戦略の大転換を迫られる局面が出てくるかもしれない。「正解のない問い」にどう向き合うかは教育改革のテーマの一つだが、いまの高3生が受験を通じてその試練を課されているとすれば、あまりに皮肉と言うしかない。
だからこそお願いしたい。来春にかけての大学受験全体のスケジュールを、新型コロナウイルスの収束時期に応じた条件付きでもいいから、早く示してほしい。英語民間試験と記述問題の見送りのときのように、土壇場で受験生を翻弄することだけはやめていただきたい。