総合型・学校推薦型選抜に挑む
東大が「推薦」出願枠を増やし、異例のメッセージを出した理由とは? 武田副学長に聞く
2020.08.12

5年前に始まった際には「推薦で東大?」と話題になった東京大学の推薦入試(学校推薦型選抜)。合格者は定員の7割程度が続き、「そもそもハードルが高い」とも言われるなか、東大は応募者を増やそうと1校あたりの出願枠を増やすなどの「改革」に踏み切りました。新型コロナウイルスの影響による「応募控え」の心配もあり、公表されたばかりの入試要項では受験生や学校の背中を押す言葉が並んでいます。担当する武田洋幸副学長に話を聞きました。(写真は、7月31日に公表された学校推薦型選抜の入試要項と学部長メッセージ)
(たけだ・ひろゆき)1958年生まれ。東京大学理学部卒業後、85年、同大学院理学系研究科博士課程退学。理学博士。同大理学部助手、理化学研究所研究員、名古屋大学理学部助教授、国立遺伝学研究所教授を経て2000年から東京大学大学院理学系研究科教授。専門は動物発生学、発生遺伝学。小型魚類(ゼブラフィッシュ、メダカ)を用いて脊椎動物の普遍的発生機構を研究。副学長就任は2020年4月。
「女子や地方の学生が増加、多様性と優秀さには手ごたえ
――東大が推薦入試を導入したそもそもの狙いは?
学部教育の多様性を促進し、世界に貢献する学術のレベルを向上させることです。そのためには、学生の多様性が必要で、まず「入り口」を変えて少しでも、ということで2016年度入試から始めました。
一般入試でも多様な学生は入ってきますが、一定の成績をまんべんなく取ることが合格の条件。さらに、東大はリベラルアーツを重視しており、学生は入学後に教養学部で学ぶなかで自分の進みたい道を決めていけるよう、入り口で高い基礎学力を求めています。それだけでは学生の多様性の実現は難しいだろうと、推薦入試を採り入れました。
――東大の推薦入試は、どこの高校からも出願できますから、いわゆる指定校推薦とは違います。ただ、学校側の調査書も重視しているとのことですね。
非常に意欲のある生徒、早く専門性に目覚めた生徒、伸びそうな生徒を採りたいとなると、高校との連携が必要になる。校長さんや先生がどう見ているかを重視したいということで、学校推薦型、つまり学校長の推薦を重視した制度になっている。学校の評価を尊重したいということでもあります。
――例年、合格者数が100人の定員をかなり下回っています。これまでの結果をどう評価しますか?
定員100人は、昔あった後期試験の人数という歴史的なこともあるのですが、約3000人の入学者の中へ、多様な100人に入ってもらうことで刺激を与えたいと考えました。この春の入学までの5回で、結果はご存じのように定員を満たすことができず、70人前後で推移しました。今春も73人です。

もともと、5年で振り返って改善することを公言していて、卒業生が出たタイミングでもあるので、「推薦入試検討ワーキンググループ」を設定して検討しました。「推薦生(推薦入試で入学した学生)」「指導した教員」「高校」の3者にアンケートもしました。
教員側からは、推薦生について、総じて一般生より高い評価がありました。学力はもちろん、意欲や積極性、リーダーシップについては一般生より高いと。詳しく言うと、プレゼンテーション能力、表現力、社会に対する問題意識、協調性も高い。つまり5年間の評価として、推薦生は非常に優秀で、うまくいっているんだと。
――多様性については?
優秀さということに加えて、ジェンダーバランスと出身地の多様性でも成果がありました。女子学生の割合は、一般入試では目標の2割になかなか届きませんが、推薦入試では45%に上る。また、いわゆる首都圏、関東の出身者が一般入試だと6割を占めますが、推薦はそれ以外からの合格が6割ぐらいと逆転する。いわゆる地方の公立高校からも積極的に応募してもらっているということです。
