知りたい 聞きたい キーパーソンに問う

開成前校長・柳沢幸雄さんに聞くリーダーの育て方 保護者がすべきことは?

2020.05.01

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柏木 友紀
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先行き不透明な時代に、自ら学び、考え、生き抜く力をどう育てるのか。開成中学・高校の校長を退任し、神奈川の私立・北鎌倉女子学園の学園長に就任した柳沢幸雄さんに、自立したリーダーの育て方」というテーマで話を聞きました。(インタビューは3月末)

話を伺った人

柳沢 幸雄

北鎌倉女子学園長(開成中学・高校前校長)

(やなぎさわ・ゆきお) 東大名誉教授。ハーバード大大学院准教授・併任教授などを務めた。研究テーマは、空気汚染と健康の関係。2011年度から開成中学・校長、2020年度から現職。1947年生まれ。開成高校、東京大学工学部卒業。豊島区で育つ。趣味はゴルフ。

新型コロナウイルスの感染防止のため、3月に縮小して実施した開成の卒業式で、リーダーの素質について述べておられました。

ウイルスの感染拡大を防ぐために、国や企業、学校などあらゆる組織で意思決定がなされています。意思決定は判断、及び決断によってなされます。判断は、多くの選択肢を論理的に比較検討すれば、一つの解に到達しますが、決断は情報が不足していてもアクションを取らなければならない緊急を要する状況下でも行われます。リーダーとは、この決断に対して結果責任を負う役割です。我々全員が自己の人生に対しては、決断を重ねるリーダーであり、結果責任は自分自身が負うことになる。適切な判断ができるように、学び続けてほしい。そして果敢な決断ができるように、挑戦し続けてほしい。学問とは、世のために尽くしてこそ、価値があるのです。

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開成中学・高校の校長を退任し、神奈川の私立・北鎌倉女子学園の学園長に就任した柳沢幸雄さん

2020年度からの教育改革では、知識や技能を備えたうえで、思考力や判断力、表現力を育てることを目指しています。現在の状況をどうご覧になりますか?

そもそも改革のきっかけは、1点刻みの知識の集約では測れない真の学力を問うことでした。大学入試という「入り口主義」でなく、最終的に社会に出た時に活躍できる人物を育てる「出口主義」でみようと。出口が変われば、大学と高校の接続部分、つまり入試が変わり、高校までの学習指導要領も変わる。

例えば今回、英語の民間試験の活用で、「読む」「聞く」に加えた「話す」「書く」の4技能を測ろうとし、記述式も導入しようとしました。これらは社会において必要とされる重要な能力であり、それを入試で問うのは大賛成です。世界中の様々な人とコミュニケーションを取るには、英語は言うに及ばず、論理的な文章で表現することが不可欠。しかし、英語も記述式も、技術論で頓挫してしまった。住む地域や経済的理由、そして試験の採点や比較の方法という3つの技術的な「不公平」の論点でつぶれてしまった。

英語の民間試験の金額や地域性が問題なら、受験にかかる費用を国が負担するなど方法はあった。記述式問題は全国一斉の共通テストで実施するのは無理がある。答えは一つではなく、読み取り方は千差万別。問題を出す人、解く生徒、採点する人が三位一体にならないと成り立たない。各大学が個別試験で問うしかないのです。

今回の頓挫は、本質に答えることなく、その手前で潰れるというダメな意思決定の典型的な例です。

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今年2月の開成中学の合格発表=2020年2月3日、柏木撮影

真の学力、論理的な思考力を伸ばすには、どうしたらよいのでしょうか?

家庭でできる最大の方法は、子供自身に「話させる」こと。親が先に答えを言わず、子どもに「教えてもらう」のです。相手に理解してもらうようにどう伝えるかというのは、論理的思考力の基本です。

中学生時代は勉強がどうこうより、いかに人と接するか、いかに価値観を形づくるかに力点を置きたい。これは中高一貫校だからできることですが、6年間の尺度で見ると、中1中2は羽目を外すのです。そこで好きなことを見つけ、クイズでも数学でも、何かに没頭するのがいい。そこで人生の「師」となる先輩を見つける。高校生になると急に大人になり、また後輩に「教える」ことでさらに身につく。だから部活や学校行事が大きな意味を持ちます。

この先、どんな時代になるか分からない。具体的にこれを準備すればいいとは言えない。勉強でもスポーツでも好きなことを極め、とんがっていればいいのです。それが将来、職業になればこれほど幸せなことはありません。開成OBで言えば、東大クイズ王の伊沢拓司くんや、メディアアーティストの落合陽一くんはすごい。新しい職業分野を作ったわけですから。準備して進んだのではなく、ただ面白くて突き進んだのだと思います。

トップを育てるのに保護者にとって必要なことはなんでしょう?

用意されたことを指示通りにこなす要領ではなく、どんな社会になっても生き抜ける「対応力」をつけさせること。そして世界と伍していくには、自己肯定感と自信を持たせること。それには大人が「ダメ」と言わないことですね。「指示待ち」の子を作るのは簡単です。「ダメ」と2回言えばいい。そうではなく、何でもまずは「やってみなさい」と。自分で提案したことをやり抜くことは、どんな小さなことでも満足感があります。その積み重ねがリーダーを育てていく。

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