コロナ時代の「留学」

コロナ禍で注目 オンラインで海外とつなぐ教育「COIL」とは

2020.10.08

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上野 創
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新型コロナウイルスの影響で、海外と行き来する留学がストップするなか、以前からオンラインで国境を越えてつながり、学生に学びの機会を提供してきた手法「COIL」(コイル、国際協働オンライン学習プログラム)が注目されています。東京外語大の取り組みと、日本での先駆けとして取り組んできた関西大国際部の池田佳子教授のインタビューを紹介します。(写真は、SDGsをテーマに実施されたCOILプログラムの様子。複数の国の大学から約140人がオンラインで参加した=9月14日、池田教授提供))

渡航ができなくなり、にわかに脚光

「沖縄に米軍の基地が集中している問題で、移転は暗礁に乗り上げています。基地について皆さんの意見は?」

9月25日朝、テレビ会議システム「Zoom」で東京外国語大の春名展生准教授が英語で語りかけると、画面上の生徒が次々と発言した。

「人の住んでいない島に移すのが良いのでは」

「沖縄戦を体験した世代は、戦争が起きることへの懸念が若い世代より強い」

「実は、地元に経済的な利益をさほどもたらしていないのが基地の現実」

「自然環境が犠牲になる点も考えるべき」

 東京外語大の授業に、カリフォルニア州立大ノースリッジ校の学生も参加してオンラインで開かれた3日間の集中講義。「戦後の日米関係」がテーマで、学生たちは「米軍の沖縄統治」「冷戦中の日米関係」「冷戦後の変化」「対テロ戦争」などについて、事前に文献を読み、オンラインでレクチャーを聞いて理解を深めた。

参加した二十数人の学生は両大学の学生だが、出身地は日米だけでなく、ロシア、韓国、タイ、モンゴルなど多様だった。意見交換で、一部の学生たちは、それぞれの体験や出身国での出来事を交えて話していた。また、前の人の発言を引用したり、「違う見方ですが」と語ったりしながら、自分の意見を話す学生もいた。

この日の授業は約90分で終了。カリフォルニアは夕食の時間になっていた。

【留学】
昨秋、新型コロナウイルスの問題が起きる前に米国の大学とオンラインつないでCOIL学習の授業をする東京外国語大の春名展生准教授(左)=本人提供

 このように、オンラインで日本と海外の学生たちをつなぎ、協働しながら何かしらのプロジェクトに取り組んで学ぶ手法が「COIL」だ。「Collaborative Online International Learning」の頭文字を取った略称で、「COIL型教育」などとも呼ばれる。

2000年代にニューヨーク州立大が開発し、日本では2014年から関西大が始めた。文部科学省は2年前、「大学の世界展開力強化事業」として、主に米国との大学間交流をはかる9件のCOILの取り組みを採択。補助金を受け、各大学が取り組みを進めてきた。東京外語大も国際基督教大学と共同で申請して認められた。関西大は交流促進とは別に、「COIL型学習による新しい国際教育モデルのプラットフォームの構築」を担うことになった。

とはいえ、今春までは「やはり、現地に行ってこその国際教育」という考えが主流だった。文科省としても、留学生を増やす狙いでCOILに補助金を出していた。それが、新型コロナの感染拡大で海外との行き来ができなくなり、オンラインでの海外とつなぐCOILの手法は一気に注目を浴びることになった。

東京外国語大の春名准教授は「コロナ禍で留学できないからといって授業の中身やスタイルを変えるわけではないが、9月の授業に応募する学生が昨年の3倍になって驚いた。海外に出られないなかで、アメリカの学生とやりとりできるから注目されたのだろう」と話す。

「はだしのゲン」題材に日米の若者が議論

 2年前、春名准教授がまず取り組んだのは、漫画「はだしのゲン」の映画版を日米の学生に見せ、意見交換をする授業だった。初めてだったこともあり、連携したカリフォルニア大学リバーサイド校との事前のやりとりや準備は大変だったという。

また、「原爆の被害を描いた漫画を題材に、日米の学生がオンラインで会って意見を言い合う」という難しい試みだけに、意見の対立が先鋭化したり、ヒートアップしたりという心配もあった。結果的に対立的にはならず、学生からは好評で、教員としても手ごたえのあるものだったという。以来、日米の安全保障体制などを軸に、東アジアの国際秩序などもからめて、COILを活用した授業を続けてきた。

東京外国語大ではこのほか、別の教員が「文学や映像などのサブカルチャー」「ジェンダー」「震災文学」などのテーマでも、米国の大学と連携してCOILに取り組んでいる。

 COILの効果について、春名准教授は社会に出て役立つ力の習得を挙げる。

「見ず知らずの海外の学生とオンラインで英語で協働するには、すぐ反応する瞬発力や、前提を共有していない相手に論理的に伝える能力、話がどう展開しても対応できる柔軟性などが必要。COILは、社会に出て役立つスキルを実践的に鍛える場になっている」

また、春名准教授と共にCOILに取り組む福田彩特任助教は、「学生が安心して学べる良さ」を指摘する。「渡航して海外で暮らす留学の意義は説明するまでもないが、心理的な負荷が大きすぎて留学がトラウマになる学生もいる。海外で学ぶのは厳しいのが現状だが、日本から出ない守られた環境で、まったく異なる価値観の人たちと学び合う機会を持てることは、学生にとっても教員にとっても貴重だ」と話す。

 米国側の教員は、別の視点から意義を話す。

カリフォルニア州立大学ノースリッジ校で、日本語、日本文学、中国語などを教えているファン・ジュンリャン助教は、「費用の負担の大きさから留学ができない学生たちは、オンラインで意見交換できることをとても喜んでいる」と話す。

同校には、家庭が裕福でない学生も多く在籍している。経済的な理由から、留学はもちろん、旅行の経験も乏しい傾向があり、夏休みもアルバイト以外は、自宅周辺で過ごす人が多い。

時差の関係で授業の開始が夕方からになった点も、日中に学費を稼ぐために働いている学生が多いため、むしろ歓迎されたという。

「日本語や文学を学び、アニメなどにも興味はあるが、日本人と接する機会がほとんどないという学生もいる。そういう学生たちは、COILで日本に住む若者の考え方を聞いたり、互いにしゃべったりできたことをありがたいと言っていました」

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