学習と健康・成長

スキルよりも先に、興味の探究を ものの見方を広げる「アート思考」

2020.09.28

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ゆきどっぐ
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東京学芸大学個人研究員として美術教育の研究に励む一方、中学校・高校の美術教師として教壇に立ってきた末永幸歩さん。作品づくりや美術知識を重視する従来の美術教育に問題意識を持ち、アートを通してものの見方を広げる「アート思考」に力点を置いた授業を展開しています。子どもたちにアート思考が必要な理由や声かけの仕方について伺います。

YUkiho_Suenaga

話を伺った人

末永幸歩さん

美術教師・東京学芸大学個人研究員・アーティスト

(すえなが・ゆきほ)東京都出身。武蔵野美術大学造形学部卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。同大学個人研究員として美術教育の研究に励む一方、中学校・高校の美術教師として教壇に立ってきた。著書に「『自分だけの答え』が見つかる 13歳からのアート思考」(ダイヤモンド社)がある。

自分らしさを軸にして 新しい価値や意義を作り出す

――そもそも「アート思考」とは、どういうものでしょうか?

アート思考とは、アーティストが作品を生む過程で行っている思考法です。言い換えれば、自分の興味・関心や疑問、好奇心を掘り下げて探究することです。

私自身、アート思考的な考え方の存在は、美大に通っていた頃に気がつきました。美術系の学生たちは、一見するとフラフラしていて、何をしているのかがわからないのですが、じつは彼らの中ではいろんな考えが渦巻いています。つまり、まだ作品という花は咲いていないけれど、探究してもがいている最中なんです。

そこで、美術で大事なのは、きれいな作品を仕上げることそのものではなく、自分なりに思考したり手を動かしたりする時間のほうなんだなと感じました。

――授業では生徒が自分の興味・関心を掘り下げる時間を大切にされているのですね?

そうです。「当たり前」とされている物事を疑って探究するアート思考は、これまでの学校教育では軽視されてきた力と言えます。

一方で、時代の変化に伴い、求められる能力も変わってきています。戦後の日本は解決すべき課題が山積していたため、正解を素早く見つける力が重要視されていました。

でも、これからは正解が一つではない課題やAIにより変わりゆく職業にどう向き合うかが求められます。そこで大切なのは、自分らしさを軸にして新しい価値や意義を作り出していくことです。

アート思考_1

――アート思考を学んだ子どもたちの変化は?

アート思考は結果を優先するものではありません。だから、1年後に子どもの創造性が何ポイントアップしたとか、わかりやすい結果は出てこない。もし短期的な創造性の向上を目指すなら、アート思考は向いてないかと思います。

アート思考は、自分自身に目を向けて、ゆっくりとマインドチェンジするような考え方です。例えば、高校1年生の授業でマルセル・デュシャンの「泉」と呼ばれる作品について解説しました。「泉」は、ただの便器にサインをしただけのもので、アートを視覚から思考の領域に移した作品として有名です。

そんな中、授業ではある男子生徒たちが相談し合った後、私のところまでやってきて、「作品を美術館に展示しようとしている時点で、結局はまだ視覚に頼った芸術ではないですか」と言いました。

彼らは授業で学ぶうちに、教員である私が話すことを鵜呑みにせず、自分の目で見て考え、疑問を持つようになったんです。これがアート思考なのです。長い目で見たとき、そうした考え方は仕事や人間関係などで役に立つでしょう。

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