学校再開でも焦らないで

学習の遅れに焦り、夏休みは短縮、子どもに疲労も? NPOカタリバ今村久美さん 今こそゆるい居場所を

2020.06.18

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古川 雅子
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学校が再開されてもなお、新型コロナウイルス感染の影響は続きます。早くも、「子どもたちが疲れている」という声も聞こえてきます。誕生して約20年になる教育関連の認定NPO法人「カタリバ」を運営し、安心安全な子どもたちの「第三の居場所」を作り続ける今村久美さん(40)は「今は、“教育の遅れ”以上に大事なことがある」と話します。(写真は、「カタリバごはん」サービスでお弁当を渡す今村さん。今年6月から就学援助等の支援を受ける高校生以下のいる世帯に、家族分を月2回提供している)

今村久美さん

話を伺った人

今村久美さん

認定NPO法人「カタリバ」代表

(いまむら・くみ)1979年生まれ。慶應義塾大学卒。2001年にNPOカタリバを設立。高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。2011年の東日本大震災以降は子どもたちに学びの場と居場所を提供するなど、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。ハタチ基金代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム共同代表。中央教育審議会委員。

家庭内学習を継続する「積極的不登校」の兆しも

――東日本大震災の折、今村さんは宮城県女川町の避難所に寝泊まりして子どもの様子を見て回り、地元の人と深く交わりながら放課後支援施設の開設にこぎ着けました。そうした経験と比べて、コロナ禍の支援の難しさは、どんなところにありますか。

東北に支援に入ったときは、たくさんの方が身を寄せ合って避難所で生活していました。仕事も家も失った人が多数いらして。今思えば、それぞれの家族がはらむリスクを発見しやすいという側面はあったんですね。例えば、避難所で怒鳴り散らしているお母さんがいたら、つらい顔をしているお子さんに隣のお家の人が、おいでって声をかけたり。学習の支援が欲しいと思う子がいれば、また別の人がそばで見てあげたり。

コロナ禍でも、多くの人が仕事をなくしたり、仕事に影響を受けたりしたわけですが、緊急事態宣言下の自粛生活においては、もう、基本はみんなが家にいなきゃいけない。集う所での支援はNGだと。そこが大きく違う点でした。

カタリバ
カタリバは東日本大震災の後、被災地で子どもたちの支援として放課後学校「コラボ・スクール」を始めた。写真は、宮城県女川町の「女川向学館」で活動したときの今村久美さん=カタリバ提供

――オンライン上の学びと居場所を届ける「カタリバオンライン」を3月4日から開いて、今も続けています。小中学校の全国一斉休校開始の2日後と、初動が早かったですね。

毎日オンライン上でたくさんのプログラムが開催され、好きなプログラムにウェブ会議システムのZoomを使って参加できます。最初は数百人ぐらいが全国から集まり、そのうち登録する小中高の子どもたちが1800人にも上りました。

毎日決まった時間に「朝の会」と「夕方の会」を開きました。学校に行かないことで乱れがちな生活習慣を整えられたらと思って。オンラインによる学習会のほか、クラブ活動とか、文化祭とか、盛りだくさん。世界中からボランティアの方々が集まってくれて、子どもたちを主体にした活動を展開してきました。親御さんが働きに出ざるをえない家庭もあり、日中一人で過ごすお子さんが、「ランチ会」で画面に自分の昼ごはんを見せ合いながら食べているシーンも見られました。

保護者会も開いて親御さんとも話しました。3月の頃はまだ、週末は開催していなかったんですが、「うちの子は普段、学校がつまらなくて行きたくないと言って登校をしぶっていたのに、ここに参加してからは日曜日になると『月曜日が楽しみ〜』と言い出して、びっくりしました!」なんていう声もありました。

「カタリバオンライン」は、子どもたちが安全に参加できる場として開きました。「東日本大震災のときのように、今回も多くの家族が仕事をなくしてしまうんじゃないか」と真っ先に思ったからです。仕事や収入面で問題が起きると、大人の余裕がなくなり、家族との関係がギクシャクしてくる。もともと家族との関係がつらい子たちこそ、大変なことがいろいろ起きてしまうんじゃないかって。そうするとオンラインリテラシーの高い子なんかが、SNSなどを通じていろんなところに人間関係を求めてしまって、リスクのあるつながりを持つかもしれないと不安がよぎりました。

カタリバ
ウェブ会議システムで、朝の会、学習の時間、クラブ活動などの機会を提供しているカタリバオンラインの様子=カタリバ提供

――その後はどのような声を聞きますか。

一斉休校解除が見えてきた5月20日から22日に、カタリバオンラインを利用する保護者へのアンケート(回答者219人)を行ったところ、「学校が始まっても継続してカタリバオンラインを利用したい」と答えた人が84.6%にも上ったんです。家族が抱える悩みの大きなところは、経済と精神面の問題。利用者の20.5%が「コロナの影響で収入が減り経済的な不安がある」と答え、23.7%が「コロナの影響で家族が疲弊している」と回答しています。

さらに、こんな声もありました。
「学校が始まっても、集団感染が怖い」
「長期休暇で、子どもが『毎日行かなくてもいい』という経験をしてしまった」
「オンラインでも学びが続けられるなら、うちの子にはそれを選択させたい」

今でも感染の不安が消えたわけではありません。今後は、家庭内学習を継続する形で親子が「あえて行かない」選択をする「積極的不登校」というのも増えていく可能性はあると感じています。

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