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「文理分けは日本だけ」は本当か? 隠岐さや香・名古屋大教授に聞く

2020.10.21

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中村 正史
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関西の進学校を中心に、理系志望がこれまで以上に増えています。最近はAI(人工知能)やデータサイエンスが注目され、子どもを理系に進ませたいと考える保護者もいます。文系、理系に分けるのは日本だけと言われますが、本当でしょうか。どのような歴史的経緯で現在の枠組みができたのでしょうか。科学史が専門の隠岐さや香・名古屋大学大学院教授に聞きました。(写真は、女子の理系進学を後押しするため、立教大学理学部が女子中高生向けに開いたチャレンジラボ=2019年9月)

学部段階ではいろんな学問を学ばせるのがいい

――関西の進学校などで強い理系志望というのは、元々は医学部だったのですが、最近はAIやデータサイエンスが注目され、情報工学の人気が高まっています。

今はAIやデータサイエンスがひとり勝ちの感がありますが、情報科学が理系かといえば、文系の学問で情報科学を使うこともあり、文系、理系の枠には収まりきれません。いま大学では、いろんな科目で情報科学の知識を入れつつあります。情報科学は理系と、イメージを狭く持たないほうがいいです。

――先ほどのフランスの話の中で、優秀かどうかの物差しは数学ができるかどうかということでしたが、結局、分かれ目は数学ですか。

文系でも経済学は数学を使いますから、数学のできが文系、理系を決めることにはなりません。数学がどこまで大事かということがあります。数学が広く薄く大事になるのは間違いありませんが、その際に必ず深く学ばなければいけないという考えはなくなってきています。一部の国では、数学を物理や化学、あるいは生活の中の素材や統計的な対象の応用を通じて教える試みが進んでいます。高校でも深く学びたい人は「専門」科目とし数学を学び、他の人は数学的な論理をいろんな科目の中で学べばいいとなりつつあります。

数学ができるかどうかで進路を決めないトレンドも出てきています。国立大学でも文理融合学部をつくる動きがありますが、選択した課題によって数学の知識がどれくらい必要かが変わってきます。理学の数学と工学の数学は違うし、文系寄りの学生も入ってきます。受験の数学が、点を取るのが目的になっていることがよくないと思います。

――学部と大学院の方向性にもかかわってきますね。

日本では文理融合は大学院でという取り組みがありましたが、逆に考えるべきです。学部段階で交流させていろんなことを学び、大学院でとがらせたほうがいい。今は学部段階で早く分かれすぎて、その後も分かれたままになっているのが問題です。

東大や東工大では「後期教養教育」という概念が出てきています。理系で先行しており、学部4年間のうちに、専門の勉強をしながら、別のものを摂取するプログラムを始めています。大学院でも後期教養教育を行っています。

問題は文系です。まだ理系のようには進んでいません。とはいえ、文系、理系のどちらに進んでも、学部4年間で交流する動きは強まっています。

――日本では学部学生の8割近くが私立大学に在籍し、文系の学生が多いのが特徴です。

文系は私立大学、理系は国立大学が多いのですが、大学院になると欧米に比べて人文・社会科学は少なくなります。イノベーションを考えると、いろんな人材がいろんなところにいたほうがいいのですが、その状態にはなっていません。私立大学は文系の受け皿になり、国立大学ほどの助成がない。大学院では人文・社会科学が少ない。このいびつな状態は先進国では珍しいことです。文系の教育は考え直したほうがいいでしょう。

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