学習と健康・成長

オンライン学習ツール、選び方と家庭学習法 おすすめは? 注意点は? 専門家に聞く

2020.05.08

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ゆきどっぐ
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新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、数多くの学校で休校措置が取られました。企業からはオンライン学習をサポートするさまざまなツールが無料で提供され、子どもたちの学習環境に変化が起こっています。今回は、子どもに合ったオンライン学習ツールの選び方と家庭での学習方針について、専門家に伺いました。

話を伺った人

平井聡一郎さん

情報通信総合研究所 ICTリサーチ・コンサルティング部 特別研究員

(ひらい・そういちろう)茨城県の公立小中学校で教諭、中学校教頭、小学校校長として33年間勤務。その後、茨城県教育委員会などで指導主事を勤める。古河市教育委員会では参事兼指導課長として、全国初となるセルラー型タブレット端末とクラウドによるICT機器環境の導入を推進。情報通信総合研究所ICTリサーチ・コンサルティング部特別研究員のほか、茨城大学非常勤講師、文部科学省教育ICT活用アドバイザーなどを歴任。

電子ドリルや映像授業など、多様なオンライン学習ツール

――学校の休校措置をきっかけに、多くの企業でオンライン学習ツールを無料で提供しています。そもそも、オンライン学習ツールには、どのような種類があるのでしょうか?

オンライン学習ツールの無料提供は電子ドリルをはじめ、学校の休校措置の期間が延びるにつれて増えてきました。今は次のような種類に分けられると思います。

●電子ドリル

PDFデータをダウンロードして使うドリルや、データ上に答えを記入すると採点してくれるドリル、採点後にAI(人工知能)が復習すべき単元を判断し、重点的に出題してくれるドリルなどがあります。

●映像授業

動画を見るだけで学習が完結する映像授業のほか、「ベネッセ」や「eboard(イーボード)」など動画を見た後に問題に取り組む、映像授業とドリルの融合型の学習を提供している企業もあります。

●プログラミング学習

あらかじめ用意されたプログラムのブロックつなげて、ゲームやアニメーションを作る「Scratch(スクラッチ)」をはじめ、さまざまなツールがあります。経済産業省の『「未来の教室」実証事業』の事業者に選定された「Life is Tech!(ライフイズテック)」では、プログラミングを魔法に例えたディズニー・プログラミング学習教材「テクノロジア魔法学校」を発表しました。プログラミング学習はもともと一人でできる学びなので、オンライン学習に向いています。

●自由研究

学校の休校措置が長くなった影響で、子どもが自分で学びを深めるための自由研究のテーマなどが提供されています。学校の「総合的な学習の時間」に近い学びです。

これ以外にも、本の無料配信も始まっていて、小学館の学習漫画「日本の歴史」などが読めます。子どもにとっては読書するだけでも学びにつながると思います。

――オンライン学習と、紙と鉛筆を使って取り組むドリルやワークなどの従来の学びでは、学習の進め方や効果に違いはあるのでしょうか?

紙を使うドリルなどは、子どもが自分で丸付けをして解説を読み、自己完結するものです。誰からも反応が返ってこない問題に取り組むことは、子どもにとって孤独な作業ではないでしょうか。

一方、多くのオンライン学習ツールでは、フィードバックが得られます。映像授業を見てドリルを解き、正解したら「がんばったね」と褒められて、不正解だったら復習問題が出題される。自分のペースで進められる点は同じですが、フィードバックの有無は継続する意欲につながります。これが一番の違いではないでしょうか。

また、紙で書いたほうが覚えやすいという方もいますが、書かせるオンライン学習ツールもあります。書き取りの学習効果としては、大きな違いはないでしょう。

子どもを自律に導く 保護者との距離感が大切

――自分の子どもに合ったオンライン学習ツールを見分ける方法はありますか?

面白くなかったり、合わなかったりする教材は子どもの表情や進み具合に顕著に現れます。保護者は子どもと一緒にオンライン学習に取り組み、様子を観察するのがいいですね。

オンライン学習ツールにはそれぞれに特徴があり、特に電子ドリルは問題のレベルが違います。これは、提供する企業側がそれぞれ異なるターゲット像を描いているからです。例えば、AI型タブレット教材「Qubena(キュビナ)」は、成績的に上の下くらいの子どもが対象のように感じます。子どもの学習レベルに合った教材を見つけましょう。

――平井さんがおすすめするオンライン学習ツールはありますか?

