『ドラゴン桜2』桜木建二が教える 2020教育改革

超難関!オンラインで学ぶミネルバ大学の学びとは 初の日本人学生に聞く

2020.05.04

author
桜木 建二
Main Image

「ミネルバ」。ローマ神話に出てくる知恵の女神の名を冠した大学のこと、聞いたことがあるだろうか? 21世紀になってから誕生した新しい大学だというのに、世界中から常時2万人以上の受験者を集め、合格者のなかにはハーバード大学やケンブリッジ大学を蹴って進学する例も多々ある。すでに超難関大学となっているのだ。ここで初の日本人学生となったのは、現在3年次で学ぶ日原翔さん。「ドラゴン桜」ではいつも「東大へ行け!」といってきたものだが、日原さんの選択には大いに興味をそそられるな。ご本人に様子を聞いてきたぞ。

ミネルバ大学での学びは「主体性」がカギ! 初の日本人学生、日原翔さんに聞く

ミネルバ大学は全寮制なのだが、どこか決まった場所にキャンパスがあるわけじゃない。

在学する4年間のあいだ、世界7都市(アメリカ・サンフランシスコ、韓国・ソウル、インド・ハイデラバード、ドイツ・ベルリン、アルゼンチン・ブエノスアイレス、イギリス・ロンドン、台湾・台北)を転々としながら、基本的にオンライン上で講義を進めながら学んでいくという、ユニークなことこの上ない4年制(学部課程)の大学だ。

入学試験もオンラインで行われる。全校生徒は約600人、日本人は7名在籍しているという。学費は、奨学金などを受けずに全額払うとしたら、寮費込みで1年間約300万円程度だという。

「自分にはミネルバで学ぶことはすごく合っていると思いますし、とにかく毎日が楽しい。よき学びのシステムがここにはあると感じていますよ」

と、日原さんは現在の生活にたいへん満足している様子だ。現在はブエノスアイレスに滞在している。ミネルバは、どんなところがすごいと実感しているのだろうか。

「そうですね、パッと思いつくだけでもいくつかあります。一つには、日本の教育機関とはまったく違う学びの内容と方法です。ミネルバではすべて学生の主体性が前提となります。ですから基本的に、授業が始まるときにはその内容について、学生は勉強を終えている。

その知見を使って、90分の授業のあいだはひたすら討論するかたちです。

高校時代までに僕が体験した日本の学校では、授業中に話すということがほとんどありませんでした。ただ座っているだけというのが、僕にはけっこうつらかったし、それだと学ぶ内容もなかなか身につかないという気がしていました。いまのミネルバのスタイルのほうが、学んでいる実感は強く持つことができますね」

昨今、日本でも導入が唱えられている「アクティブラーニング」がごく自然におこなわれているということだな。

ただ、そういう授業が成立するには、学生に主体性が備わっているのが前提だ。

これを日原さんはいつ、どうやって身につけたのだろうか。

友人の影響で高校を中退、カナダの学校へ

「特別に小さいころから主体的な人間だったということはありません。転換点があったとすれば、神奈川県の聖光学院に通っていた高校2年のときです。友だちがあるとき『今回の定期試験はがんばる』と宣言して、実際にいい結果を出しました。それを側で見ていて、置いていかれた気分になりました。友だちはやることを自分で決めて、きちんと実行した。

そういうこと、自分もできるんだろうか。何をしたらいいんだろう? そのときをきっかけに、真剣に考えるようになりました。

僕は小学6年生まで海外で暮らしていて、帰国してから日本の教育にちょっと苦労している面もあったので、また海外に出るのはどうだろうと考えた。それでまずカナダの学校に行き、そこでミネルバと出合いました。ミネルバでは主体的に取り組まなければ何も始まりません。そういう環境に身を置いていることで、物事を主体的にとらえる態度が身についたんだと思います」

先生は答えをくれない。学生がもがいてこそ、知識が定着する

ミネルバ大学で学ぶうちに主体性を身につけたと日原さんはいう。

「環境に大きく左右されるのが人間という社会的な生きものの特性ですからね。まずは思い切ってジャンプし、いいと思える環境に飛び込んでしまうことが大事でしょう」

主体性がみがかれるミネルバでの学習とは、具体的にはどういうものなのか。

「どの授業でも、教授がなんらかの答えを教えるということはまったくありません。彼らはファシリテーターに徹していて、どうすれば生徒が答えにたどり着けるかを考えて適宜質問を投げかけてくるだけ。最後に答えを出すのは学生じゃないといけないということが徹底されています。

日本の授業でよく見られるような、先生が順序立てて考えの筋道から答えまでを教えてくれる形式のほうが、効率がよくてインプットも多いようにも思えるかもしれません。実際のところ僕も、知識を学んでいる実感みたいなものは日本にいたときのほうが強かった気もします。ただ、そうやってインプットした知識は、数日後にはすっかり忘れてしまっているというのも同時に経験しました。

