コロナ時代の「留学」

留学は「質」が問われる時代へ 国を越えての単位認証などにも対応を 東洋大学・芦沢真五教授に聞く

2020.09.25

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上野 創
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学生が複数の国で学ぶ時代 遅れる学びの履歴の評価

感染が落ち着いた後に向け、取り組まないといけないことはありますか。

学生が複数の国で学ぶ時代には、学修歴や学位取得、成績などの認証を世界のどこで学んでもできる仕組みが必要になります。「この人はどういう教育を受けてきて、どんな能力やスキルを持っているか」をきちんと把握するためのものです。日本が、優秀で意欲のある留学生を集めようとするならば、この仕組みは不可欠です。しかも、世界的には紙ベースでなく、デジタル化していく流れになっていますが、日本は非常に遅れています。なんとかしたいと思っています。

【留学】

かつては、海外からの留学生が学位証明書を提出しても、本物なのか、その証明書が何を意味しているのか、大学側は簡単には分からない、という状況がありました。「アジアの国の夜店で、その国の有名大学の学位証明書が売られている」なんて話もありました。偽造を見抜いたり、本当に学んだ人の能力をちゃんと評価するにはどうしたらいいかということが長らく重要課題になっていたのです。

このような問題を解決する国際協定の一つとして、ユネスコと欧州会議が主導して1997年に承認した「リスボン協定」があります。ヨーロッパでは、学生がいろんな国で学んで学位を積み上げるのに加えて、多様な国から留学生が集まるので、リスボン協定に基づき、外国での学修歴や取得した資格を認証するための共通のシステムがあります。

米国は、多くの大学がこの認証業務を民間機関と連携して対応しています。オーストラリアとニュージーランドは外国での学修歴の認証を行うシステムが確立している一方、すべての大学が、共同して成績証明書や学位を電子的に管理するシステムを利用しています。中国、インド、シンガポールも電子化に対応した取り組みが進んでいます。海外の優秀な人材や留学生の履歴を評価するには、必要なシステムです。

日本はどうなのでしょう。

リスボン協定のアジア版が、2018年にユネスコが主導して発効した「東京規約」です。日本も加盟しており、国内外の高等教育資格を「公平に扱う」と世界に宣言したのですが、大学関係者の間でこの規約に関する認識が浸透しているとは言えません。

東京規約では、正規の学校だけでなく、ホームスクールなどで学ぶ「非伝統的学修」歴や、全課程を修了していない「部分的な学修」歴も認証すべきとしています。例えばアジアの大学で1年間勉強したら、単位を認めたうえで日本の大学の2年生に編入して学べるようにすることが期待されるのですが、日本の多くの大学では国際編入制度がありません。「悪いけど、日本の大学では通用しないから1年生からやりなおしてください」という対応になります。

そもそも日本では、「日本の大学へ入りたいなら、必ず来日して入試会場で学力審査を受けてください」という姿勢の大学が多いのです。定員制度が厳格すぎるということと、国際的な編入制度を持っている大学が非常に少ないのです。これでは優秀な学生は日本に来なくなると思います。

オーストラリアの多くの大学は1年中、入学審査をしており、書類を送ったら、すぐ審査を始め、早いところは2、3日で合否結果を教えてくれます。入学基準を満たし、「この学生はいい」となれば、すぐ入学を許可して「どうぞ、うちで勉強してください」となる。「次の入試の時期まで待って、入学試験を受けて、合格したら来てもいいですよ」という対応の日本との違いは歴然でしょう。しかも、海外では入学に必要な証明書類を紙で送らなくてもよく、電子データで対応しています。

オンラインの成績証明書だけで海外の入学希望者を審査するためには、日本の大学側も、専門知識をもつ学内の審査体制が必要ですが、多くの日本の大学はこの分野の専門スタッフが不在で、で教授会、入試部門、教務部門、システム担当者の連携が十分ではありません。コロナ禍が収まり、学生の移動が増えていったとき、今のような態勢のままならば、日本の大学で学ぼうと思う学生は少なくなるのでは、と心配しています。私たちの研究チームでは、この秋から5大学を対象に証明書電子化の実証実験を始めます。学歴や資格の認証がスムーズにおこなわれ、国境を越えて学生が移動しやすくなるような社会の実現に貢献したいです。

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