編集長コラム

百家争鳴の「9月入学」 議論を整理すると浮かび上がる究極の高3生救済策とは……

2020.05.26

author
市川 裕一
Main Image

「9月入学」をめぐり賛否両論が沸いています。朝日新聞EduAでも、議論のきっかけとなった現役高校生の思いに始まり、さまざまな教育関係者の意見を取り上げてきました。ただ、その間にも受験生に残された時間のカウントダウンは刻一刻と進んでいます。どうしたら長引く休校で受験勉強もままならない高校3年生を救えるのでしょうか。いったん議論を整理してみましょう。(写真は、早稲田大学の9月入学式=2011年)

ネットで発信した高校生たちにエールを

「9月入学は是か非か」。そんな連載タイトルで、この1カ月で計10本(5月25日現在)の記事をEduAウェブサイトで配信してきた。

始まりは、EduAの山下知子記者が書いた「新学期は9月スタートに! ネットで声を上げる高校3年生たちの苦悩」だ。ネット署名サイトで「Spring Once Again~日本全ての学校の入学時期を4月から9月へ!」と訴えた大阪市の公立高校生や、ツイッターで9月入学を提案した都立高校生らに話を聞き、大学受験を控えつつも授業を受けられない彼らの心の叫びをつづった。記事は多くの人の目にとまり、Yahoo!ニュースに転載されると同情するコメントが数多く寄せられた。

高校生たちの訴えに大阪や東京などの知事が加勢し、安倍晋三首相や萩生田光一文部科学相も「選択肢の一つ」として検討を表明するなど、9月入学はにわかに政治問題になった。その意味で、ネットで声を上げた高校生たちをまずは讃(たた)えたい。前回のコラムで、私が高校3年生のとき当時の共通一次試験への不満を新聞に投書した話を書いたが、いまはネットを使って世論に訴えかけることができる時代だ。ネット社会では匿名で心ない罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせられることもあるが、そのリスクを取りつつ世の中を動かした高校生たちの発信力は、率直に評価すべきだと思う。

「優先すべきはオンライン授業」の声

EduAウェブサイトではその後、計9人の教育関係者のインタビューを掲載した。おもしろいことに、9人とも9月入学そのものには反対していない。ただ、「今は緊急事態です。対面授業ができない状態が続いているし、司法試験など国家試験の実施も延期されています。100年に1度という緊急事態が起きてしまった以上、『人を育てる』教育も変えるしかないのです」と9月入学への即時移行を主張するのは開成中学・高校前校長の柳沢幸雄氏くらいで、あとの8人はもっと別のことを優先すべきだと述べている。

「別のこと」として多くの人が挙げたのが、公立の小中高校でもオンライン授業を続けられるようにするための投資や環境整備だ。東大教員時代は当時の濱田純一総長が提唱した秋入学に賛成だったという立教大教授の中原淳氏は「9月入学を議論するコスト、実現するためのコストをかけるのなら、今ただちに優先するべきは、アナログ・デジタル問わず、どんな方法を使ってもいいので、『子どもたちの学びをとめないこと』に注力すること」と訴える。『教育格差』の著書がある早稲田大准教授の松岡亮二氏も「日本のICT環境は先進国の中で最低水準です。9月入学論が、これまでの手抜きを不問に付すための煙幕になっていないでしょうか」と痛烈に批判する。昭和女子大附属昭和中学・高校校長の真下峯子氏は「今やらなければいけないことは、休校によって授業数が3分の2になった生徒の不安を取り除くことです」と話し、オンライン授業への取り組みの実情を明かす。こうした論に共通するのは、感染の第2波、第3波に備え、オンラインで学びを続けられるようにすることが最優先との主張だ。

いまの高3生に対する大学受験での配慮についても、さまざまな意見が寄せられた。教育社会学者で東大教授の本田由紀氏は「大学入学共通テストでは、高2までの内容の重点を高め、高3の学習分野の配点をやや少なくします。そして、『1点刻み』ではなく、どの程度習得しているかを『確認』します。『確認』にとどめるのがポイントです」と提言。各大学の一般入試にも従来のAO入試や推薦入試の選考基準を採り入れ、「1点刻み」入試からの脱却を訴える。”大学受験の生き字引”の異名をとる代々木ゼミナール教育総合研究所の坂口幸世氏は「出題、配点、2段階選抜について配慮するよう文科省が大学に指示する。できることは、それくらいしかありません。入試日程を変えると、かえって混乱を招きます」と、過去の事例などに照らしてきわめて現実的な見通しを述べている(現在は新シリーズ「コロナでどうなる大学入試」の1編として配信中)。

【文中写真】日本教育学会会長会見
日本教育学会(広田照幸会長)は5月11日、「政府に対して拙速な導入を決定しないよう求める」との声明を発表した

新着記事