『ドラゴン桜2』桜木建二が教える 2020教育改革

新入生に目立つ、ヒトとしての準備不足 ゴリラ学の山極壽一・京都大学総長

2020.06.12

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桜木 建二
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人間が育つときに大切なこととは何なのか――。ゴリラ研究の第一人者として知られ、2014年からは京都大学の総長を務めている山極壽一(やまぎわ・じゅいち)さんに、お話を伺ってきたぞ。ゴリラの生態をつぶさに観察するところから、人類の進化に思いをはせてきた山極さんの目には、毎年大挙して入学する学生はどう映るのか。

京大の新入生でさえ、身についていないものとは

これから学問の世界に身を投じようというからには、どんな心構えや能力を備えていてもらいたいと思うだろうか。

「大学生を預かる身からすると、大学に入るまでの初等中等教育でぜひ取り組み、身につけてきてもらいたいのは、『対話する力』と『読解力』のふたつですね。 

対話というのは、相手の言いたいことをその場、そのときに応じて直感的に把握して、自分の立ち位置を踏まえながらこちらの考えを伝えていくもの。いわばコミュニケーションの作法です。

一方、読解力とは、文章として書かれたものはもちろん、グラフ、数式など、人間が何かしらのかたちで表現したものを読み解く能力のことをさします」

ふむ、そのふたつの力、どちらも言葉にかかわる事柄だし、似たようなものなのでは? そう思ってしまいそうだが、山極さんに言わせれば、「それらはやっぱり別物なんですよ」とのこと。

「対話というのはその場の対応です。瞬時に身体や言語を運用して相手に自分がどう見えるかを把握しなければならない。とっさの修正力も発揮しながら、たがいの考えを調整して、新たな考えに行き着こうとする共同作業です。

読解力のほうは、相手が目の前にいるわけじゃない。書かれたもの、示されたものに対して自分がどう感応し、嚙み砕いていくかが問題となります。

このふたつは、きちんと分けて認識しなければいけません。そのうえで、どちらの力もしっかり養っていく。

大学とは本来、そのふたつの力を一応は身につけて、さあそこから本格的な学問の世界に入っていこうとする場です。

対話力と読解力を活用したり、擦り合わせたりしながら自分を確立していく時期なのですが、現状を言えば、入学時にそこまで準備が整っている学生は少ないんですよね」

対話力が不足で友だちができないと悩む学生たち

準備ができていないことに気づいたのは、入学してきた学生の多くが、共通の悩みを抱えているとわかったからだという。

「それは何かといえば、友だちができない、という相談が学校側に多く寄せられるんです。

ひとりでつらくて長い受験勉強を乗り越えて合格できた、そこまではよかった。それで、大学生になれば友だちがいくらでもできるだろうと思っていた、と。

でも、いざ入ってみると、同級生はたくさんいるのに友だちができない。そもそも友だちをつくる方法がわからない。そう悩んでいる新入生がたくさんいると判明したわけです。

そんなのは自分から相手に近づいて、友だちになろうという意思を表明すればいいのに。自分から動かなければ、誰も気づいてくれませんよ。

これは読解能力は身につけたかもしれないが、対話すなわちコミュニケーション能力が完成していないことの、最たる例ですね」

乳離れが早い人間は対話で社会性を育む

京大に入ってくる新入生に、コミュニケーション能力が足りていない例が多く見られるとの話があった。

これは人類学的に見ても由々しき事態だと、山極壽一京大総長は指摘してくれたぞ。

「私はゴリラの研究をしているのでよくわかるんですが、ゴリラの子どもと比べて人間は、非常に特殊な成長のしかたをします。

人間は離乳期が極端に長いんです。つまり、乳離れを急ぐ傾向にある。

ゴリラの子は4歳くらいまで乳を吸っていて、母親と密着して育ちます。

対して人間の子は1〜2歳で離乳し、母親との密着が早々に断たれてしまう。

そこから先は母親だけでなく、いろんな人と付き合っていかなくちゃならなくなります。いろんなかかわりを通して、自分が世界に受け入れられている実感を形成していく必要があるのです。

それが人間特有の社会性というものかもしれない。その際に大切となるのが、コミュニケーションです。

自分がどう世界に飛び込んでいってつながりをつくり、世界観や人間観を築いていくか。そこがうまくできないと、自信を持って成長することができません。

つまりコミュニケーション能力は、人が人となっていくためにぜひとも必要な力なのです」

思春期は対話でアイデンティティーを確立

もう少し成長してからも、コミュニケーションがひじょうに大切となる発達段階がやってくる。

「それは思春期ですね。人間は12歳あたりまでは脳の成長を優先させ、身体の成長が遅れます。12〜16歳くらいになると身体にもエネルギーが回るようになり、一気に成長が進みます。この時期に、脳と身体の成長バランスが崩れやすくなり、不安定になってしまう。それが思春期の正体です。

心身が大きく傷つくこともあるこの不安定な時期を、周囲の支えを借りながら乗り越えて、自分が何者なのかをはっきり悟り、自分自身のアイデンティティーを身につけていかないといけません。

そのためには、やはり他者とのコミュニケーションをうまくとっていくことが、必須となりますね」

なるほど、大人への階段をのぼっていく過程で、是が非でもコミュニケーション能力を身につけなければならないのが、人間という生きものの宿命のようだ。

次回も、山極壽一先生に「人間が育つときに大切なこと」について聞いていくぞ。

(山内宏泰)

ドラゴン桜2連載・山極壽一さん
山極壽一さん

話を伺った人

山極壽一さん

人類学者、霊長類学者

(やまぎわ・じゅいち)1952年、東京生まれ。人類学者、霊長類学者。京都大学理学部卒業後、京都大学大学院理学研究科博士後期課程研究指導認定退学。理学博士。日本モンキーセンター・リサーチフェロー、京都大学霊長類研究所・助手、京都大学大学院理学研究科・助教授、教授を経て、14年から現職。おもな著書に、『「サル化」する人間社会』(集英社)、『京大総長、ゴリラから生き方を学ぶ』(朝日新聞出版)『ゴリラからの警告「人間社会、ここがおかしい」』(毎日新聞出版)などがある。趣味は、リンガラ・ポップスを聞きながら踊ること。

『ドラゴン桜2』

作者は、漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したが、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。弁護士・桜木建二が生徒たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに、実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。雑誌「モーニング」(講談社)や「ドラゴン桜公式マガジン」(note)で連載中。

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