新しい教育のカタチを考える

理系に強い子の特徴は? 才能を伸ばすには? 科学才能教育学者・隅田学さんに聞く

2020.06.11

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中尾 真二
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AIやロボットによるイノベーションや小学校でのプログラミング教育の導入を受け、科学分野の教育が注目を浴びている昨今。子どもの理系の才能を伸ばしたいと思い、プログラミング教室や科学実験塾などに通わせている保護者も少なくないでしょう。今回は、理科・科学の才能を持つ子どもの特性を明らかにし、その才能を伸ばす「科学才能教育」の専門家に話を聞きました。

話を伺った人

隅田学

愛媛大学 教育学部 教授・附属高等学校 校長

(すみだ・まなぶ) 1970年生まれ、愛媛県出身。九州大学理学部卒業。広島大学大学院教育学研究科博士課程後期修了。米ジョージア大学教育学部客員研究員、広島大学教育開発国際協力研究センター講師、宮崎大学教育文化学部講師、愛媛大学教育学部准教授を経て、現職。2012-2013年英ケンブリッジ大学教育学部・ホマートンカレッジ客員研究員。専門は科学才能教育、理科教育。OECDPISA2015科学的リテラシー調査国際委員。英ケンブリッジ大学のKeith Taber氏と共に世界の関連研究者との協働により科学才能教育に関する3冊シリーズを編纂し、Routledge社より出版。「科学才能教育研究の開拓と国際学術協働の先導」の研究業績に対して、日本科学教育学会より2018年に「学術賞」を受賞。

小学生の段階で理系分野の才能を判断する必要はない

――そもそも才能教育研究において、理系分野の才能はどのように捉えられているのでしょうか?

そもそも才能教育研究において、一般的に「理系分野」といった「領域」を想定する考えはまだ広く認知されているわけではありません。

伝統的な指標として「IQ(知能指数)」が広く知られていますが、これは言語による影響を比較的受けにくいとされています。一方、近年の才能教育研究では、社会文化的な要素への関心が高まっています。理系分野の才能であれば、創造性や固執性、論理性、協同性などは重要に思います。

子どもが「理科が得意」といっても、理科全般が得意なのか、特定の分野や単元が得意なのか、実験観察が得意なのか、自由研究が得意なのか、あるいは、博物館など学校外の教育施設で強い興味や高い能力を発揮するのかなどさまざまです。また、幼い頃は理科嫌いでも、年齢が上がるにつれて好きになる子もいますし、早期の成功体験が足枷となって伸び悩む子もいるでしょう。

その意味で、まだ経験や知識が限られている小学生の段階で理系分野における興味関心が薄くても、才能がないと決めつける必要はありません。日本では目立たなかった子どもが、外国では才能児と認定されることも(またその逆も)十分考えられますから。

――国際的に見て、日本は理系を専攻する女性の割合が比較的低い傾向があります。性別による違いはあるのでしょうか?

STEM分野における学士卒業生の女性の割合
OECD加盟国における国際比較

確かにSTEM(科学・技術・工学・数学)分野において、日本の大学の学部生・大学院生共に女性が占める割合は、世界的な基準と比べても低いことが知られています。

ただし、それは科学才能に男女差があることに必ずしも直結するものではないと思います。PISAやTIMSSの調査においては、東アジアの国々の児童・生徒は理科や算数・数学の成績が大変高く、男女差も大きくありません。米国のAP試験(主に高校生を対象とした大学レベルの早期履修プログラムのこと。試験の成績に応じて大学の単位として認定される)でも、女子生徒の方が受験者数の多い理系科目はいくつもあります。

つまり、科学技術分野の才能については、文化的なジェンダー格差の要因が強いように思えます。そして、その根本的な原因はもう少し下の年齢期にあるように思えます。

私が取り組んでいる、幼稚園年長から小学2年生までの子どもを対象とした体験型科学プログラム「キッズアカデミア」では面白い傾向が確認されています。

キッズアカデミアでは、1つのテーマにつき3回×2時間の講義・実験を行います。例えば、「ヒトの体」がテーマの時は、聴診器で自分や他の動物の心臓の音を聞いたり、運動と体の関係を考えて実験をデザインしたりして、ヒトの五感について学びます。そうすると幼い子どもの関心はどんどん拡がって、自主的に聴覚や嗅覚が優れた動物の特徴を探したり、目が見えない人のための点字の工夫を調べたりする子どもが出てきます。

受講した子どもたちの追跡調査を行うと、「最後までやり遂げたい」などの自己実現の項目や「学んだことや発見したことを家族に話す」など科学学習に関する家族関係の項目について、男児以上に女児が高まったという回答がありました。まだデータが少ないので調査は必要ですが、幼い時期の女児への科学教育は重要に思います。

キッズアカデミア
キッズアカデミアの様子

才能教育の核心は、社会の中で個が輝き、尊重され、貢献し、共存するように育むことです。人も多様であるという点で何かしらの「差」はありますが、それは長い時間をかけてさまざまな経験を積み重ねながら社会の中で開花していくものでしょう。

従来の教育では、決められた「基準」に従ってナンバーワンになることを目指してきました。例えば、一般的なテストでは、配布された(答えが決まっている)問題をいかに速く正確に解くかを競うことで、有能性を判断してきたのではないでしょうか。

一方、才能教育では、子どもの興味関心や得意なものを伸ばしながら、オンリーワンになることを目指します。これからの社会で新たな価値を生み出すためには、独創的な発想や自ら行動を起こすことが必要となります。多様な背景や考え方の人と協働することも大切です。従来の弱点補強型の教育ではなく、その子どもが持つ個性や能力を伸長することによって、苦手な部分を含めた全体的な成長につながると考えると良いと思います。

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