緊急連載 濱田純一・東大前総長が語る「9月入学論」

第3回◆入学時期の検討は役員懇談会で静かに動き出した

2020.06.19

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EduA編集部
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4月下旬から浮上した「9月入学論」で必ず引き合いに出されたのが、10年近く前に大議論になった東大の秋入学構想だった。当事者である当時の総長、濱田純一氏が秋入学構想を振り返り、日本の大学や社会に求められることを語る。(聞き手・中村正史、写真は朝日新聞のインタビューに答える濱田氏=2011年8月)

【話を伺った人】濱田純一さん

話を伺った人

濱田純一さん

東京大学名誉教授・前総長/放送倫理・番組向上機構(BPO)理事長/映画倫理機構理事長

(はまだ・じゅんいち)1950年兵庫県生まれ。東京大学法学部卒、同大学院法学政治学研究科で憲法を専攻。法学博士号取得。同新聞研究所教授、社会情報研究所長、大学院情報学環長・学際情報学府長、副学長を経て、2009~15年、東京大学総長。

小さな手を打っても、国境を越えた行き来は進まない

――東大総長になって1年7カ月後の2010年11月に書いたコラム「初夢」(『東京大学 知の森が動く』収録)で、秋入学をほのめかした話を前回聞きましたが、秋入学構想はどのように動き出したのですか。

コラムを書く前の2010年9月ごろだったと思いますが、職員に学部の修業年限や入学時期に関する制度について調べてもらいました。それが具体的な動きの初めということになるかと思います。

秋入学という発想は、海外の研究者から折々に「どうして入学が春なのか」「秋入学にすれば学生の交流も楽になるのに」と言われていたのが、耳に残っていました。その時にはすぐに秋入学へという意識はなかったのですが、総長になる以前の副学長時代から学生の国際化の動きを見ていて、小さな手を打っていても国境を越えた学生の行き来はなかなか進まない、構造改革という発想に立って、システムとともに意識の大きな変化も生み出すような取り組みをしないと動かないのではないかと考え始めました。

また、2010年の夏以降、教育担当理事のもとで、科所長や学内委員会の委員たちへの意見照会を通じて実情を調査しながら、一つ一つの学部などでは対応できないような全学的教育課題の洗い出しを進めていました。そこには、教育改善や教育基盤の整備、教育の国際化、さらに学部などを超えた教育の連続化や統一化といった課題が含まれていましたが、これらへの取り組みのためには、大胆なアクションが必要だと感じたことも大きいですね。

年末ごろから秋入学に関する資料などを材料にしながら、理事たちと議論を始めました。理事メンバー全体として関わり始めたのはそこからです。

――事前に誰かに相談したのですか。

いえ、理事たちもこの時期に私の考えを初めて理解したと思います。とくに「とんでもない」といった反応はありませんでしたが、何しろ構想はまだ漠然としていますし、利害得失についてさらに具体的に検討することが必要だろうということで、秋入学についてタスクフォース的に論点を詰めていく懇談会を設ける方向に話が進みました。その上で、この懇談会設置の基本方針を役員懇談会に諮ったのが3月の初めです。そのすぐ後、学部長・研究科長や研究所長たちで構成する科所長会議という会議で、新年度以降の取り組みの一つとして、入学時期の在り方の検討に着手するという方針を示しました。旬日を経ず3月11日の東日本大震災が発生します。

――科所長たちの反応はどうでしたか。

3月の科所長会議は年度末なので、たくさんの議題が会議にかけられることもあってか、こうした方針について格別の意見が出されることはありませんでした。聞いているほうは、とくに切迫感を持って受け止めたということはなかったのかなと思います。

東日本大震災の発生とそれへの対応で、その後少し動きが止まりましたが、この方針を受けて、4月21日に「入学時期の在り方に関する懇談会」の設置要項が役員懇談会で了承されました。

この懇談会というものの位置づけは、いわば総長の私的諮問機関とも言うべきものです。その設置の趣旨には、「国際化に対応する教育システムを構想する一環として、将来的な入学時期の在り方について検討し、提言をとりまとめるため」と書いてあります。検討事項は、①現行の入学時期を前提とした教育システムの問題、②入学時期を変更することに伴う得失・影響、③将来的な教育システムの基本的な在り方、④その他入学時期の在り方に関する事項、となっており、学術企画担当理事(副学長)が座長、教育担当理事(副学長)が座長代理を務め、委員は各研究科の教授ら10人で構成していました。

この検討項目に見られるように、入学時期のあり方を巡る議論が、学事暦の変更だけでなく、東大における教育のあり方の見直しにもかかわってくるという問題意識がありました。

この懇談会の設置については科所長会議に報告され、翌5月末から懇談会の議論がスタートしています。

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