失われた学びを取り戻す

広島県教育長・平川理恵さんに聞く公立校のオンライン対応「スピード重視、『学びを止めない』で判断」

2020.05.18

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上野 創
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新年度、学校でのオンライン対応に向けていち早く環境整備に取り組んだ広島県教育委員会。リスクや問題点もあるなか、「できることから」「スピード重視で」取り組んでいるという平川理恵教育長に話を聞きました。(写真は、公立高校の入試制度改革で身につけてほしい力について説明する平川さん=2019年12月、北村浩貴撮影)

話を伺った人

平川理恵さん

広島県教育長

(ひらかわ・りえ)リクルート社勤務後、1999年に留学支援のベンチャー企業を起業。2010年4月から8年間、二つの横浜市立中学で校長を務めた。18年春から現職。

県立校の全生徒がグーグルのアカウント取得

――現在はどういう状況ですか?

広島県は公立学校の休業が続いています。県立学校では、すべての生徒がグーグルの学習支援サービス「G Suite for Education」のアカウントを取得し、何らかの形でICTを活用してオンラインで対応しています。

ただ、取り組み方は学校によってさまざまです。1日5時間、授業をしているところもあれば、朝の健康状態の確認はオンラインで顔を見てするけれど学習面は課題を伝えるだけというところもあります。学校の状況に合わせて活用している感じです。

朝からホームルームがあり、1時間目、2時間目と時間割があるというのは、生活のリズムや勉強のペースという点で良いようです。ずっとオンラインでつながっていなくても構わない。課題の提出とかチャットでのやりとりとか、学校やクラスの人たちとつながっていて、同じ時間に同じ教科の勉強をしている、というだけでも違う。

生徒たちとつながる方法の一つとして使うということでも良いと思います。

教室ではあまり話さない子が、チャットでは意外とたくさん書いてくるということも起きています。今の子たちは、書くことに慣れているというのもあるかもしれません。

【文中写真1】因島高校
県立因島高の授業を視察する=2019年7月(本文中の写真はいずれも広島県教委提供)

――環境整備はどのように進めましたか。

もともと、新型コロナとは関係なく、今年度から県立高校81校中35校の1年生はBYOD(個人保有の端末の持ち込み。この場合は「保護者負担でのパソコン購入」)でのパソコン配備に向け、昨年度から計画を進めていました。この4月には学校教育情報化推進課を新設して、現在、指導主事ら18人が配置されています。

その準備で、指導主事がG Suiteの研修を受けていたことは大きかったですね。

家庭と教師をつないでオンライン教育を進める上での「三種の神器」として、①パソコンやタブレット端末、スマホなどのデバイス、②WiFiなどの通信環境、③クラウドのアカウント、があります。3月2日から全校休業になり、4月からどうすれば良いかを考えていました。新年度になり、入学式や始業式の後、しばらく学校に通えるようになったところで、すぐに全県立校でアンケートをし、そうしたデバイスや通信環境が整っていない子どもが約1割ずついることが分かりました。

そうした子どもに対しては、端末やポケットWiFiなどを貸せるように、臨時議会で約8億8千万円の補正予算が決まりました。でも、買いたくても今は市中にモノがない。少量ずつでも早く入手するように職員が頑張っています。

それから、端末を持っている子も、ずっとつなぎっぱなしにしたり、動画を見たりすると、通信容量のギガ数が足りなくなるケースが多いんですよ。親も家でテレワークをしていたりして、通信を使っていますから。

広島県の県立校は4月16日から再び全校休業となりましたが、その後もどのくらいの発信なら容量の面で問題が起きないのか、先生たちが試行錯誤しています。5月末が近づくにつれて、容量が足りなくなることも起きてくるでしょう。各学校に大容量WiFiを複数台、配布しておき、生徒が端末を持って学校に来ればつなげられるようにします。

【文中写真2】御調高校
県立御調高の授業を視察=2018年5月

公平性、セキュリティーなどで異論も

――今回の件で反対の意見はありましたか。

デバイスがない、通信環境が整っていないという子どもが1割ちょっといますから、「公平性に問題がある」という意見はあります。そういう子どものために、貸し出し用のデバイスを大急ぎで調達していますが、すぐには行き渡らない。だからといって、オンラインでの対応をやめようという判断はしません。まずは「学びを止めない」ということを考えようということです。

例えば、40人のクラスで、操作も自分でできる子が15人、操作などにちょこっとケアが必要な子が15人、デバイスや通信環境がなくてスペシャルなケアが要る子が10人だとしたら、それぞれに適した対応をすれば良い。ある意味での合理的配慮として一人ひとりに適した方法を考えるしかないと思います。

