9月入学は是か非か

駿台教育研究所・石原賢一さん「高3生には特例措置を、一般入試至上主義が変わる可能性」

2020.05.08

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柿崎明子
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多くの学校で休校期間が2カ月に及ぼうとしている。緊急事態宣言の解除の先延ばしで、休校は一体いつまで続くのか。先が見通せないなか、「9月入学」を求める声が現役高校生らから噴き出し、その是非をめぐり賛否両論が白熱している。「9月入学とコロナ対策は分けて議論すべき」と提言する駿台教育研究所の石原賢一進学情報事業部長に、9月入学移行の問題点と高3生に対する救済策などを聞いた。(写真は、今年が最後となった大学入試センター試験。関東地方などでは雪に見舞われた)

話を伺った人

石原賢一さん

駿台教育研究所進学情報事業部長

(いしはら・けんいち) 駿台予備学校に入職後、学生指導、高校営業、カリキュラム編成を担当後、神戸校校舎長を経て2017年から現職。

来年度入試は2カ月半遅れで、AO・推薦枠も広げて

――9月入学は何が問題なのでしょうか。

まず大学入試から考えてみましょう。スケジュールを単純に5カ月間ずらすと、6月中旬に大学入学共通テスト、7月上中旬に私立大入試、下旬に国公立大前期、8月中旬に国公立大後期の入試を行うことになります。この日程だと、特に九州や沖縄では梅雨明け時期の大雨や台風が入試日程とかぶる可能性が出てきます。これまでも大学入学センター試験などでは大雪による交通機関の影響がありましたが、最近では地球温暖化による集中豪雨や大型台風の被害のほうがより深刻になっています。

一方でオリンピックが来年に延期になり、7月23日に開幕します。ほぼ入試日程と重なりますが、大学は入試会場の確保ができるのでしょうか。また受験生は、交通手段やホテルの確保が難しくなるのではないでしょうか。高校総体や高校野球をそのまま行うとすれば、入試シーズンのど真ん中に実施されますから、スポーツに特化したような高校以外はまず参加が難しくなるでしょう。

現役の大学生にとっては、経済面の影響も大きい。5カ月延期した分の学費はどうなるのか。学費の追加負担は求めないとしても、地方から上京している大学生にとってはアパート代や生活費もばかになりません。非常勤講師への補償の問題もあります。国家試験の実施時期や、会計年度と入学時期がずれる点も調整していかなければなりません。

――今回の「9月入学移行論」の発端は、大阪や千葉などの公立高校生のネットでの発信でした。本来の学校生活を送ることができないつらさに加えて、大学受験に関しても地域格差、情報格差などの不安を訴えています。

急ぐことは、高3生が受ける2021年度入試に関して、特例措置を講ずることだと思います。現時点での休校期間を考慮して受験日程を2カ月半くらい遅らせ、4月早々に共通テストを、4月中旬から5月にかけて大学の個別試験をやり、2カ月遅れの6月入学とする。4月、5月は一般的に気象災害も少ない時期なので、入試は円滑に進められるでしょう。大学によっては秋入学の募集人員も確保し、夏にもう1回入試を行えばいいと思います。

共通テストの出題範囲は、高2の前半までとする。1980年代に行われていた共通一次試験も、最初はほぼ高1の範囲に限られていましたが、後継の大学入試センター試験は私立大の参入によってだんだん出題範囲が広がっていった経緯があります。

一般選抜の評価で公立高と私立高に差が出るとしたら、AO(総合型選抜)や推薦(学校推薦型選抜)の定員を増やす手もあります。いずれにしても、毎年6月には大学は選抜方法を公開しなければならないので、一刻も早く動いたほうがいい。今回のコロナ騒動で、一般入試至上主義が変わるかもしれません。

1970年代に国立大医学部が地方に新設された際には、国会の法案審議の遅れから4月に開校できず、10月に入試を行い11月に初年度の学生が入学しました。その時は長期休暇の短縮等でカリキュラムを詰めて教養課程を1年半で修了し、3年生からの専門課程に間に合わせるような特例措置をとっています。決してできないことではありません。

【文中写真】昨年の九州大の合格発表
昨年の九州大の合格発表。今年は新型コロナウイルスの影響で胴上げは禁止された

小学生と保護者に一番のしわ寄せ

――小学校や幼稚園などの初等教育への影響も大きいと指摘されていますね。

9月入学への移行にはいろいろな問題がありますが、それでも大学はクリアできると思います。しかし小学校は現1年生の入学時期を遅らせると親の負担は大きいし、幼稚園や保育園で預かる子どもはどのようにしたらいいか、いろいろな問題が生じてきます。

小学校の国語や理科、音楽などは、季節に学習内容が沿っています。たとえば音楽では時候によって「春の小川」「こいのぼり」「虫のこえ」を習い、理科では夏休みに朝顔の栽培の宿題が出されます。9月入学に移行したら内容をリセットし、一から教科書を作り直し、さらに学習指導要領も変えなければなりません。運動会や文化祭、修学旅行などの行事の見直しも必要です。

また5カ月間の空白期間が生まれることで、私立校には全く収入がなくなってしまう。規模の大きな大学ならば持ちこたえられても、小学校や中高では難しいでしょう。

――欧米では9月入学がスタンダードです。日本は取り残されてしまわないでしょうか。

9月入学が話題になっているので、アメリカの高校の年間スケジュールを調べてみました。一例ですが、9~11月が秋学期、冬休みをはさんで12月から翌年3月中頃までが冬学期、3月下旬から6月初旬まで春学期となっています。これを見ると、アメリカの学校の授業期間は9カ月程度で、実質10カ月間授業を行っている日本より約1カ月短くなっています。それに、アメリカと日本は教育文化が違います。たとえばアメリカは、ボランティア活動など学校外での学びが盛んです。大学入試も日本の一般選抜のように一斉にやるのではなく、複数回実施しています。そのような教育、選抜方法の違いが背景にあるのに、入学時期だけをそろえてもあまり意味があるとは思えません。

――改めて、今回の9月入学移行論をどのように考えますか。

9月入学への移行に反対しているわけではありません。2012年に東京大学の濱田純一総長(当時)が秋入学を提言したとき、一理あると感じました。大学での修学の仕方が変わってくるのも、大きな流れだと思います。しかし移行には膨大な資金とマンパワーが必要です。一番しわ寄せが来るのは、おそらく小学校の子どもたちとその保護者でしょう。全学校の9月入学移行にはあまりに解決すべきことが多いので、まずは今の高3、中3、小6などに2021年度入試における特例措置を決めて発表することが、生徒・児童、保護者を安心させることにつながります。9月入学はコロナ対策とは切り離して、じっくり考えるべきだと思います。

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