失われた学びを取り戻す

休校中、大量の宿題に細かい時間割……保護者に負担、オンライン活用し個々のケアを

2020.05.18

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葉山 梢
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5月に入り、学校からの宿題が急に増えたという声を聞きます。家庭で学習することを細かく定めた「時間割」を配る学校もあり、プレッシャーに感じる保護者は少なくありません。新型コロナウイルスの感染拡大による休校が続く中、学校と家庭は子どもの学習をどのようにサポートすればいいのでしょうか。教育研究家の妹尾昌俊さんに聞きました。

話を伺った人

妹尾昌俊さん

教育研究家

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演などを手がけている。学校業務改善アドバイザー(文部科学省、横浜市等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員等を歴任。合同会社ライフ&ワーク代表、NPO法人まちと学校のみらい理事。近著に『教師崩壊』。Yahoo!ニュースに記事執筆中。

宿題を渡して「あとはよろしく」

――公立の小中学校に子どもを通わせる親たちから、学校からの宿題が最近増えたという声をよく聞きます。記者の小4と小2の子どもたちの宿題も、それまでは国語・算数のドリルだけだったのが、音読や作文、理科や社会の調べ学習、図工の制作、音楽の楽器の練習など、量だけでなく“質”も変わってきました。

わたしも4人(小3、小6、中2、高1)の父親でもありますが、先生方はさまざまな工夫をしてくださっていると感じています。ただ、大量の宿題に子どもも保護者も悲鳴を上げているという例も各地で聞きます。地域差や学校差、個人の感じ方の違いはありますが、4月に比べて5月の宿題が増えたと感じている親が多いようです。わたしは5月10~15日、小中学生の保護者にSNSで呼びかけ、休校中の宿題についてのウェブアンケートを実施し、551件の回答を分析しました。

下のグラフは、4月または5月における学校からの宿題のおおよその量についてです。子どものペースで1日どのくらいの時間がかかる分量かを聞きました(土日は除く)。4月と5月で比べると、公立小学校では、どの学年層も、5月のほうが分量が増えています。小学1~2年なのに1日2時間以上かかりそうな宿題があると答えた保護者も、約1/4に上っています。

宿題グラフ1

――子どもに1日何時間も勉強させないといけないのは、親にとってプレッシャーです。

学校としては、「勉強の遅れが心配」という保護者の声もあるし、よかれと思って宿題を多めに出したのかもしれません。教育委員会からしっかり出すようにという指示が来ているケースもあると聞きます。

休校中の学校からの宿題について保護者が行ったことの回答(複数回答可)を見ると、公立小1~4年の保護者では、丸付け・採点をしたのは約8割、わからないところを教えたり調べたりしたのも約8割に上るなど、保護者の多くが頑張っています。

なのに、先生からのフォローアップやフィードバックが少なく「宿題を渡して、あとはよろしく」になっているので、不満が高まっているのではないでしょうか。「休校中に、課題・宿題に関連して、学校(担任の先生ら)から何か働きかけはありましたか」(複数回答可)という質問に対し、電話、家庭訪問、メール等の「いずれも、とくにはなかった(課題を渡したあと、放置に近かった)」という回答が公立の小中学校については4~5割もありました。一人で勉強するのは難しい子も多いだろうし、手伝う保護者の負担も重くなっていることが予想されます。

では、どのようなフォローが必要なのでしょうか。「もっと学校にはこうしてほしいというニーズはありますか」という質問に対する回答(複数回答可)は、公立、国立・私立問わず「オンラインでの交流、双方向性のある授業などで、子どもの様子を確認などしてほしい」が最も多く、約半数でした。仮に学校が再開できたとしても、新型コロナウイルスの影響でまた休校になるかもしれないので、オンラインの活用は早急に進めていくべきです。

公立では「分散登校日などを設けて、子どもの様子を確認などしてほしい」という声もその次に多く、約3割の保護者が回答しています。地域の感染状況にもよりますが、短時間でも週1回でもいいから分散登校をして、子どもたち同士が交流したり、宿題の状況について先生からちょっとした励ましがあったりするといいだろうと思います。