それと、端末を持っていない子どもの中には、金銭面とか食事とか、ほかの面で助けが必要なケースがある。そういう場合は、学校が休業中でも学校のパソコンルームを使わせるという対応も考えられる。5月18日から自主的な分散登校を始めることにしましたから、そういう子は多めに登校するということもありかもしれない。広島県は去年からSSR(スペシャル・サポート・ルーム)を不登校ぎみの子ども向けにつくっています。コロナ時代のSSRとして活用し、個別最適な対応を考えることもできるでしょう。

ほかに、企業のクラウドサービスを使うという点では、個人情報とかセキュリティーとか、いろいろと意見や疑問の声はありました。ただ、私も調べてみたのですが、資金の投入の状況や他国での使われ方、セキュリティーの姿勢、無料で無制限といった点で、G Suiteの活用は良い選択だと判断しました。もちろん、国がもっと良いシステムを作ってくれるなら別ですが、それを待っていられないし、膨大な費用もかかるから無理だろうと思います。使える手段を検討し、やろうという判断をしました。

一方で、もちろんオンラインでの教育に向かない子どもがいること、オンライン教育で全てができるわけではないことも忘れてはいけないと思っています。

【文中写真3】ユネスコスクール
福山市立大学で開かれたユネスコスクール全国大会で講演=2019年11月

――小中学校の対応はどうですか。

多くはアカウントを子どもたちに配布している段階です。

県内の自治体に対しては、「県教委はICTを活用したオンラインでの対応を進めていきますが一緒にやりませんか?」という投げかけはしています。最終的には市町の首長や教育長によって判断はさまざまだと思いますが、「学びを止めない」というのはすべての子どもに対して必要ですよね。オンラインの対応のように、分からないことは怖いし、リスクもあるけれど、「いまやらないと」と私は思います。保護者が声を出せば市町も動きますし、対応しないことがリスクになっていくでしょう。

本来は、国で網羅的に進めてほしい。GIGAスクール構想は良いですが、スピードを考えると、できる範囲で自治体が動いていくことですね。県教委は市町教委の相談に乗り、助言もしています。

コロナ長期化で学校の役割が変わる

――オンラインが普及すると求められる先生のスキルはどう変わるのでしょう。

先生たちはゴールデンウィーク中も、G SuiteやZoomなどについて、一生懸命、勉強していました。日本の教師は真面目ですから、使いこなしていくと期待しています。

東京の私立高校に通う友人の子どもは、先生から送られてきた動画を1.5倍速で見ているそうです。その子は通常の速度だとつまらないんでしょうね。これからの時代、先生は50分の授業を5分の動画で説明することもできなくてはならなくなるでしょう。

また、英語のスピーチをする、ダンスのビデオを作る、論文を書く、といった「パフォーマンス課題」を出すときに、どういう観点で評価するのか、ルーブリック(目標達成度を評価するための基準を表にしたもの)を事前に明らかにする必要もあります。

授業の動画コンテンツを作るのは大事だけれど、ほかの人が作ったものを活用すれば済む部分も多い。先生の役割は、生徒に対して本質的な問いをきちんと出し、授業の主題に対して探究的に取り組む姿勢を育成し、一人ひとりの学びに向かう力を支えたり刺激したりするようにファシリテートする、ということになっていくと思います。

人との距離感や社会性の育成は、オンラインだけでは限界があります。話し合いや協働学習など、学校で顔を合わせることでしかできない授業をどう進めるか。それも先生の力量になります。

【文中写真4】広島叡智学園
県立広島叡智学園中学校を訪れる。全寮制の中高一貫校として開校したばかりだった=2019年5月

――新型コロナの影響は長期化すると見られます。今後については?

学校の役割は変わっていくはず。これまでは、教室へ行って、他の人と同じ時間に勉強することで学びが完結していた。だから、不登校の子は学校での学びには参加できなかったけれど、オンラインにシフトしていけば、登校しない子どもだって学べる。先ほど挙げましたが、「学びを止めるな」と「合理的配慮」という二つの観点が、これからの学校には必要だと思っています。

「アフターコロナ」は、子どもが中心の学びになっていけば良いと思っています。ある時は家でオンライン授業を受け、ある時は町に出て職場体験、ある時は地域でスポーツや習い事。そういう中で自分が何者かということを考え、自己認識と自己表現をしたうえで、社会へ出ていくというイメージです。

今はトランジション(移行)の時。そうやってポジティブにとらえていきたいと思います。

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