海外の教育事情

帰国生の中学受験事情、オンライン専門家庭教師に聞く コロナの影響に不安も

2020.05.18

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ゆきどっぐ
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保護者の海外勤務などを理由に、外国で暮らす子どもたち。令和元年度の「学校基本調査」によると、帰国後、私立中学に入学する子どもは全国に約3割、東京では約5割です。新型コロナウイルスの感染拡大によって、入試が予定通り行われるのかなどの不安もある現在。帰国生ならではの悩みを、オンライン専門家庭教師「旅する教育者」の木村公紀さんと、アメリカから日本の私立中学へ編入が決まっている中学1年生のHさん、父親のYさんに伺いました。

話を伺った人

木村公紀さん

旅する教育者 代表

(きむら・こうき)中学3年間をフィリピンのマニラ日本人学校で過ごす。帰国生入試・一般入試の両方を受験し、私立桐朋高校に入学。慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、人材教育会社や個別指導塾の塾長として勤務。生徒一人ひとりの「できない」を「できる」に変える教育をコンセプトに、2015年8月にオンライン専門家庭教師「旅する教育者」(https://tabisurukyouikusya.com/foreign)を設立。

海外在住の生徒が多く利用する「オンライン家庭教師」の魅力

――「オンライン家庭教師」を初めて知る方も多いと思います。どのような経緯で始めたのでしょうか。

きっかけは、私が中学3年間をフィリピンで過ごしたことにあります。日本人学校に通いながら現地の塾で学び、一時帰国で入手した参考書で高校受験に向けて勉強していました。しかし、海外にいると、なかなか自分の望む情報が得られません。特に志望校の過去問は、詳しい解説がなくて困りました。そうした経験から、場所や時間に制約がないインターネットで子どもたちに教えることを考えました。

また、従来型の画一的な教育では、子どもたちの「考える力」は育たないという危機感もありました。そこで、子どもと1対1で向き合う授業を通して、深い学びを伝えようと考え、オンライン家庭教師として活動し始めました。

――オンライン専門家庭教師「旅する教育者」では、どんなサービスを提供しているのでしょうか?

パソコンの画面越しに顔を見て話ができる「ZOOM(ズーム)」を使い、オンライン授業をしています。基本は1コマ=60分間の授業を行い、終了後に3分ほどの指導報告動画を作ります。この動画では、保護者と生徒に向けて、授業内容や良かった点などを伝えています。

生徒の約8割が海外に在住し、日本の学校への入学を目指しています。それ以外にも、国内在住の生徒や不登校の生徒に対する進学支援、自己推薦書・小論文の添削指導、教員採用試験対策などもしています。

――全国的な休校を受けて、オンライン授業を実施する学習塾や家庭教師も増えてきています。そうした授業と「オンライン専門」家庭教師の授業では、何が異なるのでしょうか?

一番は、経験上、オンライン授業の特性を知っていることでないでしょうか。オンラインで一方通行の授業をしても、なかなか生徒は集中し続けることはできません。生徒が集中して取り組むには、説明は最小限にして、生徒自身が考える時間や実際に問題を解く時間を増やすなど工夫が必要です。

また、生徒が考える時間を作ることで、思考力も育まれていきます。理想は、生徒自らが“問い”を立て、解決策を見い出せるようになること。ただ、最初は難しいので、「この公式は、なぜこうなったと思う?」と家庭教師が問いかけることから始めます。それを繰り返していると、徐々に自分で考えられるようになります。

――画面越しでしか生徒の様子が見えないと、指導が難しい面もありませんか?

確かにオンライン授業では、ごまかしが利く面があります。間違っている解答に丸を付けたり、テスト中にカンニングしたり。でも、それは生徒をよく観察し、質問することで気付けます。

そういう時には、「いま学習しているのは、目標の学校に合格するため。そこで大切なのは現状を知り、目標への道筋を明らかにすること。だから、『できない』『わからない』と言っても、僕は怒らない。むしろ、できないことをごまかさないでほしい」と伝える。

大切なのは不正を発見することではなく、生徒自身が自分の取り組みを見つめ直すことです。だから、あえて問い詰めず、自分のしたことは自分に返ってくると突き放して、振り返りの機会にします。そうして内省することで、生徒は正しく学習を進められるようになります。 

――ごまかしていても、怒らないんですね。

はい。生徒のごまかしたい気持ちは理解できますし、怒ってしまうとなおさら「できない」と言いづらくなります。だからこそ、「『できない』と言っても、怒られないんだ」という信頼関係を築くことが大切なんです。

木村公紀さん

海外と日本の学校を比べ、中学受験を意識する帰国生

――生徒のほとんどが海外在住とのことですが、どんな学校に通っているのでしょうか?

