コロナ時代の「留学」

留学は「質」が問われる時代へ 国を越えての単位認証などにも対応を 東洋大学・芦沢真五教授に聞く

2020.09.25

author
上野 創
Main Image

日本は政府主導で留学生の送り出しと受け入れの「数」を増やしてきました。数ばかり追っていて良いのかという意見も出ていた中、新型コロナウイルスの感染拡大で渡航はほぼストップ。人数の増加は難しくなり、本格的に留学の「質」を問われる時代になりました。一方、コロナ禍が落ち着くと、学生が国境を越えて学ぶ場を選ぶ時代になっていくと予想されています。そうなれば、学生が何を学んできたかを示す「学修歴」や単位取得歴を、大学側が国際的に通用するように認証することが必要になります。留学生政策に関わり、学修歴の認証制度にも詳しい東洋大の芦沢真五教授に話を聞きました。(グラフは日本人留学生数の推移。日本学生支援機構調べ)

【留学】芦沢真五・東洋大教授

話を聞いた人

芦沢真五さん

東洋大国際学部教授

(あしざわ・しんご)1957年、東京生まれ。96年、ハーバード大学教育大学院で教育学修士号。2013年から現職。専門は比較教育、国際教育交流。国の「大学の世界展開力強化事業」「グローバル人材育成推進事業」の審査員やプログラム委員などを歴任。一般社団法人「国際教育研究コンソーシアム」理事。東京規約ユネスコ・アジア太平洋地域会議委員。外国学修歴・資格の認証と電子化のための実証実験を推進している。

国の数値目標優先の政策 短期留学は増えたが……

昨年度まで、日本から海外へ留学する若者の数は年々増えていましたね。 

国が政策として留学を推奨した結果、確かに数は増えました。2013年の閣議決定で、2020年までに「倍増させる」とうたい、国は日本人の大学生の海外留学を12万人に、外国人留学生の受入れを30万人に増やす目標を立てました。受け入れはほぼ達成。送り出しについては短期留学に増加が集中しています(グラフ参照)。

10年ほど前から、「日本人の若者が内向き」という危機感を感じた経済界からのプレッシャーがあり、補助金を出すなどして、海外に派遣する学生数を増やすような政策が続いてきました。近年になって、量だけでなく質も重視しながら「大学全体で変革を」という認識に変化してきてはいます。ただ、「数」にこだわる部分は抜けておらず、まずは短期でもいいから増やそうという意識は続いていたわけです。こうした状況下で今回のコロナ禍が起こり、数値を目標にすることは一時的にできなくなり、国際教育は否応なく曲がり角に直面しています。

短期留学は良くないのでしょうか。

短期でも、海外の同世代の学生や教員と一緒に何かに取り組むことには大きな意味があると思います。相手と1対1でやりとりする機会を持つことで、海外の人と対等に議論や意見交換をしたり、調整して物事を進めたりといったスキルを身につけることは、短期であっても可能でしょう。

留学することの本質的な意味や価値を考えるために、他の研究者と協力して2014~15年、5千人の留学経験者を調査したことがあります。「GJ(Global JINZAI) 5000プロジェクト」(http://recsie.or.jp/project/gj5000)といい、留学は語学力だけでなく、「異文化に対応する力」「リスクを取り、チャレンジする意識」などの面で、効果があることが確認できました。

そうした効果が実現できる留学を検証してみると、飛行機もホテルも日本人の仲間と一緒で、日本語でおしゃべりをして、行った先でも現地の人とはほとんど会話をしないような「団体研修」は、大きな効果を期待できない。数値を上げることを目的とした団体研修は見直されるべきです。短期プログラムでも少人数で行き、現地の学生と協働ワークをするようなプログラムを企画してほしいと思います。

