学習と健康・成長
「YouTuberになりたい」と言われたら… 動画制作、リスクも学習効果も 保護者はどうする
2020.08.03

学研教育総合研究所の「小学生白書」(2019年)で小学生男子のなりたい職業ランキング1位となった「YouTuberなどのネット配信者」。一方で保護者が子どもに希望する職業としてはランクインしておらず、一部からは好ましく思わない声もあります。もしも子どもから「YouTuberになりたい」「動画を配信してみたい」と言われたら、保護者はどう向き合えばいいのでしょうか? 子ども向け映像製作教室「FULMA(フルマ)アカデミー」の中條武さんと、小学生のときにYouTuberデビューをした「1D&ゆーぽん」さん親子に、動画制作の学習効果やキッズYouTuberの実情、向き合い方について伺いました。
(ちゅうじょう・たけし) 東京大学卒業。障害のある妹をもち、障害者問題への関心から障害児教育の現場へ赴く。そこで教育そのものの重要性を知り、FULMAに参加。子どもたちに主体的な学びが持つ可能性を伝えるべく、活動中。
ネガティブイメージは徐々に緩和
――「FULMAアカデミー」では、子どもたちに動画制作を教えています。そもそも、動画制作にはどのような教育的効果があるのでしょうか?
動画制作の教育的意義は、“伝える力”が磨かれることでしょう。企画を立て、メッセージがきちんと伝わるように編集し、作品として仕上げて誰かに見てもらう。この流れの中で、子どもの自己発信力が身につきます。 学校では、子どもが自己発信する機会は現状あまり多くはありません。自分の発表する姿を見返すこともほとんどないでしょう。
一方、動画制作の過程では、何度も自分の姿を見返す必要があります。撮影動画を見てみると、「何を言っているか全然わからない」「滑舌が悪い」など反省点がたくさん見つかり、自分を客観視できます。そうして、制作→改善→制作の好循環に身を置くことで、子どもの伝える力が磨かれていきます。

――2017年に「FULMAアカデミー(旧称:YouTuber Academy)」が注目を浴び始めたとき、否定的な意見を持つ保護者も多かったように思います。現在、そうした反応は変わってきましたか?
そうですね。当時はYouTuber全般に対して、ネガティブな印象をお持ちの保護者が多数派でした。保護者が子どもだった頃にはなかった職業ですから、無理もありません。
しかし、3年経った今では、「なんとなくイヤ」という反応が徐々に薄まってきたのを感じます。「FULMAアカデミー」も、当初はお子さんの希望で来られるケースが圧倒的多数でしたが、去年から保護者主導で来られることも増えています。
――保護者の反応が変わってきたのは、なぜでしょうか?
人気YouTuberがテレビに出演したり、密着取材を受けたり……と、日常で目に触れる機会が増え、実際の活動内容が広く認知されはじめたのが主な理由でしょう。
YouTuberの活動は大きく“動画制作”と“ネット配信”の2つに分けられるのですが、認知が広がるにつれ「動画制作はOK、ネット配信はNG」と切り分けて捉える保護者が増えてきたように思います。

リスクとベネフィットは両輪で捉えて
――過去3年間、「YouTuber」は小学生のなりたい職業ランキングで上位に挙がっています。一方、保護者が子どもに希望する職業には、例年ランクインしていません。少しずつ保護者の反応が変わってきたとはいえ、まだまだ応援されにくい職業のように感じます。
「YouTuberになりたい」が応援されにくいのは、ある意味で“実現できそうな夢”だからではないかと思います。
たとえば、子どもから「モデルになりたい」と言われたら、「頑張ってね」と言える保護者はまだ多いのではないでしょうか。詳しい仕事内容がつかめず、安定している保証のない点では、YouTuberと同じであるにもかかわらずです。
決定的に違うのは、YouTuberの場合はスマホさえあれば、すぐに一歩踏み出せること。今や多くの子どもが自分のスマホを持っています。自分たちの知らないところで、リスクのある仕事をすることに抵抗を覚える保護者が多いのでしょう。
――保護者としては子どもを心配しているからこそ、インターネットの危険性を警戒するのでしょうね。
インターネットを利用する上で避けては通れない話ですよね。保護者だけでなく、学校の先生も強く気にされています。 FULMAでは毎回、授業の冒頭10分〜20分でネットリテラシーの講義を行なっているほか、全国の自治体や小学校で出張授業を行なっています。
学校の先生からは「ネットリテラシーを中心に教えてほしい」とリクエストをいただきます。「YouTuber講座が受けられる!」と楽しみにしていた子どもたちにしてみれば、ネットリテラシーの勉強ばかりで拍子抜けかもしれません(笑)。でも、大切なことですから、しっかりとお伝えしています。

――具体的には、どのような内容を扱うのですか?
まずは「インターネットとは?」など基本中の基本から始めます。そこから個人情報、プライバシー、著作権などの実践的な内容にステップアップし、終盤ではフェイクニュースや犯罪、ネット依存といった社会問題もカバーする構成です。
とくに最近は新型コロナウィルスに関連し、食品の買い占めやマスク不足など情報リテラシーが問われる事件が相次ぎました。授業ではこうした事例も交えながら説明しており、子どもたちにも重要性を理解してもらいやすかったようです。

とはいっても今の時代、危険性だけを強調するのもフェアではありません。インターネットには、気軽に世界中の人とつながれたり、自分の可能性を広げられたりする“よい面”も多々あります。過度に怖がって距離を置くのではなく、リスクを正しく認識して使いこなしてほしいなと思います。
――もしも子どもから「YouTuberになりたい」「動画を配信してみたい」と言われたら、保護者はどう向き合えばよいと思われますか?
子どもが何かを「やりたい」と言ったら、応援してあげたいのが保護者心理ですよね。でも、「YouTuberになりたい」という夢はどう応援していいか分からないし、リスクも心配になるでしょう。
だから、保護者のみなさまには、子どもと一緒にYouTuberについて学んでいただきたいです。頭ごなしに「ダメ」と言うのではなく、どんなスキルが必要で、どんなリスクが伴うのかを一度話し合ってみてください。
最近では新型コロナウィルス感染症の影響で、全国的にオンライン授業やテレワークが進んだこともあり、動画での発信スキルに注目が集まっています。遅速はあるにせよ、動画メディアの重要性は今後も高まっていくでしょう。
かつては、“オタク”のイメージと結びつけられがちだったエンジニアやゲームクリエイターも今や花形職業です。未来に生きる子どもたちの夢をぜひ応援してあげてほしいなと思います。