新しい教育のカタチを考える

「良い大学を出ても保険にすらならない」 EdTech時代に保護者にも協力してほしい学びとは?

2020.05.20

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多田慎介
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EdTechの大きな課題は、予算とITリテラシー

浅野 学校教育におけるEdTech導入の大きな課題は、予算です。公立学校においては、自治体と保護者で費用を折半する必要があると思います。ただ、現時点でも保護者は相当な額の学用品費を負担しています。そのため、学用品費の中身を見直して、予算を確保する必要があります。

工藤 ピアニカやハーモニカ、ランドセル……。そうした費用を見直せば、1人1台のタブレットくらいは買えるのではないでしょうか。学校だけでは変えられないことでも、保護者が一緒に動いてくれれば変えられるケースもあります。実際、麹町中では、保護者と生徒が主体となって制服を変えました。お金を負担する当事者が参加して、議論をするべきだと思います。

工藤勇一さん
工藤勇一・千代田区立麹町中学校前校長(現・横浜創英中学・高等学校理事/校長)

浅野 議論の中では、所得が低い世帯への考慮も必要です。現状の生活保護制度には「就学援助金」がありますが、ランドセルは対象でも、パソコンやタブレットは援助の対象外です。ただ、自治体の判断で要件は変えられるので、パソコンやタブレットを対象とするために動いている地域もあります。私は、文部科学省と厚生労働省が早く動くよう、働きかけていきたいと思っています。

佐藤 子どものITリテラシーも課題になるでしょう。自律してITツールの正しい使い方を学ぶ子どももいますが、大半はその入口にも立てないはず。そうした意味では、学校でITリテラシーを学べる環境をつくるのはもちろん、保護者自身も子どものITリテラシーを育むように接していただきたいですね。

佐藤昌宏さん
佐藤昌宏・デジタルハリウッド大学院大学教授

EdTechを学校現場に入れるのが目的ではなく、あくまでも手段の一つ

浅野  一般的に「良い大学」と言われる、偏差値の高い大学を卒業したところで、これからの世の中では保険にすらなりません。大切なのは「どこで学んだか」ではなく、「何を学び続けるか」でしょうから。

一方で、なんとなくはそのことを理解しながらも、自分の子どもが「良い大学」に行くことを望むのも親心です。「それでも、効率性を重視した受験勉強だけでなく、効率度外視で試行錯誤を重ねる探究的な学びの経験があったほうがいいんだ」とか、そういう点については保護者との合意を図ることも必要だと感じています。

工藤 麹町中は私が校長に就任してからの6年間で、宿題や服装頭髪の指導など目的が見えない取り組みを廃止してきました。それは浅野さんが指摘する通り、保護者との合意がなければ進められなかったことです。

「我が子をどのように育てたいか」は各家庭でバラバラですが、私はいつもシンプルな問いかけをします。「『自分で考え、判断し、行動できるが、テストの成績が悪い子』と『自分では何も考えられないが、テストの成績は良い子』。その二者であれば、どちらがいいですか?」と。

すると、ほとんどの保護者は前者を選びます。こうした対話を重ねていくうちに、保護者の認識も変化し、選ぶ手段が変わっていくのです。

浅野 工藤さんが掲げる「自律・尊重」という目的に向け、手段の再検討が始まっていくのですね。

工藤 はい。EdTechも同様で、学校現場に入れるのが目的ではなく、あくまでも、より良い教育に向けた手段の一つなのだと、強調したいですね。

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