現地校やインターナショナル・スクールに通う生徒が多く、アジア圏や英語圏在住の家庭がほとんどです。

というのも、非英語圏の国には、子どもを連れていかないケースが多いため。非英語圏ではその国の言語、英語、日本語の3つを勉強しなくてはなりません。子どもへの負担が大きく、どれも中途半端に終わってしまう可能性があるのです。

ちなみに、昔は日本人学校に通うのが主流でした。僕自身もフィリピンの日本人学校で学んだ帰国生です。今の日本人学校は、二世が日本語を学ぶために通うケースが増えているようです。

――帰国生が中学受験を意識するきっかけは何でしょうか? 

海外と日本の学校を対比した結果、子ども自身が受験を選ぶことが多いです。 

一般的な日本の公立中学では、「This is a pen.」のレベルから英語の授業がスタートします。英語の習得に苦労したのは子ども本人ですから、それをキープしたいと思うのは必然です。その結果、ネイティブの教員が多く在籍し、帰国生向けの授業を行うなどの受け入れ体制が整っている、私立や国立附属中学が選択肢として挙がってくるのです。

また、ICTを活用した授業は、海外のほうが進んでいます。タブレット端末を使って、データで課題を提出したり、プレゼンテーションのためにパワーポイントを使ったり。そういう授業が好きな子どもには、環境の整った学校が魅力的に映るそうです。

受験勉強に遅れがあっても、時間があれば取り戻せる

――海外に住む家庭が中学受験に臨む際、どんなことに注意すべきでしょうか?

海外に暮らす方の多くは、帰国日が決まっていない状況だと思います。ですから、帰国のタイミングに合わせ、進学の認識を中学受験だけでなく、編入、高校受験などへアップデートする必要があります。

一般入試に加え、帰国生入試を実施する学校もあります。英語の重要度が高い一方、数学や国語などの科目では比較的易しい出題がされ、配点も考慮されるという帰国生に合った入試です。受験する生徒も多いですよ。

帰国のタイミングによっては編入も考えられますが、中学受験と比べて難易度は高め。また、欠員があれば編入学者を募集する学校の場合、そもそも試験が1ヶ月前まで実施されるかどうかわからないことも多いです。

編入試験では授業についていく学力があるかを見られます。私立中学では、学習スピードが速く、カリキュラムを前倒しして進めている学校も多いので、志望校に合わせた試験対策が必要です。

――特に現在では、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大によって、先の見通せない状況が続いています。旅する教育者を受講している家庭では、どのような不安や困難の声が上がっていますか?

受験を間近に控えている(特に9月編入を目指す)家庭だと、予定通り入試が行われるのかという不安がありますね。また、自宅で過ごす時間が急に増えたため、学習の進め方やスケジュールの立て方に困っているという声もあります。子ども自身も、家から出られず、友達と遊べないストレスを感じているようです。

――そうした不安や困難に対して、どのような対応が必要だと考えられますか?

現在は、保護者にとっても、子どもにとっても家庭が唯一と言っていい居場所です。家庭の居心地の良くするためには、まずは保護者の不安や負担を和らげることが大切。それが、子どもの安心感にもつながっていくと考えています。

また、休校はマイナスに捉えられがちですが、たくさんの自由時間がある現在は子どもが時間管理の術を身につける絶好の機会でもあります。

こうした背景から、旅する教育者では、個別面接を強化して保護者のみなさまの不安を伺ったり、「オンライン自習室」や「子どものためのタイムマネジメント特別講座」を無料で実施し、効果的な目標設定やスケジュールの組み方、振り返りの仕方などを伝えたりしています。

――家庭の居心地の良さを保ちつつ、自学自習の習慣づくりをしていくことが大切なのですね。これから帰国生として中学受験を目指す際、大切にするべきことは何でしょうか?