海外の大学とオンラインで連携 授業の相互履修や共同授業も

 ご自身の学部ではどう対応しようとしていますか。

もともと私たちの国際学部は、アジアなどでのフィールドワークやインターンシップなどを含め、多様な留学形態を重視してきました。今は物理的な学生交流ができないので、秋からオンラインで海外の大学との相互履修、つまり授業の「取りっこ」を始めます。東洋大学の学生が、海外の大学の授業を何コマか取り、相手の大学の学生と意見交換や協働作業をできるようにする仕組みです。先方がこちらの授業を取ることもできる相互履修で、新たな授業料は発生しません。

基盤となるのは、UMAP(ユーマップ、アジア太平洋大学交流機構)という交流促進団体です。22の国・地域から570以上の大学が参加し、東洋大が国際事務局を担当しています。この中で声を掛け合い、今年の秋学期はオーストラリア、チリ、インドネシア、日本、マレーシア、メキシコ、フィリピン、タイの計8か国18大学で授業のオンライン相互履修を始めます。学生は76科目から選ぶことができます。

 EU加盟国間では、域内での学生の移動が盛んで、「エラスムス」と呼ばれる学生交流制度があります。UMAPはそのアジア・太平洋版で、1991年にオーストラリア政府の呼びかけでスタートしました。今回のオンライン相互履修の企画では、学生はそれぞれの国にいながらにして、他国の授業に参加できるようになります。

 UMAPを基盤としたオンライン共同授業の準備も進めています。日本の大学の教員が、どこかの大学の先生と一緒に授業を作り、両方の大学の学生が参加して一緒に学習をする「COIL(コイル)」という仕組みです。例えば、私がいま担当している「移民と文化摩擦」の授業では、一部にフィリピンのデ・ラ・サール大学とマレーシア国民大学の教員、学生に参加してもらう予定です。先方の先生と一緒に、どう授業を展開するか、詳細を詰めているところです。

【留学】芦沢教授
テレビ会議システムを使い、打ち合わせをする芦沢真五・東洋大教授=2020年9月16日

リアルとオンライン、それぞれの留学の位置づけをどう考えますか。

学生たちが国境を越え、現地の人やほかの国から来た人々と同じ空間に身を置き、一緒に学び、議論し、寝食を共にするという「本当の意味での留学体験」は、バーチャルではできません。留学で「リスクを取ってでも挑戦しようとするマインド」が育つのも、現地へ行ってこそです。それができない弊害は大きいものがあります。

UMAPの枠組みで、相互履修、共同授業とともに考えている三つ目の取り組みは、オンラインと実際の留学を組み合わせた「ハイブリッド型プログラム」です。オンラインでの事前の協働ワークで仲良くなった後、実際に現地で対面で議論したり、一緒にフィールドワークをしたりする。帰国後も引き続きオンラインで共に学ぶ。こうしたやり方で、学びをより効果的にし、留学の質を高められると思っています。

 渡航が可能になったらということですね。

そうですね。ただ、コロナ禍が収まっても、以前と同じように戻るわけではないとみています。

これから世界的に景気が厳しくなり、渡航にコストをかけられない時代が来ます。「勉強ができて裕福な中間層家庭の子どもが、非英語圏から英語圏に留学する」という留学モデルは、以前ほど多くの学生を集められない可能性が高いと考えます。政府も高等教育機関も財政的に余裕がなくなり、奨学金が減り、長期留学する人が減っていくとしたら、世界はいっそうハイブリッドの方向に向かうと思います。ローコストでローリスクというオンラインの良いところを取り入れながら、リアルとバーチャルの「いいとこどり」を目指そうと思います。

考えている四つ目は、授業ではなく、学生自身が主導するバーチャルな会議です。8月末には東洋大学の留学生が中心となってオンラインで模擬国連を実施しました(https://www.muntoyo.com/)。模擬国連は国連の会議を模して、若い世代が今後の世界のあり方を話し合うものです。今後はそこに日本人学生も加わってくれるでしょう。こうした学生たちによる取り組みも増えてほしいと思います。

新着記事