9月入学は是か非か

9月入学実施20年のAPU前副学長・今村正治さん「いまの移行論は足腰が弱い」

2020.05.11

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中村 正史
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多くの学校で休校期間が2カ月に及ぼうとしている。緊急事態宣言の解除の先延ばしで、休校は一体いつまで続くのか。先が見通せないなか、「9月入学」を求める声が現役高校生らから噴き出し、その是非をめぐり賛否両論が白熱している。2000年の開学以来20年間、9月入学を続けている大分県別府市の立命館アジア太平洋大学(APU)で、開学準備段階から関わってきた今村正治・前副学長に、大学のグローバル化と9月入学について聞いた。(写真は、昨年9月に行われたAPUの卒業式)

【話を伺った人】今村正治氏カオ

話を伺った人

今村正治さん

立命館アジア太平洋大学(APU)前副学長

(いまむら・まさはる)APU設立に携わり、学校法人立命館の総務部長、財務部長、総合企画部長などを経て、2014年からAPU副学長、立命館常務理事。19年に退職後、コンサルティング&コーチングの今村食堂株式会社を設立。株式会社ほぼ日「ほぼ日の学校」、札幌新陽高校、別府市などで、学校・教育・地域創生などに取り組んでいる。趣味はロックバンド。

入学時期は二者択一ではない

――2011年から12年にかけて東大の秋入学構想が話題になった時、APUのメディア向け勉強会が立命館東京オフィスであり、「うちは10年以上前からやっています」と言っていたのが印象的でした。

当時、私は「ようやく東大も」と期待しました。ただ、APUは2000年の開学時から、入学時期は4月と9月でやってきた経験があったので、一律に9月へ移行することには違和感がありました。その頃、東大の就職担当の副学長がAPUに留学生の就職の様子を聞きに来られたこともありました。

いま出ている9月入学論は、グローバル化の大前提であるかのごとき扱いをされています。本来、大学ならば、入学時期は4月にも9月にもできるし、二者択一でなくてもいいのに、9月のほうがさも適切であるかのように議論されています。APUやSFC(慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス)は開設時から4月と9月の入学としました。ただ、既存の大学が9月入学を付加するのは、入学式やオリエンテーション、卒業判定、卒業式を年2回しなければならず、大変だとは思います。APUももちろん大変でしたけど、やることがもう既定路線でしたから。

――20年間続けてきたAPUの入学制度は具体的にどういうものですか。

開学時の入学定員は2学部各400人、現在は各660人ですが、4月と9月の定員はほぼ半々です。国内学生は4月にシフトし、留学生は大きく9月にシフトします。留学生でも韓国の新学期は3月始まりなので、多くは4月に入って来ますし、海外からの帰国生や留学帰りの国内学生は9月を選ぶことが多い。2~3月の入試を受けて不合格だった人でも、秋に再挑戦できます。チャンスが何回もあるのは、国内学生も留学生も同じです。

APUは開学時に「三つの50」をミッションにしました。留学生比率50%、外国人教員50%、留学生は50カ国以上から、というものです。これを実現させるための基礎的条件ともいえるものが、日英2言語教育と4月・9月入学制度だったわけです。APUの9月入学は、絶対的な必要性から至上命題として取り組んだものです。最近では、常に90カ国・地域から留学生が入学しています。

ですから、いま出ている9月入学ありきの論は足腰が弱いというか、本気度が見えないと思います。中身や目的がよくわからないまま、グローバル化だから9月入学でしょ、となっているように思えます。高等教育界では、10年前の東大の秋入学構想以来、議論は出尽くしており、9月入学にすれば自動的に留学生が増えたり、海外留学する国内学生が増えたりするわけではないと思います。

【文中写真】APUキャンパス
APUの広大なキャンパスには、国内学生と留学生が一緒に暮らす寮「APハウス」もある

9月入学の門戸はすでに開いている

――秋入学を行っている大学は、ほかにもたくさんありますね。

私が調べた限りでは、9月入学の募集を行っているのは国公私で60大学以上あります。学部中心の大規模な入学はAPUだけだと思いますが、とにかく門戸はすでに開いているのです。もちろんAPU規模の9月入学をやろうとすれば、大学は教育条件を相当刷新しないといけませんが。

9月入学論者たちは、制度を変えることで社会も変わるよう求めていますが、なぜ入学時期を4月から9月に切り替えなければならないのか、なぜ二者択一でなければならないのか、もっと考えるべきです。移行には長い時間がかかります。