映像授業が載った「NHK for School」ですね。動画の制作技術を持つNHKが作っているため面白いですし、小学校や中学校、特別支援学校の教員が制作に協力しているので安心感があります。

それ以外には、「キュビナ」もお勧めです。AIが個々の学習者に合わせた問題を出題してくれるだけでなく、問題のヒントや解説アニメーションも充実しています。

特に算数や数学のような系統が明確な教科や、正誤のデータを集めやすい漢字や英単語の学習は電子ドリルが向いているでしょう。その際には、淡々と問題を解くのではなく、問題を解くプロセスを意識して学習を進めることが大切です。

理科と社会科については、電子ドリルが向いているとは言い難いので、映像授業を中心に楽しみながら覚えていくのがいいと思います。

国語は、ほかの教科の活動が学びにつながります。例えば、先ほど挙げた「NHK for School」。この映像授業を見ながらメモを取り、小学生なら100字、中学生なら150字にまとめてみましょう。要約や記述の練習になりますし、パソコンやタブレット端末を使えば、タイピングの練習にもつながりますよね。時には、興味のある内容を掘り下げて、調べ学習にしてもいいかもしれません。

工夫の仕方はたくさんあります。どのやり方が子どもに合うか、オンライン学習ツールが無料で使えることをポジティブに捉えて、保護者も楽しんで取り組んでいけるといいと思います。

――保護者が子どもの学習に、どれくらい向き合えるのかもポイントになりそうです。

そうですね。ただ、一生懸命になりすぎないように注意してください。「大人は忙しいから、自分でがんばってね」と子どもに委ねるくらいの環境がいいのではないでしょうか。大人だって、上司からずっと仕事を監視されるのは嫌でしょう。子どもも同じです。

新型コロナウイルスの感染予防はいつまで続くかわからない、終わりの見えない長期戦です。だから、負担が大きいことはなるべく避けた方がいい。最初から完璧な環境を作ろうとせず、まずは映像授業を見ることから始める。慣れてきたら電子ドリルなど、できることを少しずつ増やしていく。大事なのは、段階的に子どもを自律に導くことです。

長期戦を覚悟して 子どもを追い詰めすぎず無理なく続けること

――新型コロナウイルスの終息までには長い期間がかかるという専門家の意見もあります。長期的により良いオンライン学習を行うために、保護者が注意すべきことは何でしょうか?

オンライン学習と言うと、勉強が先立ちますが、子ども同士がつながることも心がけてほしいですね。保護者自身、SNSを使って「大丈夫?」と友達と声を掛け合っているでしょう。それと同じで、子どもにもつながりが必要なんです。周りの友達がどうしているか、「元気?」「元気だよ」と話すだけでも子どもの心は落ち着きます。そういう部分にこそ、オンラインを使うべきです。

学習面では長期戦を覚悟して、子どもを追い詰めすぎず、無理なく続けていくことですね。「勉強が遅れる」「今年は受験だ」と焦っても、日本中が同じ状況です。やったことのない挑戦をしようとしているのだから、慌てないで、着実に少しずつ勉強していけばいい。

文部科学省は平成29・30年学習指導要領の改訂で「これからの社会が、どんなに変化して予測困難な時代になっても、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、判断して行動し、それぞれに思い描く幸せを実現してほしい」と述べています。現状を示唆したかのような言葉ですよね。

この時期は、「人から教えてもらう学び」から「自分から求める学び」に変わる、子どもにとってのチャンスです。主体的に学ぶ力を身につけた子どもは、学校がなくたって生きていけます。大人はアフターコロナを見据えた学びができるように、支援していくしかありません。

先日、オンライン学習に取り組む熊本県在住の小学3年生が「暇だから自由研究をやってもいいですか」と教員に提案しました。その子は、免疫力アップに役立つ料理を家族と一緒に作り、写真や表を使ってパワーポイントにまとめました。こんな風にできることから始めたらいいと思います。

――環境面などで保護者が整えるべきことはありますか?

オンライン学習で必要なのは、インターネットとデバイスだけ。デバイスはタブレット端末でもパソコンでも構いません。

そうは言っても、インターネットの利用を制限してきた家庭もあるでしょう。アプリやSNSの使い方について家族で話し合い、パソコンを使う時間を決めるなどルールを考えるといいですね。話し合いのための材料は、インターネットで検索すれば、たくさん出てきます。

オンライン学習と聞くと、初めてのことでハードルが高く感じられるかもしれませんが、ただ学び方の種類が広がっただけです。子どもへの声かけにも大きな違いはありません。ピンチをチャンスに、という気楽な気持ちで意識転換をしていきましょう。

(編集:野阪拓海/ノオト)

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