新しい教育のカタチを考える

プログラミング教育必修化、子どもの将来にどう関わる? これから社会で起きること

2020.05.07

author
ミノシマ タカコ
Main Image

2020年度からすべての小学校で必修化されたことで話題の「プログラミング教育」。習得することでどのような能力が身につけられるのでしょうか。そして、子どもたちの将来に与える影響とは? 2013年から小学生向けプログラミング教育を行う株式会社CA Tech Kids代表・上野朝大さんに聞きました。

話を伺った人

上野朝大さん

株式会社CA Tech Kids 代表取締役社長 兼 株式会社キュレオ 代表取締役社長

(うえの・ともひろ) 2010年、新卒でサイバーエージェントに入社。インターネット広告営業、マーケティング事業部長、アプリプロデューサーを経て、2013年5月サイバーエージェントグループの子会社として株式会社CA Tech Kidsを設立し代表取締役社長に就任。事業の立ち上げ、経営を行う一方で、一般社団法人新経済連盟 教育改革プロジェクト プログラミング教育推進分科会 責任者の他、文科省プログラミング教育関連各種委員も務め、プログラミング教育の普及、推進に尽力する。スクール生からは「ウエンツ校長」の愛称で慕われる。

新たに始まったプログラミング教育。なぜ必要?

――まずは今回プログラミング教育が必修化になった経緯について教えてください。

プログラミング必修化について検討が始まったのは、今から7年前の2013年の春です。この頃、世界各国ではプログラミング教育が必修化へと動いていました。イギリスでは2014年9月、5歳児以上は必修科目に。2016年にはフィンランドで必修化になっています。それよりも、もっと早い2000年初頭にはロシアやインドで必修化が始まっていました。そういった流れをみると、日本は遅めのタイミングで必修化が検討されたと言えます。

――プログラミング教育は、全世界的な流れなのですね。

今、世界はどんどんIT化社会へと変化しています。数十年以内に、ITによる桁違いな社会の変化が起きることは確実です。AIも当たり前となるでしょう。昔「グローバル社会が訪れる」という理由で英語が必修化になったように、これから訪れるIT化社会に対応するために、常識の一つとしてプログラミング教育が必要とされているのです。

ただ、日本の掲げるプログラミング教育は、諸外国とは少々趣が異なる内容です。例えば、イギリスでは、プログラミングを正面から教えています。5歳からアルゴリズムを教え、小学校でデバッグができるようになります。14歳からは2種類以上のプログラミング言語を学んでいきます。

それに対して、日本ではプログラミング教育といいながら、プログラミングそのものを教えるわけではありません。「プログラミング的思考」「論理的思考」が大事という考え方です。これは、小学校は職能教育の場ではないため、プログラミングという技術を学ぶ必要はないという考えに基づいています。そのため、既存の教科の授業に織り込む形での教育がなされる予定です。

新しい教育のカタチを考える

気になるのは、教科としてのポジション

――学校では「プログラミング的思考」「論理的思考」を学ぶとのことですが、これらはどういったものなのでしょうか?

この2つは同じように語られていますが、「プログラミング的思考」と「論理的思考」は別のものです。

「論理的思考」は筋道立てて物事を考えたり、説明したりする能力。とても大事な力ですが、正直、プログラミングでなくとも学ぶことはできます。この力を伸ばしたいのなら、まず国語を真剣にやることが大切でしょう。それに対して「プログラミング的思考」は、要素を分解したり組み立てたり、抽象化したりモデル化したりするための考え方です。

これは個人的な考え方ですが、楽器を弾かずして、音楽的センスを伸ばすことができないように、プログラミングに正面から取り組まずして、プログラミング的な考え方を身につけることはできません。実践でやることで身についてくる思考なのです。

また、義務教育段階におけるプログラミング教育は本格的な能力の習得を目的としたものではありません。例えば、家庭科の調理実習では、生活していくために必要な調理能力を学びます。包丁1本持ったことがないというのは、生きていく上で不都合という考え方ですよね。そこから先は、楽しみのためにクッキング教室に行く人、家事のひとつとして取り組む人、専門家になる人と、どのように利用するかは個人により様々です。

プログラミング教育も同様に、専門家を目指す人もいれば、教養の一つとして学ぶ人も出てくる。あくまで時代に合わせて、プログラミングについて知らない人をゼロにするための教育なのです。

――なるほど。実際にはどのような形でプログラミングの授業が行われるのでしょうか。

小学校では「教科」ではなく、国語・算数・理科など既存の教科に「プログラミング的思考」「論理的思考」を加えるようなやり方になります。

例えば、算数の場合、正多角形をプログラミングで作図するというような混ぜ込み方になります。ある事例では、体育のマット運動でプログラミング的思考を学ばせようと言った取り組みもあるようです。他国では真っ正面からプログラミングを扱うのに対し、日本では無理矢理入れ込んだ、という印象です。「プログラミングができるようになる」という点では学校に対して期待はできないと私は思います。

このように、必修化と言っても教科が新設されるわけではありませんから、授業時数も極めて限られたものになるでしょう。先に調理実習の例を挙げましたが、プログラミングの授業は、プール実習よりも少なく、調理実習より少し多いかもしれないくらいの感覚です。そういう意味では、プログラミング教育は「恐れるに足らず」です。必修になるからと言って、身構えることはありません。

――中学校、高校の場合は、どのような変化がありますか?