APUをつくっている時、私たちには社会が変わってくれないからできないという発想はありませんでした。やるしかなかったのです。グローバル教育のためにはこれだ、これしかないと考えたから、チャレンジしたのです。社会に媚(こ)びず、ある意味、社会に提唱するつもりで、つくっていたのかもしれません。

――東大の秋入学構想には様々な反対意見が出されましたが、その一つに日本の新卒一括採用の時期とずれるというのがありました。

あの時、APUのことが参考にされていないなと思ったのは、すでにAPUでは春、秋に卒業生を社会に送り出していた実績があったからです。APUには「アドバイザリー・コミッティ」という形で、経団連を先頭とする企業が奨学金集めなどで応援団になってくれていたのですが、実際に留学生に会って、「優秀な学生を採用したい」「会社のグローバル化に生かしたい」と1期生から採用してくれたのです。現在のように留学生が日本企業に普通に就職する本格的な「事始め」の瞬間だったと思います。

APUでは毎年、留学生のうち4割程度が日本で就職、進学し、その7割程度は首都圏に行きます。今なら日本企業でも秋採用、通年採用は珍しくないし、9月卒業の採用内定学生が翌年春に入社するまでの期間を有効に使うことも可能です。やり方はいくらでも工夫できますし、大学と企業がともに変わっていけばいいのです。

小中高と大学は厳密に区別を

――グローバル化のためには入学時期だけでなく、入学選抜制度を変えることが重要ですね。

入学募集については文部科学省が管轄し、選抜の時期、AO(総合型選抜)・推薦(学校推薦型選抜)・一般入試などの入試方式、学部ごとの入学定員を記載した募集要項を年度ごとに提出しなければなりません。日本の大学は一般入試とそれ以外の比率を見ても、一般入試中心のスタイルを大胆には変えていません。一律の仕組みとして共通入学試験(これまでの大学入試センター試験や来年からの大学入学共通テスト)と各大学の一般入試制度があり、プラスアルファとしてAO・推薦がある。大学が体制を整えながら、入学定員や選抜制度が弾力化されれば、9月入学の門戸を開いていくのに有効です。

APUは、留学生向けに一律一斉の入試はしていません。国あるいは高校によって学事暦や大学進学に関わる卒業・資格試験の実施時期が異なるからです。語学能力、高校の成績、エッセー、直接またはスカイプによる面接などで選抜します。入学時期を4月にするか9月にするかは、本人が決める。学内の成績を示すGPAでいうと、受験をくぐり抜けてきた国内学生よりも留学生が上位を占めます。就職状況もとてもいい。グローバル化を言うのであれば、入学時期だけではなく、延々と続けてきた日本の伝統的な入試体系も見直すべきです。

9月入学=グローバル化というイメージを独り歩きさせても、行く先は見えません。コロナとの付き合いが続くこれからは、本気で日本に来てくれる優秀な留学生をどうやって獲得するかが大事です。優秀な留学生を見分けるノウハウを蓄積することです。そうしたノウハウが国内学生の募集や選抜に生かせます。日本もこれからは本気で長期留学に飛び立つ日本人を育てないと。

慶応SFCが今年のAO入試をオンラインで行うことを発表しましたが、これからのグローバル化は、入試だけでなく、オンラインで世界とつながりながら学ぶ仕組みづくりが求められます。

――今回浮上した9月入学論は、学校が休校になって学びの機会を失った高校生たちが署名活動を始めたのがきっかけですが、小中高大が一緒くたに議論されていると感じます。

小中高の問題は入学制度の一般論ではなく、学校再開が切実な課題です。大学のグローバル化とは相当の距離があり、厳密に区別すべきです。

大学について言えば、4月入学も9月入学も両方あったほうがいい。高校生にとって、進学の際の選択肢が広がっていいでしょう。入学までの半年間、海外留学に行くとか、企業などにインターンに行くとか、欧米のように入学準備コースを受講するとか。高校を卒業してすぐに入学するか、でなければ次の4月まで入学機会がないというのではなく、いろんなパターンがあっていい。大学が入学時期や選抜方法を整えていくことで、高校の改革につながり、やがてそれが中学、小学校に波及していくことになります。

未来を見据えたら、国内外の学生にとって入学時期は多様なほうがいいのです。9月に一斉にそろえることになると、これまで日本が築き上げたものがつぶされて、ムダな努力を強いることになります。

休校問題がそうですけど、一律とか一斉とかいう考え方に疑問を持つことも必要ではないか。9月入学か4月入学かという二者択一に対してもそうです。二者択一のように簡単に割り切れる問いが正解だと思い込むことは、残された「良問」をつぶしてしまうことになります。これからは大学をはじめ、小中高、教育機関がそれぞれの判断で模索することが重要です。

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