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九州大、約半世紀ぶりの新学部「共創学部」 異分野と異文化の融合が解決力を育む

2020.07.01

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鈴木 絢子
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グローバル化、気候変動、未知の感染症の出現。変容を続ける現代社会で、学問のあり方にも変化が求められている。その流れに応えるのが九州大に新設された共創学部だ。多角的な教育で、課題解決力に優れた人材の育成をめざす。(写真提供/九州大学)

2018年に創設された共創学部は、九州大にとって約半世紀ぶりの新学部だ。学部長の鏑木(かぶらぎ)政彦教授は、同学部の学びを「特定の学問の枠で学ぶのではなく、課題を見つけ、その解決のために学問をどう生かすかを考える」ものだと語る。

「例えばある学生が、食糧問題に関心を持ったとします。そうすると、それに関連して自然災害や貧困についての知識も必要になる。そのため、共創学部では、文系・理系も国境も超えた幅広い学びが必要だと考えているのです」

同学部では学生が学ぶ課題の領域を「人間・生命」「人と社会」「国家と地域」「地球・環境」という四つのエリアに分け、学生はそれらを横断しながら多彩な知識を身につけ。日本人の学生は1年以内の留学などの海外での活動も必須だ。入試方式に文系・理系の区別はなく、いずれも受験可能。帰国子女や留学生を対象とした国際型入試も実施しており、入学後はさまざまな志向の学生が一緒に学ぶことになる。「共創基礎プロジェクト」などのチーム型学習では、得意分野も国籍も違う学生同士がコミュニケーションを取りながら、多様なテーマへの理解を深めていくという。

共創学部の「新しさ」とは

同学部では決して斬新な学問ジャンルを学ぶわけではない。だが、いくつもの学問分野と発想の異なる人材が交ざり合うことで、これまでにない解決策が生まれる。学生一人ひとりの可能性を引き出す「組み合わせの妙」こそが、共創学部の本質だといえるだろう。

時代の要請もあり、「法学」「工学」のような従来の学問分野の枠を超え、課題解決型の学びを重視する学部を設置する動きは全国の大学に広がっている。そのなかで、共創学部にはどんな特徴があるのだろうか。

「100年以上の歴史を持つ九州大の教育資源を享受しながら新しい学びを経験できることは、この学部ならではの大きな利点です」(鏑木教授)

鏑木政彦教授
2020年4月から共創学部の学部長に就任した鏑木政彦教授。「レールを敷くのではなく、つまずいた時のフォローアップに注力したい」と語る

独自の環境で学生も教員も成長

学生たちの夢も多彩だ。政治家を志す学生もいれば、地域活性化に興味がある学生もいる。一方でまだ将来の見えない学生もいるというが、「18歳でやりたいことが決まっていなくてもいい」と鏑木教授は言う。幅広い知識を得られる同学部は、学びながら自らの課題を絞っていくことができるし、入学後にやりたいことや学びたいことが変わったとしてもそれを受け止めてくれる懐の深さがある

正解のない課題と向き合うことを求められているのは学生たちだけではない。鏑木教授たちも、自身が受けたことのない新たな教育の形に、試行錯誤を続けているそうだ。鏑木教授の専門は政治思想史だが、共創学部の授業ではこれまでにない教え方をしているという。

「政治に関する授業ひとつをとっても、法学部の学生に教えるのとはまた違う、横の広がりを意識した講義が必要になります。他分野の教員との協力も不可欠です。自らの専門領域に学生を引き込んでいくのではなく、専門の枠を超えて、学問と学問、人と人とを結び付けていくことが、この学部での教員の任務だと考えています」

「共創基礎プロジェクト」の授業風景
「共創基礎プロジェクト」の授業風景。それぞれに立場や役割を決めて意見を出し合うなど、積極的なコミュニケーションが求められる

前例のない環境で、実際に学ぶ学生はどう感じているのだろうか。台湾からの留学生であるチェン・アイリさん(共創学部共創学科2年)は創設1年目の新入生として18年10月に入学したが、「新しい学部への不安よりも、面白くなりそうだというワクワク感のほうが強かった」と話す。

「小さい頃から日本語の通訳になりたかったのですが、歴史や生物も好きでした。学びたいことのすべてが学べる文理融合のコンセプトにひかれ、唯一無二の学部だと思って入学を決めました」

留学生は1年間ドミトリー(学生寮)に入ることができ、住む場所が確保されていることも魅力的だった。

授業が始まると、その新鮮さに「それまでの考えを覆された」という。

「私は政治に興味があり、四つのエリアのうち『国家と地域』エリアに所属しているのですが、別の友人は福祉に関心を持っています。その友人と話していると、福祉と政治は関係ないものではないということがよくわかりました。高校生の頃の私だったら、他分野の情報は興味がないと切り捨ててしまったと思います。でもいまは、『興味がない』のは『知らない』からだと思うようになりました。この学部にいると、『知りたい』と思うことの幅が広がっていくのです」

共創学部共創学科2年のチェン・アイリさん
共創学部共創学科2年のチェン・アイリさん。約1年間のドミトリーでの生活を終え、2019年の夏から大学の友人とルームシェアを始めている

「想像以上」の新しい人材を

他分野を知ることで自分の分野にもフィードバックがあり、自分の知識が誰かのヒントにもなるかもしれない。チェンさんはそう考えるようになった。

「大学に入って、学ぶ楽しさや考える喜びに目覚めました。さまざまな国の人たちと接することで政治への関心も深まり、いまは大学院へ進学したいと思うようになりました。もっと勉強して、何か新しい形で台湾と日本をつなぐことができればと思っています」

タンザニアやタイの留学生と少子化問題について話したり、中国の留学生と政治哲学について話したり。もちろん日本人学生との交流もためになるという。チェンさんは、「知識を交換すること」にすっかり魅了されている。鏑木教授のめざす「人と人をつなぐ」共創学部の教育は、すでに実を結びつつあるようだ。

「学生たちが社会に出る頃には、求められる人材もより多様になっているでしょう。彼らが我々の想像を超えるような、新しい時代を担う人物に育ってくれるのが楽しみですね」(鏑木教授)

【大学メモ】

1911年に設立された九州帝国大学などを起源とし、47年に九州大学に改称。2018年、福岡市西区に国内最大級の広さを誇る伊都キャンパスが完成した。共創学部は67年の歯学部創設以来となる新学部で、学部学生数は318人(2020年5月現在)。募集定員は105人。

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