木村公紀さん

現在の状況では難しい面もありますが、赴任当初は現地の生活に慣れることを最優先にしてほしいです。子どもには、言語だけでなく、友だち作りや文化の壁が立ちはだかります。「海外の学校に通うのは嫌だ」という気持ちが強くなって通学がつらくなってしまったら、勉強どころではなくなります。まずは子どもの気持ちが落ち着くまで、見守ってあげるべきです。

学習面では、計算や漢字などの基礎を固めたり、教科書の音読をして日本語の文章に慣れておいたりするなど、できることからコツコツと勉強をしておくと、その後の伸びが変わってきます。海外の学校は日本と進度が違うので、日本の問題集を使って自学自習するといいですね。

現地の生活に慣れてきたら、日本の公立学校のカリキュラムから遅れをとっていないかを把握すること。判断軸として、補習校の授業についていけるか確認したり、模試を受けてみたり、日本の問題集を解いたりすることを勧めます。

もし、遅れていたとしても、取り戻していけばいいのです。帰国生入試は特殊算があまり出題されず、国語の読解問題の抽象度が一般入試に比べ低い傾向があります。そのため、小3から塾に通わなければ、間に合わないということはありません。

まずは自分や家庭でできることは独学で挑戦し、できない範囲はプロの力を借りるといいでしょう。

現地校に通ったからわかる、新しい環境での不安と楽しさ

小学3年生の12月から、アメリカ・ニュージャージー州の現地校に通うHさんと、父親のYさん。オンライン家庭教師の木村さんの授業を受け、私立中学の編入試験に合格しました。2020年4月から広尾学園に通っています。

海外の教育事情
ZOOMを活用して、授業を受けるHさん

――私立中学への編入を決めたきっかけは何でしょうか?

Y:帰国が決まったのは、2019年6月。息子が公立中学に編入して、学校になじめるか不安でした。帰国生入試を実施している私立中学なら、同じ境遇の生徒も多いだろうし、学校の先生方もフォローに慣れているのでは、と思ったことがきっかけです。

H:広尾学園は、アメリカの学校と同じで、タブレット端末を使って授業をします。好きな科目である理科で、実験をたくさん行うのも魅力的でした。学校のパンフレットを眺めているうちに、楽しみになっていきました。

――木村先生の授業は、いつから受けていますか?

H:9月からです。父が「旅する教育者」をインターネットで見つけ、木村先生と両親を交え、相談することになりました。その結果、広尾学園への編入を目標とし、編入試験まで残り期間と学習進捗を踏まえて、週に5コマの授業を受けることになりました。

現地校の宿題と両立するため、遊ぶ時間は減りました。でも、だんだんと慣れて、しんどいと感じることはなくなりました。木村先生の授業は、計算間違いを減らす工夫やノートの使い方まで指導していただけるのが良かったです。

Y:現地の塾へは、車で片道30分ほどかかります。木村先生の授業は送り迎えの必要がないので、ありがたかったです。

息子は自分から質問できるタイプではないため、塾で教わっていてもわからないところはそのままになっていました。木村先生には弱点のフォローだけでなく、学習習慣のつけ方まで教えていただきました。今後の人生を考えると、それが一番得られたものとして大きかったと思います。

――アメリカの学校に通って、大変だったことはありますか?

H:「トイレに行きたい」など必要最低限の英語力しかなかったので、授業についていくのが大変でした。だから、しばらくは現地校に通う日本人の同級生に助けてもらっていました。2年ほどすると、その子がいなくても、アメリカ人の友だちができるようになりました。

アメリカに来た時は「日本に帰りたい」と思っていたけど、友だちができるとその気持ちも少しずつ薄れました。最初は不安でも、慣れれば楽しい場面が増えていきます。

――新型コロナウイルスの影響により、全国的に休校が続いています。帰国後の現在の生活をどのように感じていますか?

H:まず、安全に帰国できて、ホッとしています。もちろん、学校のことを何も知らないまま、オンライン授業を受けることになったのは少し不安です。ただ、授業があるだけでありがたいですし、木村先生の授業でオンラインの学習は慣れていたので、問題なく学校の授業になじめました。

(撮影:辰根東醐 編集:野阪拓海/ノオト)

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