以前から、中学校では「技術・家庭」、高校では「情報」という教科の中でプログラミング教育は行われてきました。しかしどちらも重視はされてきませんでした。今回の改訂で、中学校では今までよりも時間を増やすことになり、高校では選択科目から必修科目へと格上げになっています。

ただし、2024年以降大学生になるお子さんの場合は、もしかしたらプログラミングが大学入試に関係してくる可能性があります。高校の「情報」の一環としてプログラミングを試験に取り入れると国が発表していますが、まだ明確な情報は出ていませんので、現時点では気にとめる程度で大丈夫だと思います。

親としてどうする? プログラミング教育への取り組み方

――小学生の時点では「恐れるに足らず」とのことですが、親としては子どものためにできることはあるのでしょうか。

親の教育方針によって、取り組み方は変わってきます。グローバル社会に向けて、英語を人生の武器にしてもらいたいと思えば、積極的に学ばせますよね。同じように、これから訪れるIT化社会に適応できる能力として身につけさせたいと思えば、ご家庭でも学校以外で取り組む必要が出てくるでしょう。

――積極的に取り組ませたいと思っても、子どもが苦手だった場合はどうしたらいいのでしょうか。

プログラミングに限らず、基本的には、子どもの得意な分野、やりたい分野を伸ばしてあげることが大切だと思いますので、プログラミングが好きじゃなかったり、苦手だったりする場合は、無理に取り組みべきではないと思います。ただ、プログラミングは、若い人たちほど抵抗感が低く、親和性が高いので、多くのお子さんはゲーム感覚で楽しく取り組めるのではないでしょうか。

新しい教育のカタチを考える

――小学校ではあまりプログラミングらしいことはしないとのことですが、学ばせたい場合はどのような選択肢があるでしょうか。

本やインターネットなどで、独学で習得するお子さんもいますが、基本的には中学校・高校・大学・専門学校など上位の学校に進んでから学ぶか、習い事などの形で民間のプログラミング教室で学ぶかになります。私たちが運営するTech Kids Schoolもそのひとつ。多くのプログラミング教室は必修化を念頭に置いているかと思うのですが、実は私たちはそうではありません。母体がIT企業のサイバーエージェントということもあり、ITの力がいかに大きいかを知っているからこそ、子どもたちにとって将来、有利な武器のひとつになるように、と考えてはじめました。

――Tech Kids Schoolではどのようなカリキュラムが行われているのでしょうか。

先ほど「プログラミング的思考」を身につけるには、プログラミングを実践する必要があると言いました。教室では、毎回何かを作るという実践を通し、楽しみながらプログラミングの知識を学んでいきます。

まずは1年、マサチューセッツ工科大学で開発された学習用プログラミング言語を用いて、コンピューターサイエンスやプログラミングの基礎知識を学びます。2年目からは実際に大人のプログラマーも使っている言語を用いて、アプリケーションやゲームの開発を行うといった流れです。自分のアイデアを具現化し、計画から開発に落とし込む力や、発表会でプレゼンテーションする機会もあり、プログラミングそのものだけでなく、さまざまな能力を同時に習得していきます。

また、小学校などで出張プログラミング授業も行っています。参加したお子さんからは「プログラミングの役割がわかり、楽しかった」「いつもゲームをしているだけだったけど、自分オリジナルのものを作るのも楽しい」など、前向きな声が寄せられています。

○○×ITが当たり前の社会に

――参加されるお子さんは、やはり将来IT関連の仕事を夢見ている方が多いのでしょうか。

いえ、決してそうではありません。今後、どのような業種でもITを活用するのが当たり前になっていきます。だからこそ、子どもたちの夢はプログラマー以外にも多種多様です。

文学が好きな子で、好きな小説や映画を分析するプログラムを作った生徒もいますね。スポーツ関連の仕事を目指している子は、データを集めてトレーニングに活かしたいと話していました。プログラミングを学んだからプログラマーになるというのは古い考え方で、今後はどんな職業でも掛け算的にITを活かしていくことが必須になっていくのです。

――生活する上で包丁を使えないと困るように、仕事をする上でITを知らないと困る社会がくるということですね。

はい。過去30年を振り返ってもITによって世の中が大きく変化していきました。今はまだITが関係ない分野でも、さらなる融合が進んでいきます。どのような分野でもITは欠かせなくなるでしょう。我々大人は、そうした社会変化をすでに予見しているからこそ、ITやプログラミングについて学ぶ機会を子どもたちに与え、彼らの将来の選択肢を増やしてあげることが重要です。そう考えると、10年後、再び学習指導要領が改定されるときには、もっと実践的な形でプログラミング教育が組み込まれることを期待したいですね。

(編集:阿部 綾奈/ノオト)

新着記事