新しい教育のカタチを考える

AI・データサイエンスの知識で子どもの生涯年収が変わる? 未来を切り拓く科学の力とは

2020.05.02

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ゆきどっぐ
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「コンピュータを積極的に活用する力」や「プログラミング的思考(論理的思考力)」を育むため、小学校では2020年度からプログラミング教育が必修化しました。「これからはどんな職業でもコンピュータが必要になる」という先見の明を持ち、2003年に「子どもの理科離れをなくす会」を立ち上げた北原達正さん。子どもたちの未来を切り拓く科学の力について伺いました。

話を伺った人

北原 達正さん

e-kagaku国際科学教育協会、子どもの理科離れをなくす会 代表

(きたはら・たつまさ)京都大学理学部卒、同大学院理学研究科後期博士課程にて宇宙物理学専攻。京都大学総合人間学部などで非常勤講師を務める。2003年に「子どもの理科離れをなくす会」を設立。国際科学技術コンテスト ロボカップジュニア運営委員、私立中学の最高教育責任者など、さまざまな要職に就く。

原稿を読まずにプレゼンする「スペースバルーンプロジェクト」の子どもたち

2019年10月、成層圏の物理データ採取を課題に、宮古島から5万メートル上空の成層圏へ、ロボットカプセルを乗せたスペースバルーンが打ち上げられました。国際科学教育協会主催のもと、「スペースバルーンプロジェクト」と名付けられたこの活動は、日本初の子どもたちによる成層圏観測となりました。

活動を支えるのは国際科学教育協会、そして同会が運営する「子どもの理科離れをなくす会」で代表を務める北原達生さんです。京都大学総合人間学部などで非常勤講師も務め、科学を通した人間教育・グローバル人材の育成を実践しています。

新しい教育のカタチを考える

取材したこの日は、アナリシス&研究チームの第一段階成果物の発表をオンラインで行っていました。チームに所属する約30人を半分に分け、日焼け止めを塗ったセンサーの分析結果を北原さんに向けてプレゼンテーションします。参加するのは全国各地に住む小学6年生や中学生、サポーターとして活躍する京都大学の学生(以上、取材当時)です。子どもたちは研究成果をグラフや計算式などを入れたパワーポイントで説明し、北原さんからの質疑に答えます。

「コンテストや実験が失敗しても親は助けてくれません。ですから、プレゼンテーションでは、原稿を読み上げずに自分の言葉で説明する。コンピュータがフリーズしたら、誰の手も借りずに元に戻すなど、社会で通用する人材に育つよう指導しています。そういう環境に小学生から慣れさせることで、当たり前にできるようになっていきます」

同会では2020年9月にスペースバルーンプロジェクトの2号機を、2023年には人工衛星の打ち上げを予定。子どもたちの活躍する場を広げています。

「このままだと長男が就職できない」と危機感を覚えた

2003年に立ち上げた「子どもの理科離れをなくす会」は、「10年後の科学技術者の育成」をテーマに、2歳から社会人向けのプログラミング講座、AI(人工知能)・データサイエンス人材育成のためのコンサルティングなど、すべての世代がAIとICTについて学べる「e-kagaku Academy」を展開しています。

「この会を作ったきっかけは、12歳になった自分の長男に対して、『私が社長だったら、この子は採用しない』と危機感を覚えたからです」

北原さんは、そう感じた原因の一つに科学教育の環境整備不足を挙げます。

「スポーツの世界で10代のプレイヤーがメディアに取り上げられるのは、大会でプロの大人を負かしたなどの話題が多いです。彼らは大人と同じバットやラケットを使って練習し、大会に出場しますよね。一方、科学では子どもと大人の世界がくっきりと線引きされています。例えば、子どもにプログラミングを教えようとすると、子ども用のキットが渡されます。コンテストでも、子どもと大人が同じ土俵で勝負することはありません。それってなぜでしょうか。科学も、大人と共通のデバイスを子どもに持たせ、同じ条件で競うコンテストを作るべきです。そうでないと、人材は育ちません。同じ課題に年齢の垣根を越えて参加するからこそ、適切な評価・指導ができるのです」

