『ドラゴン桜2』桜木建二が教える 2020教育改革

難関ミネルバ大学初の日本人学生、学びの原動力は「好きなことをする」

2020.05.18

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桜木 建二
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前回、世界最難関ともいわれるミネルバ大学で学ぶ日原翔さん(現在3年次)に、「ミネルバではすべて学生の主体性が前提」「ものごとの学び方を徹底して学ぶ」といった特色ある授業のカリキュラムについて教えてもらった。従来の大学のイメージとは大きく異なるミネルバ大学だが、今回は、そんなハードな生活を支える原動力について日原さんに聞いてみた。

超難関・ミネルバ大学で初の日本人学生として学ぶ日原翔さん その「原動力」とは

主体性を重視する環境は、競争とは無縁

日原さんのミネルバでの日々は、オリジナルかつ有意義なもののようだが、すべてのことが受け身ではいられないこともあって、決して楽ではなさそうだ。

「そうですね、なかなかハードな毎日です。授業はすべて英語で、1コマ90分の授業が1日に2コマ、午前中にしかありませんけど、授業に出るためには事前に授業時間の少なくとも2倍の準備時間が必要です。

授業が終わればレポートを書く課題があることも多いですし、せっかく滞在している街を見て回る時間も欲しい。食事も自炊なので、食材を買いに行ったりと生活面での自立も求められます」

それはいくら時間があっても足りなさそうだ。

ハードな生活を維持するにあたって支えになっているのは何なのだろうか。

「やらされているのではなく、好きでやっているからできるんでしょうね。クラスメイトもがんばり屋が多いですよ。他者と競っている感じはなくて、みんな協調し助け合っています。

思うんですけど、主体性がある人にとっては競争というモチベーションはいらないんじゃないでしょうか。競争ベースとは別の原理で動く世の中のほうが理想的だなと思います」

学んだ知識を世の中にどう生かすかが問われている

1年次のカリキュラムは「学び方を学ぶ」ことが徹底されているとのことだったが、2年次以降はどうなるのだろう。

「通常の授業がおこなわれます。2年の前期に僕が取ったのは、物理学と数学、政治学など。

ただし形態としてはやはり、内容は事前に文献を読むなどしてインプットしておいて、授業の90分は討論するというものです。

ミネルバの方針としては、知識を世の中にどう生かしていくかが重視されます。僕も個人的に、学んだことは社会に還元したいという気持ちが強いので、そこは合致していますね。

3〜4年次になると自分の学びたいコースを丸ごとデザインするようになります。自分の進む道としては、科学やテクノロジーを人のために使いたいと思っているので、そのために学ぶべきことをこれから絞り込んでいきたいです。

ミネルバ大学は教養大学なので、科学やテクノロジーに関する研究をさらに掘り下げたくなったら、専門的に学べる大学へ進む選択肢もあるかもしれません。将来の進路は、まだそれほどかっちりと決まっていなくて、ぼんやりとしています。

でも、それでいいのかなと自分としては考えています。自分の強みはそれほどすぐわかるものでもなくて、わからないなりに手当たり次第やってみるところから浮かび上がってくるだろうと思うので。本人もよくわからないまま何かをやってきた積み重ねのなかから、確固たるものが見えてくるだろうと期待しています」

学力よりも「好奇心」がいい学びにつながる

日原翔さんはミネルバという場を得て、本人にとって「いい学び」を積み重ねているようだな。

ここで疑問に思うのは、そういうことができるのは、もともとしっかりとした学力の土台があるからではないのだろうか。

好きなことをするにも、まずは基礎学力が相当に必要なのではないか。

「どうでしょう、僕はいわゆる学力なんて、あまり必要ないと思います。日本にいたときは自分も科目によっては追加講習を受けなければいけないような生徒でしたし。学力よりも、いま生きているのは好奇心ですね。

小さいころからいつだって『なんで? なんで?』と聞いているタイプでした。あまりにも両親に質問ばかりするので、5歳か6歳のときの誕生日プレゼントとして百科事典をあてがわれました。疑問に思うことがあったら、まずはこれで調べてみて、それでもわからなかったら聞いて、といわれたんです。

