ハイスクールラプソディー

義足エンジニア・遠藤謙さん 沼津東高 「世界最速」つくって社会を変えたい

2020.06.18

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深澤 友紀
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来年の東京パラリンピックに向けて世界最速のスポーツ用義足の開発に取り組む遠藤謙さん。一般用の安価なスポーツ用義足づくりも進めています。遠藤さんを義足の世界へ導いたのは沼津東高校の部活動の縁でした。

――MITへの留学のきっかけは高校時代の後輩だと聞きました。

慶応の大学院でヒト型ロボットの歩行の研究をしました。この研究は将来、リハビリや義足など人間の歩行に生かせると思っていました。そんな折、仲が良かった高校時代のバスケットボール部の後輩が骨肉腫になって足を切らなければならなくなりました。「ロボットで歩くのではなく、自分で歩きたい」と言われ、彼のために足を作りたいと思ったんです。情報収集し、MITメディアラボのヒュー・ハー教授がロボット義足を研究していることを知り、留学しました。

義足の研究を始めたのは福祉的な動機でしたが、MITに行くと義足に福祉的な雰囲気がなく、テクノロジーがあれば、損なわれた機能を補うだけでなく身体能力を拡張することもできることに気づきました。ものづくりによって、どうにでも変わる余地があるのだと感じてとてもワクワクしました。

留学中に、南アフリカの両足義足の陸上選手、オスカー・ピストリウスが、義足で走ることが有利でないことを証明する裁判のためにアメリカにわたってきて、僕が所属していた研究室が測定したんです。彼の走る姿がとてもかっこよく、人間の新しい可能性を感じました。それをきっかけにスポーツ用義足にも興味を持ち、帰国後にスポーツ用義足を開発する会社、Xiborg(サイボーグ)を作りました。

未来に残る仕組みを作りたい

――なぜ世界最速の義足を目指しているのですか。

高校3年生のとき、大学への推薦入試でエッセイを提出したのですが、そこに「ものをつくるだけでなく、人間の安全や機能を高め、人間を豊かにするようなものづくりをしたい」ということを書いたんです。

いま、パラリンピックの100メートル走で金メダルを取れる世界最速の義足を開発していますが、高校時代の思いは現在の僕のものづくりにも続いているのかなと思います。

世界最速の義足を作りたい理由は、私たちは「足がない」というだけで社会的弱者だと思ってしまいますが、義足のアスリートがめちゃくちゃ速くなり、「健常者」の記録を超えたとき、「障害者とは何だろう」とみんな考えると思う。そうした社会変革を起こしたいからです。

トップアスリート向けの義足開発と並行して取り組んでいるのが、誰もが手に入れられる安いスポーツ義足の開発です。スポーツ用義足はカーボン製の板バネの部分だけで20~60万円ほどします。日常用の義足のように自治体の補助もなく、高価なため、走る機会のない子どもたちはとても多い。そこで、2017年にクラウドファンディングで資金を集め、スポーツ用義足を気軽に試着できる「ギソクの図書館」を作りました。初めて義足で地面を蹴る感触を味わった子どもたちはとてもうれしそうでした。でも、元の場所に義足を戻して帰る、その後ろ姿は寂しそうでした。

そこで、10万円を切る安いスポーツ用義足を開発中です。東京パラリンピックの先の未来にも残る仕組みも作りたいです。日本に下肢切断の子どもが約900人と言われていて、それぞれの都道府県に約20~30人ぐらいだとすると、各都道府県200~300万円の予算があれば希望した子ども全員が走ることができるんです。走ることの楽しさを世界中の義足ユーザーに届けられたらと思っています。

遠藤謙さん
撮影/小原雄輝

静岡県立沼津東高等学校
1901年に沼津中学校として開校。生徒会は自治会と呼ばれ、代議委員会(立法)、執行委員会(行政)、司法委員会(司法)からなる。日本ペンクラブ歴代会長17人のうち芹沢光治良、井上靖、大岡信と3人も輩出するなど卒業生が各界で活躍。
【所在地】静岡県沼津市岡宮812
【URL】http://www.edu.pref.shizuoka.jp/numazuhigashi-h/home.nsf

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