新しい教育のカタチを考える

そんな考えから、「e-kagaku Academy」では、一人一台の機材を用意し、国際科学教育協会主催のスペースロボットコンテストでは、出場対象年齢に制限をなくしています。さらに、大人と共通のデバイスを渡すうえで大切なのは、科学を通した人間教育だと北原さんは話します。

「科学は人間を殺せます。自動運転車に0.1の計算ミスをしたプログラムを組んだら、車は人混みに突っ込むかもしれません。突発的なことに臨機応変に対応できるのは人間ですから、子どもたちはそれに対応する力を身に着ける必要があります。『e-kagaku Academy』では、子どもたちにAIとデータサイエンスの作り方を指導していますが、それをコントロールするのは人間だと常に伝えています」

科学教育を通して育む 子どもたちに必要となる力

AIやデータサイエンスが扱える人材は、これからの社会でより一層求められます。それを証するように、ソニー株式会社では、AIなどの分野で活躍できる人材確保のため、新入社員の年収を能力に応じてこれまでより約200万円程度高く設定しました。

「同じ大学を卒業しても、能力差で初任給が異なる時代がやってきます。つまりAIやデータサイエンスに関する知識は、子どもの人生を変えてしまうのです。その事実をどれだけの人が理解しているでしょうか。現在、子どもたちが学ぶプログラミング言語は、彼らが大人になった時には使われていないかもしれません。しかし、最も重要なことは、どんな言語でも自分で調べ、習得できることです。そのためのトレーニングとして、データを取り、活用する機会が必要なのです」

加えて、グローバル時代を生き抜くためには共通言語の習得も大切だと指摘する北原さん。共通言語とは語学力ではなく、知識のこと。「2×3=6」、「2+3=5」と世界中の子どもが答えられるのは、「×」と「+」の違いを共通言語として認識できているからです。お互いに同じレベルの知識を持っているからこそ、世界中の人々とのコミュニケーションが成立する。教育はこの共通言語のレベルを上げる役割を担っているのです。

「私たちは、ICTの基礎を持つボトム層、システムの運営や運用を行うミドル層、グローバルICTを担う人材であるトップ層のうち、ミドル層のレベルを底上げすることを目指しています。ソースコードが読め、数値・統計・アナリシスができるミドル層が増えれば、グローバルに活躍できる人材が育ち、自ずとトップ層も出てくることでしょう」

新しい教育のカタチを考える

「わが子を理解したい」からプログラミングを学ぶ 保護者の意識の移り変わり

近年は、大学生や社会人向けに、キャリアアップや人材確保、働き方改革を目的とした「大人のためのICT講座」や「データサイエンス講座」などを「e-kagaku Academy」で開講。保護者が受けるケースも増えています。北原さんは、「プログラミング」という言葉の知名度が上がり、設立時に比べて保護者の意識も随分と変わってきたと言います。

「保護者が受講するきっかけは、プログラミングを理解し、わが子のやっていることを褒めたいという意見が最も多い。中には、自分の仕事に活かしたいと言う方もいます。職場でプログラミング教育の必要性を切に感じる場面もあると思いますが、『まだピンとこない』という保護者には、動画『Did you know? 』を見ることを勧めています」

この動画は2000年初頭にアメリカの教員が作成したもので、社会や技術が変化するスピードの速さをわかりやすく伝えています。

「子どもたちが生きる未来は、価値観や文化が違う相手に自分を認めてもらい、物を売らなければならないグローバル時代。加えて、大学1年生で学んだ知識が卒業時には時代遅れになるスピード感を持っています。子どもたちはそれに対応できる力を身に着けていかなければなりません。まずは動画の内容を見て、共感できるかを考えてみるといいでしょう。共感できなかったとしたら、技術革新についての知識を保護者自身が改める必要があります。

これからはインターネットに繋がってさえいれば、どこにいても教育が受けられる時代です。『e-kagaku Academy』では、プログラミング教育の地域格差解消も視野に入れ、オンライン授業に力を入れています」

文系でも理系でも、社会人になればコンピュータを使う時代。プログラミング教育はプログラマーになる人だけに必要なのではなく、子どもたちと社会の未来に必須となる知識なのです。

(撮影:辰根東醐 編集:阿部綾奈/ノオト)

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