東大生と起業

第1回◆三菱地所を辞めて起業した29歳CEO「会社に残るほうがリスクではないかと思った」

2020.10.28

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中村 正史
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中央官庁や大企業にキャリアを託してきた東大生の志向が変わってきています。起業したり、ベンチャー企業に入ったりすることが、一つの選択肢になっています。東大の起業家教育やベンチャー支援を担ってきた各務茂夫・大学院工学系研究科教授(産学協創推進本部副本部長)は「優秀な学生ほど自分の運命をどこかに託すのは最もリスクが高いと感じている」と言います(記事はこちら)。東大卒の起業家たちを取材すると、日本の変化が見えてきます。

30歳でどれだけ世の中に貢献できているか

不動産テックベンチャー、estie(エスティ)の平井瑛・代表取締役CEO(29)は、東大経済学部を卒業後、三菱地所に5年勤め、独立して2019年4月から事業を開始した。会社は東大の本郷キャンパスにあるアントレプレナーラボに入居している。

「4年間、海外市場の不動産投資を担当しました。米国では商業用不動産テックのスタートアップ企業がたくさんありますが、日本にはほとんどない。日本ではオフィスは住宅と違い、大手不動産会社が情報を寡占していてIT会社が入っていけません。また情報がデジタル化されていないために、最新の情報にアップデートされていない。米国と随分、ギャップがあると思っていました」

オフィスビルのプレーヤーは、オフィスを借りるテナント企業、物件を持つオーナー、それに仲介会社の3者がいる。estieは二つのサービスを提供しており、テナント企業と仲介会社をマッチングする「estie」、仲介会社とオーナーのデータプラットフォームとなる「estie pro」がある。「estie」は、オフィスを探す企業がエリア、面積、坪単価などの条件を入力すれば、希望に合う物件が簡単に見つけられる。

昨年9月にサービスを開始して以来、「estie」の顧客は毎月40%増で伸び、約300社になった。「estie pro」の月次売り上げは、今年10月時点で3月に比べて約20倍になっているという。

「オフィスの選択は会社にとって大きな決定ですが、正しい情報が的確なタイミングで手に入らなければ、理想のオフィスを選べず、企業の競争力を削ぐ要因になります。自分のつくった事業やチームが、世の中にどんな影響を与えているかが、自分の中でずっと持ち続けている視点です」

栄光学園中学・高校(神奈川県鎌倉市)から東大に現役で合格。大学時代は起業のことは全く頭になく、アントレプレナーのプログラムも受けたことがなかった。ただ、ゼミの渡辺努教授(現・経済学部長)が起業経験を持ち、「大企業に行くのではなく、自分で事業をやってみなさい」とよく語っていたのが、起業に触れるきっかけになった。

会社をつくろうと思ったのは、三菱地所に入社して4年目の終わりごろ。当時26歳だった。仕事は面白かったし、待遇もよく、不満はなかった。だが、次のように考え、決断した。

「20代があと3年になって、自分はどういう仕事をしたいのかと考え、ゼロからビジネスを立ち上げてみようと思いました。このまま三菱地所にいれば安定はするが、30歳になった時にどれくらい世の中に貢献できているのか、その先の仕事のインパクトを考えると、会社に残るほうがリスクではないかと思いました」

estieが入居する本郷キャンパスの南研究棟アントレプレナーラボ
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