私立高校進学と家計
私立高校の授業料実質無償化、確認すべきポイントとは 自己負担分があることも
2020.05.08

子どもが私立の高校に進学する可能性を考えると、気になるのが家計への影響。2020年4月から、私立高校の授業料が実質無償化になりましたが、手放しで喜んでいいものなのでしょうか? 子育て世代のお金の悩みに、ファイナンシャルプランナーでお子さんをもつ坂本綾子さんがお答えします。
(さかもと・あやこ)坂本綾子事務所(http://www.fpsakamoto.jp/)代表。20年を超える取材記者経験を生かして、生活者向けの金融・経済記事の執筆、家計相談、セミナーを行っている。著書に「今さら聞けないお金の超基本」(朝日新聞出版)「まだ間に合う!50歳からのお金の基本」など。
実質無償化の支援を受けられるかは年収判断じゃない?
まず、私立高校の授業料が実質無償化になったのは「高等学校等就学支援金」の制度改正によるものです。
この制度は高校教育を受ける際の経済的負担を軽くするため、国公私立問わず、所得などの要件を満たす世帯の生徒に対して、高等学校等就学支援金を支給するもの。今回の改正で、私立高校に通う生徒への加算額の上限が引き上げられ、年収目安が約590万円未満の世帯は「授業料が実質無償化」となりました。
注意が必要なのは、支援を受けられるかどうかは年収判断ではないということ。「年収目安が約590万円未満」と言いますが、これは両親・高校生・中学生の4人家族で、両親の一方が会社員として働いている場合の年収の目安です。実際には住民税を元に判定されます。
・2020年6月支給分まで:都道府県民税所得割額と市町村民税所得割額の合算額(両親2人分の合計額)により判定。たとえば、合算額が25万7500円(都道府県民税10万3000円+市町村民税15万4500円)未満の場合、支給額は39万6000円(実際に支払った授業料が上限)。
・2020年7月支給分以降:以下の計算式で判定
市町村民税の課税標準額×6%−市町村民税の調整控除の額により判定。算出額が15万4500円未満の場合、支給額は39万6000円(実際に支払った授業料が上限)。
※政令指定都市の場合は、調整控除の額に3/4を乗じて計算する。調整控除とは、所得税と個人住民税の所得控除における控除差に起因する負担増が発生しないように設けられたもの。
▼2020年4月からの「私立高等学校授業料の実質無償化」リーフレット(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/20200117-mxt_shuugaku01-1418201_1.pdf
住民税は前年の所得(収入から各種控除を引いた額)で決まります。高校1年生時の支給額は、4~6月分は前々年、7月~翌3月分は高校入学の前年の所得で判定されることにも注意が必要です。
無償化でも高校入学時は授業料の用意が必須!
実質無償化になるのは授業料だけですし、そもそも支給額の年間39万6000円は私立高校の平均授業料をもとに設定されています。年間の授業料がこれよりも安い場合は、実際に払った授業料まで。逆に高い場合は、39万6000円を超える分の授業料は自己負担。さらに通学定期代、施設設備費、修学旅行代、部活動費、寄付金などの学生生活に必要な費用は自分たちでまかなわなければなりません。
私立高校進学が可能かどうかを検討する場合、授業料の支援が受けられたとしても、それらの費用を払えるかを考えましょう。ざっくりですが、もし今中学生(公立)のお子さんがいる場合、定期代などを考えると今かかっている教育費に月2万〜5万円をプラスし、その額×12カ月をして年間の教育費の額を算出して目安とし、進学後の家計を予測してみましょう。
大学進学を見越したとき、私立高校で系列の大学に進学するなら、塾や予備校代がかからない可能性も考えられますが、別の大学に通う場合は塾や予備校代がかかってきます。お子さんがどの大学に進学するかを高校入学時点などで見通すのは難しい部分もありますし、住宅ローンの有無などによってケース・バイ・ケースですが、教育費用が手取りの10〜15%におさまるかを確認するといいですね。
なお、支援金は申請から支給まで時間がかかり、国から個人に支払われるのではなく、学校に支払われ、学校から授業料相当額が支給される仕組みです。特に高校入学時は、一度、入学金や授業料などを払った後に、支援金を充てた授業料分が戻ってきます。ですから、高校入学時は、入学金と授業料の1年分程度(高校により、授業料を毎月支払う、3~4カ月分ずつ支払うなど、支払い方法が異なります)を用意しておくといいでしょう。学校にもよりますが、高等学校等就学支援金の振り込みは早くて入学年の年末というケースが多いようです。申請は毎年必要になります。2年生以降は、学校によって返戻方法は異なりますが、受け取った支援金で次の授業料を払うなどしてやりくりしましょう。
自治体独自の支援金も要確認!
私立高校の授業料の支援は、各自治体でも用意されていることがあります。
たとえば東京都では、2017年度から東京都在住で世帯年収の目安が760万円未満の世帯に対して、国の制度に上乗せする形で私立高校の授業料の支援を行ってきました。国の制度である就学支援金と、東京都独自の授業料軽減助成金を合計すると年間45万円程度の軽減が受けられました(軽減額は年度によって異なる)。2020年4月の国の制度改正を受けて、2020年度は、年収目安約910万円未満の世帯に、国の制度との合計で年間46万1000円(実際に支払った授業料が上限)の授業料軽減が行われます。
こうした制度は、原則として在籍する学校を通して申請書が配布され、期限までに保護者が自治体に申請する必要があります。自治体のサイトなどでも公表されているようなので、調べてみましょう。
一番大事なのは、私立高校進学が必要かを親子で話すこと
私の肌感覚では、東京都では授業料の支援があることで、私立に進学する話が増えたなと思っています。選択肢が広がるのは喜ばしいことですが、一方で本当に私立高校にすべきか、は親子できちんと話した方がいいと思っています。
第一希望は公立だけど、結果として私立に行かざるを得ない場合もあるかと思います。学校の雰囲気は入ってみなければわからない部分も大きいですが、公立と私立では環境が異なります。知人で通っている人がいれば、話を聞いてみるのもよいでしょう。
支援があるから私立を選ぶのではなく、そこに通う価値があるのか、の視点は忘れずにいたいですね。
(編集:阿部 綾奈/ノオト)