緊急連載 濱田純一・東大前総長が語る「9月入学論」

第4回◆本質的な争点は「ギャップターム」への反対だった

2020.06.29

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EduA編集部
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4月下旬から浮上した「9月入学論」で必ず引き合いに出されたのが、10年近く前に大議論になった東大の秋入学構想だった。当事者である当時の総長、濱田純一氏が秋入学構想を振り返り、日本の大学や社会に求められることを語る。(聞き手・中村正史、写真は秋入学について記者会見する濱田純一氏=2010年1月20日)

【話を伺った人】濱田純一さん

話を伺った人

濱田純一さん

東京大学名誉教授・前総長/放送倫理・番組向上機構(BPO)理事長/映画倫理機構理事長

(はまだ・じゅんいち)1950年兵庫県生まれ。東京大学法学部卒、同大学院法学政治学研究科で憲法を専攻。法学博士号取得。同新聞研究所教授、社会情報研究所長、大学院情報学環長・学際情報学府長、副学長を経て、2009~15年、東京大学総長。

「いまの18歳は未熟」という議論

――「入学時期の在り方に関する懇談会」の報告書が2012年3月29日に出され、4月23日には役員会の下に、理事や研究科長ら16人で構成する「入学時期等の教育基本問題に関する検討会議」が設置されますが、この頃から出てきた反対論とはどのようなものだったのですか。

反対の理由で本質的な争点になると思ったのは、「ギャップターム」のことでした。ギャップタームとは、3月に高校を卒業して9月に入学するまでの半年ほどの間に、知的な冒険・挑戦やボランティア、国際交流体験など、さまざまな体験活動をしてもらおうというものです。これは、ベルトコンベヤー的な隙間のない学習からいったん立ち止まって、大学で学ぶ目的意識の明確化や動機づけ、また留学などの素地づくり、さらには価値観のリセットなどの機会を持ってもらおうとするものでした。

しかし、多くが18歳くらいの若者に対して、入学まで半年間を空けることへの疑問や不安が、大学最初の2年間を教える駒場の教養学部の教員たちを中心に出てきました。この半年の間の身分はどうなるのか、学生は中ぶらりんになるではないか、昔と違っていまの18歳はひ弱になっているのでとても放っておけない、自分たちで自主的に考えて行動しろと言われてもどうしたらいいかわからない学生もたくさん出てくる、それは大学として無責任ではないか、といった意見がありました。「総長も一度、駒場に来て、新入生の18歳たちを見てください。とても自由にさせるわけにはいかないんですよ」とも言われました。

要するに、18歳の若者たちは未熟だということになりますが、教員たちのこうした心配は、実際の学生に日頃接しているだけに、真剣に受け止める必要があります。ただ、改革に取り組む時の姿勢としては、これまでにある若者の状態を当然の前提として議論するだけでは不十分です。その状態を是正していくために、いまの社会的環境や大人からの働きかけが最善であるのか、大きな視野から問い直してみることが大切だと思います。この点は、後ほどお話ししたいと思います。

このほか、せっかく大学で勉強したいと希望に燃えているのに、半年間勉強できないのは教育上よくないという意見、この間に学力が低下するといった懸念も出されていましたね。

――秋入学にする目的は、学生の国際化とギャップタームのどちらが大きかったですか。

「タフな学生」の育成ということでは目標は重なりますが、秋入学構想の当初は学生の国際化の方を強く意識していました。ただ、「入学時期の在り方に関する懇談会」での議論の様子も聞いている中で、ギャップタームの意義についての理解が私も深まって、2011年のうちには両方とも同じように重要だという考え方になっていたと思います。

高校を卒業し、学びの仕方や生き方についてさほど問題意識を持たないまま大学に入学して、そのまま卒業していく学生が多いのではないかと危惧していました。大学に入る前にいったん立ち止まる時間をきちんと持つ方がいいというのが私の考えでした。立ち止まると迷いや悩みも出てきますが、新鮮な発見もあります。試行錯誤もありますが、より広い世界の刺激を受け、自分に自信を持つことにもつながります。そうした「寄り道」の時間を持つことによって、余裕を持って自分に向き合い、前回お話ししたような、学生が抱えている課題を乗り越えていくためのきっかけが得られるはずだと考えました。

2013年から東大で開始したFLY Program(初年次長期自主活動プログラム)は、入学直後に1年間の特別休学期間を取得して、自分の選択でさまざまな社会体験活動を行うという、ギャップタームの先取り的な試みですが、これを利用した学生たちの成長には感動させられました。異なったものを受け止める感覚を身につけた、自分に自信を持った、失敗することを恐れなくなった、自分の意見をはっきり述べるようになった、などと報告しています。この活動は、任意でまだ参加学生もごくわずかですが、多くの新入生がそれぞれにとって有益な過ごし方をする潜在力を持っているはずだと思います。

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