――保護者の中には、家庭学習の成果が通知表や内申書の評価につながることを心配する声もあります。

宿題の状況がダイレクトに成績に響くかどうかは学校にもよるし、一概には言えませんが、4月10日に文部科学省が出した通知で「児童・生徒による家庭学習を学習評価に反映できる」 としたので、一部、評価の対象とする学校が出てくるかもしれません。学校からの宿題が増えてきている背景のひとつに、この通知があるように思います。

文科省の通知でいえば、休校中に教科書に基づく家庭学習を課すことや、児童生徒の健康状態を確認することなどを求めた4月21日の通知も問題です。「2週間に1回程度児童生徒の心身の健康状態を把握する」「毎日の学習計画表を作る」など、国が示すこととしては細かすぎます。国としては例示のつもりで書いているのでしょうが、こういう通知が出ると、教育委員会や学校は「やらないといけない」と思ってしまう。現場に近いところに裁量や人手、予算を増やして、もっと創意工夫し個に応じた対応ができるようにしてほしいと思います。

保護者は先生にはなれない

――記者の子どもの宿題の中にも、学習計画表が見本と一緒に入っていました。見本では8:15~15:15まで、学校の時間割のように教科と学習内容が決められています。見本通りにはとてもできそうにありません。

アンケートでも、公立小の約3割の保護者が「毎日の時間割が配布されることがあった」と回答しています。時間ごとにやることが細かく指示されていて、トイレや水を飲む時間まで決められているケースもありました。「朝9:00~9:45は国語のここの音読をやって、おうちの人に聞いてもらいましょう」となっていても、その時間、仕事や下の子の育児などをしている保護者も多い。「むちゃぶり」と保護者が怒るのは理解できます。

ただ、学校が示す時間割はおそらく「例」に過ぎません。必ず時間割通りに進めないといけないのかどうかは、学校に確認した方がいいでしょう。

保護者は先生の代わりにはなれません。海外の研究などを見ても、保護者の関わりは子どもが自律的に学ぶ上でむしろ逆効果になるというものもあります。アンケートでも「何度も怒鳴って家庭学習をやらせたため、親子の関係が悪化した」という声が多数ありました。保護者は子どもを「見守る」姿勢で、子どもが熱中できることをやらせてあげる環境作りに力を発揮すべきだと思います。

今からでも学校は、「宿題はムリにやらなくていいよ」と言ったほうがよいと思います。間違っても「評価に使います、内申書に響きます」とか脅して勉強をさせようとしては、どんどん主体的に学ぶことから遠ざかるし、保護者から子どもたちへのプレッシャーがきつくなってしまうでしょう。

――休校中の学校の対応には個人的にもがっかりさせられました。

「休校中の学校からのコミュニケーションや働きかけが少なく(または満足できるものではなく)、信頼感が下がったかどうか」について聞いたところ、公立小の保護者の約50%、公立中の保護者の約56%が「信頼感が下がった」というショッキングな結果でした。「もう学校、先生には期待していない」、「塾(または通信講座)を頼ります」といった記述もありました。

宿題グラフ2

公立校は予算が少なくインターネット環境が整っていないなど、個々の学校や先生方のせいではない問題、要因は多々あります。ただ、宿題を渡したきりではなく、やった状況を郵送、あるいは学校のげた箱入れなどに持ってきてもらって、ちょっとしたコメントを書いて返している学校の例もあります。オンラインでできれば効率的ですが、アナログでも工夫できることはあります。

学校からのアプローチがほとんどなく、子ども同士もつながっていない状況に、子どもたちは孤独を感じています。オンラインでも校庭で10分でもいいから朝の会や面談ができないものでしょうか。面談ができれば、宿題の量や質も個に応じて調節できます。ドリルより探究的な課題に向いている子どももいるでしょう。先生から個に応じたアドバイスがあれば、子どもの学習意欲も違うだろうし、保護者の信頼も高まることでしょう。学校には今からでも個々に応じたケアをしてほしいですね。

実は、学校と保護者・子どものコミュニケーション不足や、さまざまな習熟度や個性のある子どもたちに一律の宿題を出すことの是非は、コロナ前からの課題でした。今回の休校でより明るみに出てきたと言えます。学校が再開したとしても、学習者主体、学習者本位の教育にするためにできることを考えていく必要があります。

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