新しいことやものごとのしくみを知ると、すこし大人になった気分でした。何かを知ると、その先にまた次の知りたいことが浮かんでくるのも楽しかった。いまも変わらず、何かを知ることへの好奇心は強いほうだと思います。それが僕の財産だし、今の生活を支える原動力かなと感じています。ミネルバの入学試験でも、『なんで?』と常日頃考えてきたことが役立ちました。僕の時の試験は、覚えた知識を問うものではなく、表現力や数学、創造性、理解力などの複数の思考力を測るものでした。さらに、出題されたテーマに対して自分の考えを述べるエッセイがありました。僕にとってはさほど難しくなく、A4用紙2枚のエッセイを20分程度で書きましたが、世の中のことに幅広く疑問を持ち、普段から自分の考えを意識していないと、難しいテストかもしれません」

小さいころにぜひやっておくべきこと、というのは何かあるだろうか。

「好きなことがあったら、それに夢中になればいいと僕は思います。対象はなんでもよくて、何も算数や理科にまつわることじゃなくたって、スポーツやゲームなんかでもかまわないんじゃないですか。楽しんでやればこそ見える世界があるはずですし、いやいやながら何かに取り組んでも、だれも得しないのでは。いまのうちから勉強もしっかりやっておかなくちゃ、と大人は思うでしょうけれど、勉強っていつでも始められるし、いつから始めたって遅すぎるということはないという気がします」

ドラゴン桜
(C)三田紀房/コルク「ドラゴン桜2」から

とはいえ、世間的に決められた通りに、この年代ではこれくらいのことができないといけない、学力はこの程度はないと……などと、つい大人としては考えてしまいがちなのだが。

「すでに常識とされている人生のレールに沿うことばかりをよしとするのは、ちょっと危ないのではと思います。すでにあるレールに頼りきってしまうと、レールがなくなったときにどうすればいいかわからなくなってしまいそうじゃないですか。頼みの綱がそれしかないようでは、逆に心配なのでは。

いまの日本は経済の停滞や人口減少などなど、不安な要素がたくさんありますよね。そんな状態の社会でよしとされているレールに乗っていて、安心な気分でいられるというのは、ちょっと危機感が足りないのかもしれません。頼るものを他にも築いておかないといけないんじゃないかということは、強く思います」

受験で「受かること」より「いま」に全力投球して

なるほど、ではその言葉を受けて、これから自分の道を踏み出そうとする人へ向けてのアドバイスは?

「いままさに関心のあること、好きなことに打ち込むのが一番じゃないでしょうか。日本の教育制度に浸かっていると、どうしても『将来のため』という考えに縛られてしまいます。

かつては僕もそうで、中学受験がすごくつらかったけれど、そのときは『中学受験すれば高校受験しなくて済むから』と周りにいわれました。でも高校受験はしなくても、結局は大学受験、就職とその先の目的が出てくる。すべてがその先の踏み台になっていて、何も残らない感じがしました。

そうじゃなくて、中学生のときは中学生としてやることに全力を捧げればいいし、高校は大学の準備のためにあるわけじゃない、大学は就職のためにあるわけじゃない。目的意識を持つのはいいけれど、いまを大切にすることを忘れてはいけないと思います。そうした『いま』の積み重ねによって、自分というものがつくられていくのだと、僕は信じています」

(山内宏泰)

ドラゴン桜

話を伺った人

日原翔さん

ミネルバ大学(Minerva Schools at KGI)の3年生

(ひはら・しょう)1998年5月13日、埼玉県生まれ。世界最難関ともいわれるミネルバ大学(Minerva Schools at KGI)の3年生。聖光学院高等学校を中退し、経団連の奨学金制度でカナダのPearson College UWCに2年間留学した後、2017年9月にミネルバ大学に進学。キャンパスがなく、4年間で7都市を移動しながらオンラインで学ぶミネルバ大学での体験を、メディアを通して積極的に発信し、日本の教育界に一石を投じている。ソフトバンク孫正義氏が未来を創る異能を開花させる目的で設立した孫正義育英財団の一期生にも選出されている。趣味はフリースタイルダンス。

『ドラゴン桜2』

作者は、漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したが、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。弁護士・桜木建二が生徒たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに、実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。雑誌「モーニング」(講談社)や「ドラゴン桜公式マガジン」(note)で連載中。

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