討論ベースのいまの授業は、確かにモヤモヤが残ることもあります。答えが明確に出ないことばかりですし、この時間に何をインプットできたのかはっきり示せなかったりしますから。でも、議論をするために脳をフル回転させながら授業時間を過ごすので、数週間後に同じ問題を応用させる課題に取り組んだときなどでも、意外なほど以前の内容をしっかり覚えているんですね。ひょっとすると、本当に何かを学べているとき、人はその場では実感がないものなのかもしれません」

世界中から集まる学友がいい刺激を与えてくれる

日原さんが実感しているミネルバのメリットは、他にもある。

「そこに集っている人の存在も大きいですね。ミネルバの学生は本当に多様です。国籍や年齢といった表面的な違いもあるし、考えていることや興味の対象、これまでの歩みも本当にさまざまで、みんな深いストーリーを持っているんです。

たとえばブラジル人の友だちは今年24歳で、ミネルバが3つ目の大学だそうです。最初の大学ではうまくいかず、次に行った工業大では物理とか数学を楽しく学んだけれど、卒業までいるほど充実感がなかったのでミネルバに移ったといいます。ビジネスに関心があって実際に自分の会社を持っている人もいるし、書くことが好きで作家活動をしている人もいたり、絵が好きで個展を開いたりする人も。そういう人たちに囲まれて過ごしていると自分の興味も広がって、日々新しい学びや視点が得られて、世の中が鮮やかに見えてきますよ」

人と違う「オリジナル」を積み重ねるのが真の学び

世界中からミネルバに集う多様な人たちの話を聞くにつけ、「やはりそういう大学に行くのは『特別』な人なのか」と思ってしまうが、日原さんは「そうは思いませんよ」という。

「だれだって自分に固有の人生を送っているはずですよね。ユニークなことをしている人に見えるかどうかは、自分が人と違うオリジナルであることを自覚しているかどうかの差でしかないと思います。

日本の社会では、人と違うことがあまりポジティブに受け止められないところもあるので、つい目立たないようにしてしまったりするのかもしれませんけど。自分は世の中に一人しかいない特別な存在で、自分にしかできないことがどこかにきっとあると、信じることが大事なのだと思います。これは世界中の70億人、だれにでもいえること。

僕自身のことを考えてみても、僕の関心や能力、性格といった要素の一つひとつを見れば、だれよりも優れているものなんて何もないし、僕だけが持っているものなんてありません。

でも、それらの要素の組み合わせかたはきっと僕だけの固有のものだろうし、そこに僕がいる意味や価値はあるんじゃないでしょうか。自分なりの要素の組み合わせをどんどん築き上げていく、それが学びを重ねるということなのかなと思います」

 ミネルバ大学の1年目は、ものごとの学び方を徹底して学ぶ

日原さんはさらに、4年間に7カ所に滞在するというしくみや、授業のカリキュラムも、ミネルバのよさだと強く感じているそうだ。

「いろんな場所へ行くと、それぞれがユニークだと実感します。そこに住んでいる人のパーソナリティや風土がまったく違うことに気づけておもしろいです。

カリキュラムは、1年目がとくに特徴的で、学び方を徹底して学ぶんです。

具体的なケーススタディは排除して、抽象的な概念や方法論のみをやるので、最初は歯がゆかったものです。抽象的すぎて、何を学んでいるのかよくわからなかったのです。ただ、ふりかえって考えるとそれがよかった。ものごとについて考えたり話したりするときのふるまいかたを身につけるということですから、それはいったん徹底して覚え込まないといけないものです。

たとえば『相関』と『因果』を混同してはいけないだとか。現実的なことにあえて踏み込まない方法によって、概念がしっかりと僕のなかに植えつけられました。ミネルバは学びについての科学的な知見を重視して、自分たちの進むべき道を決めています。それはだれも知らない知見ということではなく、オープンになっているものです。ミネルバがオリジナルに発見したわけではないけれど、実際に実行しているところは他にまずないわけで、その実行力がミネルバのよさと強みなのだろうと思います」

次回も、日原さんにミネルバ大学での学びについて掘り下げて聞いていくぞ。

ドラゴン桜

(山内宏泰)

話を伺った人

日原翔さん

ミネルバ大学(Minerva Schools at KGI)の3年生

(ひはら・しょう)1998年5月13日、埼玉県生まれ。世界最難関ともいわれるミネルバ大学(Minerva Schools at KGI)の3年生。聖光学院高等学校を中退し、経団連の奨学金制度でカナダのUnited World Colleges(UWC)に2年間留学した後、2017年9月にミネルバ大学に進学。キャンパスがなく、4年間で7都市を移動しながらオンラインで学ぶミネルバ大学での体験を、メディアを通して積極的に発信し、日本の教育界に一石を投じている。ソフトバンク孫正義氏が未来を創る異能を開花させる目的で設立した孫正義育英財団の一期生にも選出されている。趣味はフリースタイルダンス。

『ドラゴン桜2』

作者は、漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したが、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。弁護士・桜木建二が生徒たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに、実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。雑誌「モーニング」(講談社)や「ドラゴン桜公式マガジン」(note)で連載中。

新着記事