学校再開でも焦らないで

不登校生に寄り添う西野博之さん「学校は子どもを追い詰めない対応を」 夏休み短縮に心配も

2020.06.02

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上野 創
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新型コロナウイルスの感染収束で、学校が再開されるなか、「不登校が増えるのでは」と心配する声もあります。川崎市で「フリースペースえん」を運営し、子どもの居場所作りを続ける西野博之さん(60)は「まずは子どもたちを安心させてあげて」と話します。

話を伺った人

西野博之さん

認定NPO法人「フリースペースたまりば」理事長、「フリースペースえん」代表、「川崎市子ども夢パーク」所長

(にしの・ひろゆき)1960年生まれ。80年代から学校になじめない子どもたちの居場所づくりに関わり、91年に川崎市高津区で「フリースペースたまりば」を開く。2003年、子ども夢パーク内に公設民営の「フリースペースえん」を開設。06年から夢パーク所長。文部科学省「フリースクール等に関する検討会議」など数々の教育行政の委員も歴任。神奈川大学非常勤講師。

大人のストレスが子どもに伝わる

――長い休校の後、不登校の増加を心配する声もあります。

私も学校が始まった後に不登校が増えるのではないかと心配しています。例年、夏休みの後は、学校へ行くことに不安を感じる子どもたちがいるのですが、今回もそれと同じような状況です。今回はさらに、ストレスを抱える大人たちが子どもの周りに多い点が気になります。

これから、経済的に厳しい人が増えるとも言われています。親がイライラしたり、自分や家族がうつされるのではないかと心配したり、といったことが今後もたくさんあるでしょう。

親と話していると、「子どもに勉強をがんばらせよう、遅れを取り戻させよう」という気持ちが強まっているなと感じます。「ほかの子との差が開いてしまったのではないか。これ以上広がらないようにしなくては」と感じている人もいる。

先生の中には、「さあ、学校再開だ。十分に休んだことだし、元気に楽しく頑張ろう」というモードの人や、だらだらさせてはいけない、気持ちを引き締めさせなくてはと思う人がいるでしょう。先生たちも、やはり焦りや負担感があるのです。

そういう大人たちのストレスは子どもに伝わります。学校が大好きで、行くのが楽しみという子や、元々、不登校で学校へはしばらく行かないと決めている場合は別ですが、特に、学校へ行きづらいと感じていた子どもには影響が出るかもしれません。保健室登校や別室登校のような「潜在的な不登校」の場合は特にきついと感じるでしょう。

学校再開でも焦らないで
昼食は子どもとスタッフで作り、みんなで食べる。弁当を持ってくる子も=2020年5月25日

学校再開で緊張する子どもも

――西野さんに寄せられる不登校関連の相談はどのような状況でしょう。

緊急事態宣言の期間中、「えん」も「原則として家に居場所がある子は自宅にいてください」と自粛の対応を取りました。フリースペースは「3密」になりやすいし、電車で通ってくる子もいるからです。それでも通ってくるメンバーはいましたが、人数は普段の4分の1以下でした。相談の電話も少なかったのですが、緊急事態宣言の解除のころから、不登校に関する親からの相談が増え始めました。いよいよ学校が始まる、ということで緊張感が高まる子どもが増えたのです。

実は、すでに不登校状態にあった子どもたちは、一斉休校になってからはずっと気持ちが安定していたようです。日本中の子どもたちが学校へ行かず、家にいるのが当たり前だったから、罪悪感を感じることもなく、安心して休めました。ある中学生の親御さんは「うちの子はこの期間中、すごく平和でした」と言っていました。

去年から不登校だったという子のお母さんも、「絶好調でした」と話していました。週1回、スクールカウンセラーに会いに学校へ行っていたそうですが、授業はないし、他の同級生はいないから緊張することもなかったようです。「安心して行けるなら学校へ行きたい」と思っている不登校の子は多いんですが、この子も再開の話題が出始めてから具合が悪くなってきたそうです。

それから、中学生になるとか、高校に通うとか、切り替えのタイミングで学校に通い始めようかと考えていた子どもたちも影響を受けています。「行ってみようかな」と思ったのに、新年度の開始が実質的に2カ月遅れ、肩すかしですよね。気持ちが切れてしまい、改めてどうしようという子もいます。

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